とある男の序章
ある所に、とある男がいました。
男は潔癖症でプライドの高く、高潔な精神を持ち合わせておりました。
それは、まるで軍人の如く男の魂は誇り高いものでした。
男には、美しい妻がおりました。
強かで、でも穏やかな女性でした。
男は、妻を愛しています。妻も夫を愛しています。
絵にかいたような、なかむつまじい夫婦でした。
男には、互いに高め合う好敵手とも言える男がいました。
男は、その男が嫌いではありませんでした。むしろ、男の能力を評価していました。
同じスタートラインに立っていた男は、自分よりも高見へ登れることに憧れと、嫉妬の念を抱いていました。
いつか、自分も同じ高見へ登ることを夢見ておりました。
なんも不満もない、望んだ日常と生活を生きていると男は信じていました。
が
日常と生活。
表裏一体、同じ天秤に並ぶものだと思っていたが
現実は
日常と生活と一緒に天秤に並ばせるには、余りにも重いことに男は気づきませんでした。
その現実を生きるのに、男はあまりにも儚く弱かったのに周りも、自身すらも知ることは出来ませんでした。
男の妻は、子供を身籠ることが出来ませんでした。
果てや、先天性の病で若々しく美しかった体は爛れていきました。
妻は嘆き悲しみ、離縁を申し立てましたが男は聞き入れませんでした。
けれど、病を治すのに莫大な資金が掛かります。
男の懐では間に合いませんでした。
男と好敵手の男は、騎士道精神を持ち合わせていました。
けれど、その 二人は相容れぬ性質でした。
男は、文字通り一本筋でしたか好敵手の男は違いました。
好敵手の男は、騎士道精神を踏まえながら器用に裏社会の人間を利用しておりました。
男は、そのことを理解していましたが……体の関係には理解を示すことはなかったのです。
男は、妻を愛しています。
美しく健康な彼女に戻してやりたかった。
男は、好敵手の男に劣等感を抱いています。
能力では、自分の方が優れているのに。
そんな男は
ある日
当たり前で
単調な
日常で
生活で
視てはならない
触れてはならない
モノと
出会ってしまった
◆◇◆◇◆
それは、その日は死刑判決を下され囚人を追いかけていた。
蒸し暑い、サウナように湿気と熱気が立ち込めたよるとだった。
共に追いかけていた同僚や部下は、気が付けば私だけで追い抜いてしまったとを気付かされた。
暑苦しい熱帯夜だった、吹き付ける風すらもその日は不快なものになるだけだった、運の悪さか警備の怠慢さか護送中の囚人が逃走するという失態が起きた。
逃がすわけにはいかないと、追いかけた。
熱帯の空気が、酸素を奪い若いとも言えなくなってきていは体を蝕み、囚人を追う足取りを邪魔をする。
“忌々しいっ…”
私は思わず舌打ちをした。
囚人は倉庫が建ち並ぶ港へ逃げ込んだ。
私も後を追い、逃げ込んだと思われる倉庫へ滑るように入り込んだ。
何故だが、ふいに酸素が回らなくなったのか米神が傷み、脳が揺れる錯覚を感じた。
いい加減、年なのだろうか?
音を立てず
息を殺し
気配を断って
足を進める。
倉庫の電灯が時折、火花を散らすように点滅する。
息ぐるしさが増した気がした。
と、同時に人の気配を感じた。
赤い塗料を塗られた鉄箱の一角…。そこから、“いる”存在を感じた。
仲間を待つべきか?
だが逃げられたら?
これ以上の失態は、許されない…私は手に持つ銃のグリップを強く握り一角に近付き
身を乗り出した
そこで
私は
これは、とある男の物語
誇り高い精神と健全なる肉体を座右の銘にしていた男が
毒に犯され逃れない沼のような闇に堕ちた
クード・マッグ
という男の序章の物語、