記録7
副長官への挨拶は済んだので、次は職員への挨拶だ。
「それで、職員の皆さんって…」
「あー、そうだった。リゼー!!」
ドアを開けてミカエラが叫ぶと、アンネリーゼが隣の部屋からひょっこり顔を出す。
「あ〜い、なに?」
「今日いるやつ呼んできてー」
「へ〜い」
軽い。ノリがあまりにも軽い。
アンネリーゼは上司にもあんな態度でいいのだろうか。いいのだろうな。ミカエラはそんな事を気にする質では無さそうだ。
しばらくすると、アンネリーゼが3人の職員を引き連れて来た。一人はゼノン、後の2人は…
「はじめまして…でもないかな、さっきぶり!エリンさん!」
「……。」
食堂で会った2人だ。名前を知っているということは、やはり最初から私の事を知っていたのだろう。
「さっきぶりです。改めまして、エリン・カランコエです。監査員として一ヶ月お世話になります」
「ご丁寧にどうも!私はイザベル、ベルって呼んでください!…ほら、ルクも!」
「…ルクス・トラデスカンティア。」
「それだけー!?もっとちゃんと挨拶しなよ!」
相変わらず仲の良さそうな2人だ。
「なになに、2人ともエリンと面識あったの〜?」
「食堂にいるとベルに伝えたからな、どうせ顔を見にでも行ったんだろう」
「あーそうなんだ。じゃあわざわざ顔合わせなくてよかったんじゃん」
「しかし副長官、最低限の礼儀として…」
こうして職員が一堂に介したわけだが、数が足りない。職員は全部で8人。今いるのは5人。長官がいないことを踏まえても2人足りない。
「あの、残りの方は…」
「あ、そうじゃん。ノアとレヴィは?」
ノア、レヴィ。どちらも愛称だろう。後で確認しておかなければ。
「ノアは任務行ってるよ!レヴィは…今日非番?」
「そ〜そ〜、今出かけてる〜。さっきメールで買い出し頼んだけど、そろそろ帰ってくるかも〜」
「買い出し?何のだ」
「歓迎会〜」
「はぁ?聞いてないぞ」
「今言った〜!」
「お前な…!」
歓迎会。自意識過剰でなければ恐らく私のだ。一介の監査員に歓迎会など開かれるものだろうか。他部署なら聞いたこともない話だ。というか必要ないと思う。
それに、今日だけでも色々あって何だか疲れた。まだ夕方にもなってない。早く帰れるなら帰りたいものだ。
「あ、あの…今日は挨拶で終わりだって聞いてましたけど…」
「いーじゃん歓迎会。やろーよ」
「でしょ〜?ほらゼノ、副ちょ~かんもそう言ってるし?」
「…はぁ、仕方ない」
「やっぱリゼの方で進めてたかー!準備終わってる?なんか手伝おっか?」
「や、もうだいたい終わってるよ〜。料理と飲み物はレヴィに頼んだし〜」
本人を差し置いて勝手に話が進んで行く。もはや決定事項なのだろうか。
ミカエラが肩に手を置く。
「待ってる間、何する?」
あぁ、決定事項なんだ…。
「…俺はパス。」
無言を貫いていたルクスが口を開く。
「えーなんで?ルクも来なよ!」
「興味ない。研究してた方がマシ」
「出た〜!外部人間絶対不歓迎奴〜!」
「うるさい、お前らのは騒ぎたがりだろ」
アンネリーゼとミカエラが肩を組んで喚く。
「騒ぎたがりで何が悪いんだ〜!」
「そうだそうだー!」
「副長官、リゼ、カランコエさんの前でそんな…!」
「うるせ〜堅物眼鏡、その石頭ごとかち割るぞ〜!」
「そうだそうだー!」
矛先がゼノンに向いた隙にルクスが部屋を出る。
「…とにかく、俺は不参加だから。」
「あ、ちょっと!…もう、ごめんなさいエリンさん。ルクってばいつも外部の人に冷たくて…」
「いえ、お気になさらず…!」
イザベルの謝罪に慌てて返す。もはや呪術庁には秩序の欠片も見受けられないが、イザベルはまだまともなようだ。
「じゃあレヴィが帰ってくるまで待ってましょ!長官とノアとルクがいないのは残念だけど…」
「仕事でしたら仕方ありませんよ、それよりイザベルさんは参加しても大丈夫なんですか?昼にお会いしたとき、昨日の夕方出て午前に帰ってきたばかりだって…」
「大丈夫です、明日非番なので!あ、あと、私のことはベルで大丈夫ですよ!敬語もいりません!エリンの方が年上ですし」
悪意0の言葉が刺さる。イザベルは22歳、魔法省勤務6年目。またもやダブルスコア。
「でしたら私にも敬語はいりませんよ。先輩ですし」
「じゃあ、お互いタメ口で!よろしくね、エリンさん!」
両手を握ってニコッと笑うイザベル…もといベルは本当に可愛らしい。春の陽だまりのような暖かさを感じる。今の所唯一の癒し。
「はい、ベルさん」
ふふ、と穏やかに笑い合う時間は、ドアをバァンと開ける音により終わりを告げた。
「リゼ!!アンタほんっとーに人遣い荒いんだから!!」
両手に下げた買い物袋に不釣り合いな美男子が、そこに立っていた。
怪談レストラン人気料理、ラフカディオ・飯




