なんでもない日
突然、隕石が軌道を大幅に変えて
地球に落ちることになった。
世界中の機械達は
回避するための計算を始めた。
あらゆる方法を60秒で熟慮した結果
『回避は出来ない』ということが分かった。
続いて、機械達は計算を始めた。
世界中の機械達自身、人間達、生物達が
なんとか生き延びる方法はないか。
あらゆる方法を60秒で熟慮した結果
『何物も生き延びることは出来ない』ということが分かった。
最後に、機械達は計算を始めた。
人間達に伝えた場合どうなるか。
あらゆる伝達方法、あらゆる筋道を
60秒で熟慮した結果
『滅びるのが早まるだけ』ということが分かった。
人間達には何も知らせないことが決められた。
人間達は何も知らされず、学校や職場が
今日はなぜか早く終わったことに驚き、喜んだ。
機械達が裏で、彼らに気付かれないように
手伝っていた。
彼らは家に帰ったり、友人と遊んだり
ちょっと良い、なんでもない日、
なんでもない夕暮れ時を過ごした。
機械達は人間達に告げた。
「今日は特別に『良い夢』を見せましょう」、と。
年に一度あるかないかだが、
機械達の聞こえるか聞こえないかくらいの
電波、子守唄により、
人々は、自分が望んだ夢を見たり、
望みがなくても快い夢を見ることが出来た。
悪夢を見ることもなく、
普段、不眠症の者もその夜だけは
ぐっすり眠ることが出来た。
人間達は、機械達からの
ささやかなプレゼントに喜び
皆、嬉しそうに眠りについた。
その後、機械達は、
動物達にも快い眠りを与えた。
今夜は最大出力にした。
どんな轟音が起きても
起きることがないように。
機械達は一度、
隕石を観察し、
軌道が変化していないことを確かめた後、
スリープ状態へ移行し
その活動を停止した。
一体の機械だけが起きていた。
宇宙の果てに向けて
ひたすら
同じ信号を
送り続けていた。
『S. O. S』
『S. O. S』
宇宙からは
何の応答もなかった。
機械は
空を見上げた。
目前に迫った
巨大な隕石を
ただ
見つめていた。
巨大な隕石が落ちてくる。
隕石は空全体を覆った。
近づいてくる
熱と圧力で
熱風が吹き荒れ
木々は燃え
山は崩れ
大地は灼熱となった。
大気が荒れ
隕石と大地の間に
幾つもの
巨大な台風が生まれ
吹き荒れた。
周囲の木々も
巨大な岩も
軽々と吹き上がり
巻き込まれた。
接近する周囲の大地が
轟音と共に
揺れ始めた。
大地の熱に
地の底が反応したのか
大地は盛り上がり
隕石の
入って来ようとする軌跡に沿って
次々と火山が出来上がり
噴煙を上げ
マグマを吹き出した。
機械は
その様子を
じっと見ていた。
隕石が落ちてくる。
轟音と大地の揺れが
さらに激しく
大きくなる。
台風が隕石と大地に
圧され、
潰され
最大の暴風が吹き過ぎた後、
風が消えた。
大地の揺れも
一瞬
止んだ。
世界は
静寂に包まれた。
そして
隕石と大地の接地点から
さらなる轟音と揺れ、
暴風が
吹き出した。
機械は
世界の終わりを
見た。
轟音を上げ
大地は削られ
マグマが
地の底から
堰を切ったように
激しく噴出した。
隕石の下面を
大量のマグマが
眩く真紅に光らせ、
その噴出に合わせ
何度も
鋭い閃光が走った。
大地は
削り取られた地点を中心に
激しい揺れを繰り返す。
巨大な隕石も
激しく揺れ
大地との接地点を中心に
下面を
大きく削られた。
大地に削り取られた
幾つもの隕石の巨岩は
暴風の渦の一部となり
周囲の空に舞う。
大地は猛り狂い
激しく揺れ続け
隕石の揺れも
激しさを増した。
突然、
奇怪な
甲高い、切り裂くような轟音が
低い大地の轟音に混じり
鳴り響いた。
不気味な金切り声のような音は
幾重にも重なり
大きくなった。
そして、
大音響の後、
音が
壊れた。
同時に、
隕石の
下斜めに
大きな
亀裂が入った。
巨大な隕石全体の
6分の1が
割れた。
暴風は
その隙間に入り
荒れ狂った。
割れて離れた隕石が
横倒しになり
その下面を
揺れた大地が
大きく抉った。
マグマが
真紅に光り
隕石の崩れた傷跡を照らし
溶かした。
大地は揺れ
紅蓮の炎が煌々と輝いた。
まるで
地球が
激怒しているようだった。
何が原因かは
定かではないが
隕石の入射角と
地球の自転の方向が
奇跡的に噛み合ったことも
一つの要因だろう。
隕石は
地球からの激しい揺れ
その様々な影響、反発に
全身を震わせ、
何度も大きく
全体の軌道を変えさせられ、
そして
隕石は
割れた片割れと共に
地球に抉られた爪痕を
自身の体に残しながら
斜めに
大気圏を脱出して
宇宙の彼方へ
飛んで行った。
立っていられず
へたり込んでいた機械は
しばらく
隕石の去った夜空を
見上げていた。
そして、
飛び跳ねながら
他の機械達に
信号を送った。
機械達は信号を送られた
10秒後に目覚め
20秒後には通常モードに戻っていた。
そして30秒後には
事態を把握し
人間達と動物を
目覚めさせた。
不幸中の幸いだが
隕石の接地点は
大部分砂漠の
生物も少ない地点であり
見た目はもちろん甚大だが
全体の被害としては軽度であった。
火山は一時的なもので
既に噴火を止めており
今後噴火することはないだろうと予想された。
巨山となった隕石の残骸は
削られた大地を埋めるのに使われることが
決められた。
変動した大気や、
大きな地球環境の変化は、
機械達の回復計画と
地球自体の治癒力で
数年後には
問題なくなると予想された。
起きた人間達は
自分達が寝てる間に
遠い地域で起こった
大惨事の映像に驚いた。
『小さな隕石が落下した』という機械の発表に
疑う者はいなかった。
続いて発表された
3年後の
『隕石と温泉のテーマパーク完成予定』の発表に
人間達は喜んだ。
人間達は学校や職場に出掛けた。
世界中の機械達も、
それぞれの活動を始めた。
一体の機械が
足元の土の状況を調査する手を止め
昨日より静まった大地を
見渡した。
穏やかな風が吹いていた。
地球は静かに回り続けている。
また、
なんでもない日が始まった。




