10 夜は警備が手薄らしい
カズトは刑務所の壁を見上げながら裏の方に歩き続ける。
「高いな、どうやって忍び込むか」
「カズちゃん忍び込むなら夜の方がいいわ、ここの看守たちサボリ魔だからすぐ寝ちゃうのよ」
「やけに詳しいな」
そう言うとリンイは軽く舌をだした。ここに昔お世話になっていた様だ。カズトはリンイの言う通り夜まで待つことにした。
日が暮れもうすぐ夜になるがそれでも刑務所に侵入するまではまだ時間はある。退屈な時間をカズトはリンイとのお喋りで埋めていた。リンイは女性の面が強い分もあって話題に事欠く事は無く、むしろリンイの閉じることのない口に耳が疲れ、それでも続くリンイの質問攻めにカズトは時間が止まったような感覚に陥っていた。
「それで結局カズちゃんは竜国まで何しにきたの? 不法入国?」
「……ああ」
「ちょっとカズちゃん真面目に答えてよ!」
笑いながら話すリンイはカズトが真面目に質問に答えなくても嬉しそうだった。
「ねえ、カズちゃんには帰る家ってある?」
「……あったらこんな所には居ないよ」
「そうよね、カズちゃん苦労してそうだものね、でもなんだかその分人生を丸投げしているようだわ」
「別に……人生が忙しくてさ落ち着くまもなく死ぬかと思うと」
カズトは小さなため息をつく。
「ねえ、カズちゃんはこれが終わったらどこに行くの?」
「魔国……かな」
「魔国? 神国じゃないの!」
少し間を置いてカズトはリンイの顔をジッと見つめた。するとリンイは照れくさそうに頬を赤く染め視線を逸した。リンイが赤く頬を染めたのが不覚にも可愛いと、そう一瞬でも思ったことに悔やみ気を締め直すように思いきりカズトは自分の太ももをつねった。
自分の素性をリンイに話そうと思ったが意外にリンイはいい人なので巻き込んでしまう可能性があるのなら言わないほうがいいのかカズトは悩んだがリンイには本当のことを話した。どういう反応をするのか気にもなったからだ。
「実は俺は魔国のスパイで、しかも魔国の王族でもあるらしい」
「えー! うそでしょ!」
リンイは笑いながらカズトの背中を叩いた。
ここまではカズトの想定していた反応だった。さらにカズトはズボンのポケットの一つから魔王のサインの入りの契約書をリウイに読ませた。
「……本物なの?」
「……本物」