★封印された闇の女王★
人は皆、孤独を恐れ、闇に恐れる。
人も動物も、常に光を求めてさ迷う、哀れな生き物。
それは悪魔だって閻魔だって例外じゃない。
寧ろ我々の方が、誰よりも孤独で、誰よりも闇を恐れ、光に憧れる。
もしも…
光と闇。それ等が交わることも無く、常に隣り合わせで背を向き合っていたのなら…
孤独も闇も光も、全てを知らずに済んだのに。
妾は鏡に封印された哀れな闇の住人。
いつからだろう。
気づいた時には此処に居た。
何百年、何千年、何億年と生きている筈なのに…
長い長い眠りから覚めてから、今以降の事を何ひとつ思い出せない。
妾は過去の記憶まで封印されてしまったのか?…
誰が何の為に?
妾は鏡の裏側から、僅かに漏れた魔力を使い、鏡の中から外を眺めていた。
そう。
妾こそが、常に光を求めさ迷う、哀れな生き物だ。
「ファントム…」
その声で、その者『ファントム』は闇のように黒いマントで身を包み、顔には怪しげな仮面を付けた姿で煙のように現れた。
「お呼びでしょうか? 我等の主」
ファントムは腰を落とし、膝を立て、頭を深く下げて言った。
「妾はなぜ此処にいる…なぜ、妾は歳を取らない?」
鏡に封印された闇の女王は自分の両手を見つめてそう言った。
綺麗な透き通りそうな程白く、美しい若々しい手。
それは何万年も生きた、生き物の容姿ではなかった。
「それはこの鏡の結界のせいで御座います」
ファントムが女王に言う。
「妾は何者じゃ?」
女王は弱々しい声で言った。
長い眠りから覚めてから毎日、同じ質問を繰り返し、女王はファントムに問いかけた。
「貴女様はこの世界の女王で御座います」
ファントムもまた、同じ質問を同じ台詞で繰り返し答える。
女王は冷たい鏡の壁を触りまた聞いた。
「ファントム?」
「何でしょう?」
女王は悲しそうにファントムに言った。
「妾は…妾は……自分の名すら思い出せんのじゃ……」
その問いにファントムはいつも口を閉ざす。
「なぜ…妾はこの中にいるのじゃ?」
「それは……」
その問いをファントムはいつもの様に答えた。