電車はひたすら夜の田園地帯を走り続けていた。
最初の一文『電車はひたすら夜の田園地帯を走り続けていた。』(45分)
電車はひたすら夜の田園地帯を走り続けていた。
その電車に男は乗っていた。よれた背広姿に履き古された革靴、疲れきった雰囲気が手に取るように分かる。
数多くある空の座席に腰を下ろすことなく、変わっていく変わらぬ田園風景を疲れきった目で眺めていた。
カンカンと甲高い踏切の音が静寂を破り、そしてまたすぐに戻る。終点が近いと車内放送が言っているのを男が聞いているのかどうかは分からない。男は変わらず田園風景を眺め続けている。
ガタンと電車が揺れ、無意識に足に力をいれ踏みとどまる。電車の速度が遅くなっていく、それに合わせて揺れの間隔も長くなっていき、やがて止まる。
ドアが開き、男はプラットフォームに出た。酷く寂しいところなのだと、そう思った。だが、同時にこんな場所にだって駅があるのだと実感した。
男は反対側のプラットフォームに歩く。そこに終電の電車が入ってくる音が聞こえた。
どんなに変化がなくても、どれだけ不安で揺らいでも、きっと生きていける。だから男は日常に戻る電車に乗る。今度は確かに座席に腰を下ろして。