記録6
一通り業務説明が終わり、副長官に挨拶することとなった。ついでに私の席を案内するとの事で、応接室から執務室に移動する。
執務室に通されると、中には一人の女性が立っていた。
「お、来た来た。案内ありがとゼノ、もう下がっていーよ。」
ゼノンが退出すると女性がこちらに近付き、手を差し出す。
「私はミカエラ、呪術庁の副長官してまーす。」
「エリン・カランコエです、一ヶ月間お世話になります…!」
握手を交わしながら挨拶を済ませる。
「あーいいよいいよ、そんな堅くならなくて。どうせ一ヶ月間だけだし、息苦しく過ごしたくもないでしょ?」
「で、ですがこれは監査で…」
「うちはいつもこんなんだからさ、監査された所で変わるわけないし。やっつけ仕事でいーんだよ。」
なんて適当な。そちらはそれでいいかもしれないが、私は良くない。真面目にこなさないと今後に響く。
「大体はゼノに説明されたよね?ここは執務室、エリンの席はあっち。」
「えっ…あ、はい…」
急に呼び捨てされたことに驚く。アンネリーゼでさえ段階は踏んでいた。
しかし相手は呪術庁副長官。対するこちらはなんの役職も持たない平の職員である。当然と言えば当然、先ほど職員のアンネリーゼに呼び捨てでいいと言ったのもこちらだ。指摘などできるわけもなく。
席は執務室の隅で、入り口に一番近く全体を見渡しやすい場所にあった。監査しやすくするためだろうか、そういった配慮はできるのだろう。なら距離の詰め方も配慮してほしかった。
「引き出しは鍵付きね、書類とかはここに入れておけばいいから。机は好きに物置いたり飾ったりしていーよ。皆そうしてるし。」
他の机を見るとなんとまぁ、個性豊かである。可愛らしい小物で埋め尽くされている机、書類が乱雑に積み重なっている机、よろしくない儀式でも始まりそうな机…。あのきちんと整頓された机は恐らくゼノンだろう。
チラリとミカエラの机を盗み見る。書類や資料はそれほど多くなく、小物がいくつか置いてある。全体的に暗めの色で統一されている…というより、書類以外に明るい色が一切ない。
「なーにそんな熱心に見ちゃって、えっち。」
「あっ!すすす、すみません!」
「あはははっ、気になる?」
「あ…いえ、その…」
「暗い色好きなんだよねー、私にピッタリじゃん?」
自分の髪を指す。肩まで真っ直ぐ伸びたミカエラの髪は夜空のように暗い。ルクスの色と同じだが、彼とは違いサラリと揺れ、艶のある黒髪は濡羽色と言ったほうが適切だろう。菫色の瞳は大きくパッチリとしている。身長はエリンより低く、強く抱き締めたらポッキリ行きそうなくらい華奢だ。一見して庇護欲をそそる美少女。
マグノリア王国は一神教だが、もし闇の女神なるものが存在していたらこんな見た目なのだろう。暗い色はたしかに似合うと思う。
しかし、呪術庁副長官なのである。
たしか年齢は23歳。そして入省が…
(資料見た時、ほんとびっくりしたなぁ…)
16歳秋。中途入省なのである。
魔法省勤務7年目、しかし実際の7年目より半年長く勤務している事になる。今年の秋には8年目突入だ。
(聖ニンファエア学園、高等部2年の秋中退か…)
若すぎる。アンネリーゼも18歳という若さで入省していたが、高校は卒業していた。中退ということは最終学歴は中等部なのである。せめて1年半待てなかったのか。あまりにも自由人過ぎるというか、行動力溢れすぎているというか…。
エリンより1歳とは言え年下、しかしこの差である。魔法省は年齢に囚われないとはいえ、あまりのキャリアの差に泣きそう。
「あぁ、そーだ。今週の土曜に長官来るんだけど、挨拶する?エリンは平日だけ出勤って聞いてるけど」
「あ、ぜひ!」
「おっけー、伝えとく。長官は基本的に土日しか来ないから、タイミング合わないとエリンとはろくに顔合わせないかもねーへへへ。」
へへへじゃないが。監査だって言ってんだろ。
記録6って地獄楽みたいな語呂してますよね。




