物書きさんに50のお題:11
11,ただ悲しくて
学園の講義が全て終わったというのに、体操服を着用しているという状況は如何なものか。
少女は自分の服を見下ろした後、はぁーと大きなため息を漏らした。
別に最後の講義が体育だったので着替えるのが面倒だったからとか、そんな理由ではない。
「災難だったね」
セーラーを着こなした親友が隣で笑う。
「……ずいぶんと他人様ですね? もとはと言えば貴女のせいでしょう?」
少女はムッと口を尖らせた。
この学園はすべての講義が終わった後に掃除をすることになっていた。
今日の掃除中、少女はいつものようにバケツに水を汲み廊下を歩いていた。そして角を曲がろうとすると、運悪く別の生徒が曲がってきて、そこでゴツンとぶつかり合ったのだ。
少女はバケツに波々と入っている水を、他者にかけてはならないと頑張った結果、物の見事に少女の制服だけが水を含んでしまったのである。そして空のバケツを体の上に乗せて、痛たた、っと尻餅を着いた少女に腕を差し伸べたのが、この親友だった。
「ごめんごめん。私もわざとじゃないんだよ」
「……疑わしいです」
手のひらを併せ、少し困ったような笑みを浮かべている親友を、少女は横目で眺める。
「別に、怒ったりしないので本当のこと言ってください」
「……なんかもう十分怒ってる気がするんだけどな……?」
少女に睨まれて親友は珍しく怯み気味であった。
「嘘じゃないよ。本当だよ。今回は本当に事故」
「……信用できませんねー」
「えぇーっと。じゃぁ私が何を言ったら信用してくれるのかな?」
困り果てた顔で親友。少女は間髪入れずに答えた。
「悪戯でやりましたって言ったら信用しますね。……しかしまぁいいでしょう。今回は本当に事故っぽいですね。……しかしだいたいなんで貴女はいつも悪戯ばかりするのです? それも私だけに……」
悪戯の程度は大小さまざまだが、少女はこの親友の企んだ悪戯被害に1日1回はあっていた。
親友は笑って誤魔化そうとしたが、少女は親友の立場が弱い今のうちに吐かせようと畳みかけた。
「貴女が悪戯をするようになったのは、だいたい1年生の後半くらいですよね?」
「……そうだね。たぶんそれくらいだと思うよ」
「私、何かしましたか?」
しかし親友は誤魔化すようにクスクス笑うだけだった。
「どうだろうね」
少女の頭に手を乗せて、よしよしと撫でる親友。少女は、うー、っとうなりながら、上目使いで睨んでいた。そのとき、親友の背後に置いてある時計に目がいった。
「はわ! もうこんな時間じゃないですか!! 大変です! 生徒会の仕事が! って、ですがこんな格好で行くわけには……いや、しかししかしサボる訳には!!」
ぴょんと飛び跳ねた少女は、ベランダに走る。
「今日は少し特別なケースだし、乾くまで待っても罰は当たらないんじゃないかな? それにキミは毎日欠かさずに生徒会室に言ってるのだから、一日くらいは——」
「——いえいえとんでもない! 会長さんが抜けているのは一目瞭然ですが、ああ見えて副会長の先輩も大いに抜けているのです!! だから私はいかなくてはならないのです!! むしろ先輩や会長さんが休んでも大丈夫ですが、私は休むわけにはいかないのです!」
干してあるセーラーを手早くかき集める少女。親友はそれを寂しげに見ていた。
「それではまた明日です!」
挨拶をして、少女は鞄と塗れたセーラーを抱えて走り去っていった。
走り去っていく親友の背中を、少女は黙って見送った。
本当は親友ともっと話がしたかったのだが、どうもそれは叶わないようだった。
「私が悪戯を始めた時期……」
それは去年の生徒会選挙からしばらく過ぎた頃から始まった。
生徒会に入りたいと言った親友の願いを叶えるため、少女は推薦人としてステージに上がり演説を行った。そんな思いでのある生徒会選挙だった。
「……ごめんね」
ぼそりと謝る。
親友がずぶ濡れになったことだけが、計算外だった。少女の予定では、2人仲良く濡れ鼠か、あるいは驚いた拍子に少女だけが水を被るはずだった。
そして服が乾くまでは、つまらない世間話でもしながら2人並んで待っているはずだった。
親友が生徒会書記になってから、2人で居られる時間はどんどんと短く成っている。
「……帰ろう」
少女はゆっくりと振り返る。
時期的に日が落ちるのが早くなってきているのだろう、校舎全体に夕日が鋭く差し込み、息を吸えば咽せ返ってしまいそうな濃厚なオレンジに染まっていた。
細長い廊下の向こうは、夕闇に飲み込まれて先が見えず、得体の知れない不気味さがあった。
少女は俯いたまま歩き始めると、やがては闇の飲み込まれて見えなくなった。
登場人物は、お題9からメインメンバーに加わった少女と、始めからいる少女……。ですかね……。




