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一人の王国  作者: ナベのフタ
第一章 魔国のスパイ
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9  侵入場所は刑務所

― 竜国 ―


「ちょっと、カズちゃん本気でこんな所に侵入する気なの!」

 カズトの腕を握り大声でリンイは驚きの声を上げる。


「静かにしろオカマ! あとくっつくな気持ち悪い」


「もうっ、オカマじゃなくてリンイって呼んでって言ったでしょ!」

 カズトは青ざめた顔でリンイを引き離そうとする。


「気持ち悪いんだよ、もう案内はいいからどっかいってくれ」


「ダメよカズちゃんは竜国は初めてなんでしょ。心配で放っておけないわ!」


「うっ……吐きそうだ」

 カズトは思わず口を手で覆った。吐きそうになったのはリンイがベタベタと触れてくる事もあったがリンイはオカマだと言われなければ気づかないほどの美人。さすがに吐きそうとまではならない。カズトに吐き気を感じさせたのは匂いだった。リンイからではなくその場所はものすごい悪臭が漂っていたからだ。


「きついな……この匂いは……」


「そうね、初めてのカズちゃんには鼻にくるでしょうけど慣れれば意外と平気よ」


「お前以外だな、臭いのとか嫌そうなのに」


「あら私は綺麗好きよ! 私の汚点はこんな貧民街の生まれってことぐらいよ」

 リンイは毛嫌う様に辺りの建物を見つめた。そこはほとんどの家が木材で建てられ塗装もせず辺りの家の壁には隙間や落書き下にはゴミだらけで昼間から通路の真ん中にネズミが往来するような所だった。


「カズちゃん、それよりどうしてあなたは刑務所なんかに忍び込みたいわけ?」


「あー、刑務所自体は俺の目的とは関係ないんだが、まあ仲間集めかな」

 カズトは目の前にそびえる大きな壁で囲まれた刑務所を見つめる。


「仲間? 警察に顔が効くの? あなた」

 リンイは嫌そうな顔をして目を細める。



「そんなわけないだろ、俺この国じゃ超犯罪者だから」


「まあ、超犯罪者ですって、当然のように自分で言っちゃう所が素敵! そうよね、国家の犬共なんかとカズちゃんが知り合いなわけがないわ!」

 リンイは嬉しそうにカズトの頬にキスをする。


「うおっ、止めろ! 投げ飛ばすぞ」



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