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記録4

ちょっと長くなりました(当社比)

 呪術庁の案内も終わり、昼休憩。エリンは魔法省の食堂に来ていた。相変わらず人でごった返しており、空いている席は少なかった。


「今日の日替わりランチは…おっ、ハンバーグ。」


 食べながら今後の予定に思いを馳せる。

午後に戻ってくる予定の副長官に挨拶をし、呪術庁の業務内容について詳しい説明を受ける。出勤している職員との顔合わせも済ませ、今日はそれで終わりだと言われている。


「すいませ~ん、ここの席いいですか?」


 意識を戻し、声の主に視線をやる。男女二人組のようだ。他に空いていなかったのか、エリンの向かいの席を指している。頷くと並んで向かいの席に座った。


「ベル…俺はいいって…」

「だってルク、放っといたら食べないでしょ!だからそんなに目つき悪いんだよ!」

「目つきは関係ないだろ…」


あら〜。


 微笑ましいことだ。同僚なのだろうか。

ベル、ルク。おそらく愛称で呼び合っているあたり相当仲が良いのだろう。魔法省にいると自分の仕事で手一杯になるので、こういった純粋な親切心を持つ子は珍しい。

 


「じゃあ私、ランチ取ってくるから!逃げたら一週間ポンパドールの刑ね」

「うわ…絶妙に嫌…」


 女の子の方が席を立ち、二人取り残される。


 別に会話する必要もないけど…なんか気まず…。

せっかくのハンバーグランチだけど、さっさと食べ切ることにしよう。


 しかし、正面から視線を感じているせいで集中して食べられない。男の方がなぜかじっとこちらを観察している。目元が髪に隠れているせいで意図は分からないが、少なくとも友好的ではないようだ。こちらも身構えてしまうというもの。


 なんかあるなら言ってくれよ。


埒が明かないのでこちらから膠着状態を崩すことにする。


「あの…何か」

「今日ハンバーグランチだったよ〜!さぁ可愛いルクちゃん、たんとお食べ〜!」


 先ほどの女の子が戻って来たことで、張り詰めていた空気が霧散する。無駄にピリピリしていたのが馬鹿らしい。男の方も気が抜けたのか、視線はエリンから外れ、女の子の方に向いている。


 

 エリンは息をついて座り直す。


 しかしまぁ、女の子が可愛い。男の方も、目元は見えないが顔立ちが整っている。

 女の子の方は童顔で小柄なせいか、まだ少女のようにも見える。後ろで緩く一纏めにされた若葉色の髪に淡いピンクの瞳も相まって、春を思わせる雰囲気だ。

 男の方も身長は低めだ。毛量が多く波打った黒髪の隙間から二つの金色がのぞいている。言ってしまえばワカメ頭。しかし陰キャというよりダウナーな印象なのは、ひとえに鼻筋や唇などのパーツや配置が整っているから。


 女の子が昼の木漏れ日なら、男の方は闇夜の月光。なんちゃって。


(しかしこの二人、どこかで見たような…)


 魔法省広しと言えど、同じ職場。どこかですれ違ったとかなのだろうか。やけに顔がいいから覚えているとか。

 思い出そうとしていると女の子が話しかけて来た。


「食べ終わってすぐお仕事なんですか?」


 そのまま持ってきた書類達を見てそう聞いたのだろう。視線は横に置いてある呪術庁関連の資料に留まっていた。


「あぁいえ、昼のうちに見返そうと思って。」


 メモした事や午後に会うであろう職員の情報を見返しておきたい。それに、呪術庁での席にまだ案内されていない。監査書類をその辺に放置するわけにもいかないので、保管場所が手に入るまでは持ち運ぶつもりだ。


「ひぇ~真面目!私も見習わないと。」

「あはは、大したことでは…」

「私なんて書類確認怠ったせいで仕事長引いちゃって。昨日の夕方出てさっき帰ってきたんですよぉ。」

「そうなんですか!?それは…お疲れ様です」


 半日以上も働きっぱなしだったとは思えないほど明るく笑っている。魔法省にそんなブラックな部署があっただろうか…。


 先に食べ終わり、席を立つ。食堂にはまだ人が多い。いつまでも占領していると良い顔をされないだろう。


「じゃあ、私はこれで」

「はい、午後もお仕事お疲れ様です!また!」


 



 食堂を出てしばらく歩き、ベンチに座って書類をめくる。結局あの二人をどこで見たのかは思い出せなかった。単なる気のせいだったか。職員資料をめくる指が止まる。



イザベル・オーキッド。


ルクス・トラデスカンティア。




お…お前達だったのかー!!!










 

「…満足?」

「うん、見た感じ悪い人じゃなさそうだよね〜」


 今日から来るという監査員が食堂にいるとゼノから聞き、さてどんなものかと任務帰りの足で研究室からルクを引きずり出した。食堂に入ると、お目当ての人物はすぐに見つかった。


 エリン・カランコエ。職員資料で目にしていた彼女が、探すまでもなく入り口付近の席に座っていた。

 

 ゆるく波打った金髪は肩のあたりで切り揃えられ、暗緑色の瞳は何かを考えているように料理に落とされている。話してみても資料で得たのとさほど変わらない印象を受けた。魔法省勤務3年目、大きな功績も目立ったミスもない。呪術庁に敵意はないようで、取り入ろうというわけでもなさそうだ。毒にも薬にもならない―今の所は。


「確認だけなら俺いらなかったろ。ノアに見せればいいのに、なんでわざわざ…」

「ノアは寝てるし。それに、言われなくても三食食べるようになってからそういう事言ってくれる〜?」

「ぐっ…」


 倒れられては困る。ただでさえ呪術庁は人手不足なのだ。


「さ、歓迎会の準備しよっかな〜」

「歓迎会なんていらないだろ、ただの監査員に。というか帰って寝ろ。」

「えぇ〜?」

「あと、そんなのリゼがどうせやってるだろ。」

「あははっ、たしかに!」


 鼻歌を歌いながら部屋を飾り付ける彼女の姿が重い浮かぶ。歓迎会なんて建前で、騒ぎたいだけなのが容易に想像つく。








「じゃあ歓迎会の時間に起こして!」

「パス。」

野菜ジュースはスムージー感のある方が好きです。

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