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記録2

 男性はゼノン・ディストルと言った。


「貴女が監査員のエリン・カランコエさんですね。お話は伺っております。どうぞ、座ったままで。」

「あ、はい…」


 挨拶のため立ち上がりかけたエリンを制し、ゼノンは向かいのソファに腰掛けた。


「ちょ~どゼノが案内役で良かった。じゃ、仕事行ってくらぁ」

「人前でその口調は慎めと言っているだろう…」


 リゼが出ていくと、ズレた眼鏡を直したゼノンが向き直る。


「彼女が何か失礼をしませんでしたか。」

「えっ?いえ…特には」


 失礼と言う程のことはされていない。強いて言えば初対面で愛称を名乗られたくらいだが、こちらで資料を確認したので大した問題でもない。


「迎えに行く途中でアンネリーゼ…先ほどの彼女に呼び止められまして、もう来ていると…お待たせしてしまい申し訳ない。」

「いえっ、私も早くに到着したので!」


 実際、緊張からかエリンは予定時刻よりだいぶ早めに来ていた。彼は随分生真面目なようだ。

 改めてゼノンに向き合う。案内役を務めると言うことで、先に彼の資料は頭に入れていた。

 サラリと揺れ、寝癖もなく整えられている濃紺色の髪。眼鏡の奥からこちらを見据える黒。長い脚はソファに収まらず、持て余されている。



「では、早速ここでの過ごし方を説明しましょう。と言っても、さほど難しい事はありませんが。

ここでは職員の仕事を観察し、業務形態の把握、職員の素行評価をして頂きます。彼らにはいつも通りの言動で良いと言っていますが、何か失礼があればその場で注意か私に報告を。」

「は、はい」

 にこりともせず淡々と説明をこなしていく様はまるで機械のようだ。まだ笑顔があった分、アンネリーゼの方が親しみやすいのかもしれない。 


「間取りは見取り図か、その辺の職員を捕まえて下さい。庁内は長官の空間魔法により拡張されており、外観とは多少ズレがありますのでご注意を。」

「多少…はは…」


多少とは。


「設備に関してはご自由に使って頂いて構いません。では、一通り庁内を回りますか。」


 こちらの返事も聞かずに立ち上がる。慌てて立ち上がり、ゼノンの後について行く。


「あぁ、それと。時折職員の出動に同行して頂くことがありますが、基本的には室内での監査です。」

「えっ、出動に同行…ですか?」


 呪術庁職員の出動。それはつまり、呪い関連の現場に行くということだ。

 エリンは呪いには詳しくない。魔法省勤務でも必ずしも知識がいるとは限らないし、呪いには専門家だっている。頼っていいのなら無駄に知識をつける必要もない。

 特に呪いは多岐に渡る分野だ。手軽なものから高度なもの、被害が大きいもの、古くにかけられたもの、新しく生み出されたもの…。災害級の犠牲を出した呪いも、かつてあったらしい。

 手軽な呪いは効果も薄い。医療機関には解呪の専門家もいる。呪術庁が出動するということは、つまりそれほどの規模ということだ。


 魔法の腕はそこそこだが、呪いは専門外過ぎる。邪魔にならないだろうか。それに何より、自分の命が惜しい。


「…ご安心を。職員には可能な限りカランコエさんを守るよう言いつけてあります。」


 こちらの不安を汲み取ったのか、そう付け加える。とりあえず最低限の安全保証はされているようで、胸をなで下ろす。


「そうですか、それは良かったです。」

「ところで防衛魔法は得意ですか?呪いからは守りますが、流れ弾に関しては…」

「流れ弾?」

「うちの職員は戦闘スタイルが激しい者もいますので。」


前言撤回。何も良くなかった。

秋に歩く時は金木犀の香りを楽しむために空気を吸い込んでますが、銀杏に当たると「お前はお呼びでない」となります。

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