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記録5

 まさかあの二人が呪術庁職員だったなんて…。


 向こうは気付いていたのか、それとも単なる偶然なのか。

 イザベルは親しみやすそうだったが、ルクスは何を考えているのか分からなかった。もしかしたら、エリンが監査員だと知っていて探ってきたのかもしれない。

 いずれにせよ、今後一ヶ月はあの二人も監査する事になる。人となり…というか、職務態度についてはしっかり観察しなければ。


 そうこうしているうちに昼休憩も終わりが近付き、呪術庁に戻った。倉庫から庁内の変わりようには2回目と言えど面食らったが、そのうち慣れたいものだ。


「あぁ、カランコエさん。副長官は先ほど帰ってきましたが報告書の作成をしています。先に業務の説明を。」


 再び応接室に通され、ゼノンと向かい合って座る。


「どうぞ〜。エリンさんは紅茶派ですか?それともコーヒー派?好きなジュースとかあります?」


 紅茶を出しながらアンネリーゼが尋ねてくる。


「え?あ、えっと…私は…」

「おいリゼ、今は関係ないだろう。仕事に戻れ。」

「え〜?だってゼノ、笑顔の欠片も見せないじゃん。世間話の一つもできない男はモテないぞ〜?ねぇエリンさん?」

「余計なお世話だ。人前でその態度はやめろ。それにさっきから馴れ馴れしいぞ。適切な距離感で節度を持った言動を心がけろといつも言って…」

「エリンさんは炭酸とか飲みます?」

「聞け!!!」


 完全にアンネリーゼのペースに飲まれてしまった。先ほどまで無表情を貫いていたゼノンのこめかみに青筋が立っている。なるほど、苦労しているのだろう。

 話が進まないのでとりあえずアンネリーゼに答える。


「エリンでいいですよ、敬語もいりません。皆さん私より先輩ですし…」

「しかし…」

「じゃあエリンで!」

「リゼ!!!」

 叫ぶようにアンネリーゼを咎めるゼノンの声が響く。

「大丈夫ですよ…。えーっと、炭酸でしたっけ。飲みますよ、ジュースも好きです。コーヒーは苦手ですけど…」

「おっけぇ〜い、私はリゼでい〜よ。アンネリーゼって長いじゃん?」

「え、でも…」

「リゼ、仕事に戻れ!!!」


 ダンッとゼノンがテーブルを叩く。透き通った赤茶色をしたカップの中身が揺れる。


「怒んないの、眉間にシワ」

「誰のせいだと…!」

「このシワ深いね、魔法対応局とウチとの溝みたい」

「本物の溝に突き落とすぞ」


 エリンを置いてけぼりにして二人が言い争う。争うと言うよりかは、アンネリーゼの奔放さにゼノンが怒っているようだが。

 エリンの前では感情など1ミリも見せないゼノンが、アンネリーゼの前ではこんなにも感情豊かとは。豊かというより怒りの感情が脳内を占めていそうだが。

 ポカンと見つめていると、ゼノンがはっと我に返る。


「申し訳ない、取り乱しました。リゼ、お前さっきまで別の事をしていただろう。戻れ。邪魔をするな。」

「へ〜い」

「だからそういった態度は…!」


 また口論が始まりそうなので間に入る。


「大丈夫ですから!業務内容の説明をお願いします!」

「…あぁ、そうでした。」

「じゃまた後でねぇ〜、エリン!」

「あ、はい…」


 部屋を出ていったアンネリーゼの後ろ姿を見送り座り直したゼノンが、眼鏡を外し目の間を揉む。


「お見苦しい所を…」

「いえ、賑やかな方ですね…」

「こちらの言う事など聞きもしない。本当に手のかかる職員です。」

「あはは…」


 たしかに嵐のような人だった。




「では、呪術庁の業務説明に入ります。

 呪術庁では魔法省、医療機関、民間問わず常時             出動要請を受け付けています。ですが基本的に民間からの通報は滅多にありません。あまり有名ではありませんからね。

 医療機関での解呪専門家の手に負えない場合や警察への通報で呪いが関連している場合等でこちらに直接連絡が来ます。魔法省からも来ますね。」

「魔法省相談窓口がありますし、そこからのケースもあるんですね」

「えぇ。任務の内容は多岐に渡りますので今回は割愛しますが、そのうち同行して頂くことになるのでその時に。

 任務終了後は帰庁、報告書の作成です。長官か副長官の承認を経て厳重に保管されます。」


 手元にある資料を見ながらメモを取る。業務監査ということで、業務内容に問題点や規則違反がないか確認しなければならない。


「人手不足で対応できない、という問題があるのでは…」

「呪術庁が出動する規模の問題が起きる頻度はさほど高くありません。稀に多発する事がありますが、実際は呪いの連鎖反応で最終的に一つの事案に収束することがほとんどですね。全員が出払うことのないよう、常に一人は庁内に待機するようになっています。」

「連鎖反応?」

「呪いの連鎖反応とは、一つの呪いが発動、もしくは活性化した事により付近の呪いが影響を受けて同じく発動、活性化する現象を指します。」

「なるほど…」


 呪術庁の監査などなければ、きっと一生関わることのなかったであろう分野だ。新しい学びを得たが、いつまで覚えていられる事やら。


「では任務がない時間は何を?」

「職員によりますが、主に呪いの研究や呪物の管理、必要に応じて解呪もします。あとは鍛錬ですね。魔法の腕を磨き、少しでも多くの人を助ける事が重要ですから。」

「そうなんですね…書類を見ていて思いましたが、皆さんとても優秀なようで…」


 ゼノンの職員資料を思い出す。


ゼノン・ディストル。

25歳で入省、現在28歳。魔法省勤務3年目。


 そう、まさかの同期である。しかし入省後、そのまま呪術庁所属となったのでエリンは存在を知らなかったのだ。

 しかもそれだけではない。


大学卒業後、宮殿省に入省。王宮に3年勤務、のち王宮を辞して魔法省に。


 宮殿省。マグノリア王国を統治する我らが女王陛下、そのお膝元。魔法省とは違い、入省には学歴も本人の素質も全てが問われる。省庁勤務歴だけで言ってもやはりエリンの倍なのである。


ゼノンが口を開く。


「私なんて、まだまだ未熟ですよ。」






そんなバナナ。

自分の機嫌が悪い時、思いっ切りお尻を叩いてみましょう。

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