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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

chainmail

作者: miha-lay
掲載日:2026/02/24

春が落ちてきたのは、私が中学生の時だった。


姉は誰の目からも見て完璧な人間だった。地方で一番と頭の良い高校に入れば、県の課題で賞を取って、何度かテレビに映っていたこともあった。陸上の大会か何かを親と一緒に見に行ったことがあった。まだ幼い私に理解できる事は少なかったが、姉がいつも一番前にいた事は覚えている。


ある時、庭から大きな音がしたので、掃き出し窓から顔を覗かせると、そこには肢体が横たわっていた。私が見た時にはまだ暖かくて、そこからどんどん常温になっていった。自殺か事故かは判らなかった。今も判らない。



葬式を済ませた後、姉の周りにいたであろう人間は、そのうちに前を向いて歩き始めた。

両親は私に姉を重ねているようだった。同じような栄光を私に期待していた。姉の部屋はそのまま私の部屋になった。家から姉の痕跡はどんどん無くなっていった。それが意識的なものだったかは分からないが、両親が喜ぶなら私もそれでよかった。私は姉と同じ高校に入った。陸上を始めて少しの賞を取った。それを通過できたのは、姉と同じ血が流れていたからかとも思う。

当然、両親をうらんでいるわけではない。両親は姉を忘れて前に進もうとしているのだ。もう居ない姉を忘れていない自分こそ異常なのだと思う。……


ところで、よく補正された進路は、自分の手からは遠いところにあるように感じる。そういえば、姉に将来なりたいものなどは聞いたことがなかった。



ロールモデル理論によれば、物語の悪役というのは悪役の名前を持ってして生まれてくるのだという。

では私は、銘白夏という名前は、姉の後釜を負うのに善い名前だったのだろうか?


国語のテストはずっと苦手だった。最後の方には決まって「この人物の気持ちを答えなさい」と書いてあって、×を上塗って、解説を読んでも靄がかかったように理解できなかった。

この時、言葉の意味も文章の意味も、その核を真に掴まずただ上辺の模倣を繰り返しているだけではないのか?私の中に、私は本当に真っ当な人間なのか?という疑念があった。

姉ならここも完璧に答えたはずだ。そういう気持ちを、そのまま今日まで続けてきた。

人から空気が読めないなど言われる事はなかった。ただ口から出る言葉が、言葉の意味を真に理解せずとも出せる言葉という事は自分がよくわかっていた。



高校の教室の中央の席は陽の光がはいるかはいらないかというところで、姉もこの辺りに座っていたはずだ。姉と同じ視点で暮らせば、完璧だったあの脳の中身もいつか理解できるはずだと思っていた。


姉の陰にのほほんと暮らしていたかつての自分の眼と、見えるものは何も変わっていない。



結局、私は姉の紛い物に過ぎなかった。だから最後まで、姉の真似事でその気持ちを知ろうとしたのだろうと思う。……

だからもしこの文章を、名前を秋という人が読んでいたら、申し訳なく思う。

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