記録1
案内されるがままにボケっと廊下を歩く。洗練された内装、外からは認識できなかった窓。見れば見るほど先ほどの倉庫は夢だったのではと思えてくる。
(にしても…)
案内してくれている彼女の後ろ姿を観察する。こちらに合わせて歩いてくれているようで、二人分の足音がスローテンポに廊下に響く。
隙が無い。
エリンとて魔法省勤めの端くれ、魔法の腕はそれなりにある。しかし、無防備に背中を晒しているはずの彼女に魔法を一発でも叩き込められるかと聞かれると、自信がない。
足音も雰囲気も、部外者である私を警戒している事がひしひしと伝わってくる。呪術庁は皆こうなのか、彼女が例外なのか。
(あ〜、緊張する〜)
エリンは元々自分に自信がある方ではない。身を縮こまらせず魔法省を歩けるようになったのは入省して一年経ってからだ。身の丈に合わない感じは今でも拭えないが、慣れとは恐ろしい。今では堂々とまでは行かずとも、不自然でない程度に闊歩している。
しかしここは呪術庁、今まで一度も関わったことのない部署だ。しかも一人。仲間はいない。監査する相手を仲間カウントできるのかも判断しかねるので、やはりエリンは一人だ。普通に歩いてはいるが、そわそわと落ち着かない空気を感じる。
彼女の問いかけに意識が引き戻される。
「呪術庁にはどのようなご用件で?」
「あ、申し遅れました。私はエリン・カランコエと申します。業務監査のためこちらに…」
「業務監査…あ~、そういえば言われてたような」
なんて適当な。
通された部屋は応接室のようで、ふかふかのソファと漆塗りのローテーブル、高価そうな花瓶には美しく活けられた花が飾ってあった。
(わりと普通…?)
噂を鵜呑みにしていたわけではないが、今のところ心配は無さそうだ。
「とりあえずこちらで少々お待ちを〜」
「ありがとうございます。あの、お名前は…」
「あぁ、私はリゼです。では!」
バタンと扉が閉まり、応接室にポツンと一人取り残される。
いや、フルネームは?
人が来るまでの間、持参した資料をめくる。
(リゼ…リゼ…?)
一枚の書類に目を留める。
アンネリーゼ・エーデルワイス。
魔法省呪術庁所属。18歳で入省、現在24歳。最終学歴、王立アストランティア学園卒業…。
顔写真とも一致する。彼女で間違いないだろう。しかし18歳で入省とは、相当に優秀だ。
魔法省は他の省とは違い、年齢制限を設けていない。事務仕事や運営に携わるのであれば学歴や年齢は加味される。突出した所のないエリンは事務仕事の方で入省した。
しかし魔法対応局の魔法執行隊や呪術庁は完全な実力主義で、出自や年齢、性別を理由に落とされる事はまずない。その代わり、高度な魔法操作の技量、魔力量を要求される。いずれにせよ狭き門なのだ。そんな門を18歳で潜るとは…。
(余計自信無くなるわ〜…)
大学卒業、のちに魔法省勤務3年目となるエリンは現在24歳。ちょうどリゼと同い年。しかし勤務年数はあちらがダブルスコア。まるで別世界。こちらがおかしいのではない。あちらが化け物じみているだけだ。世間一般で見ればエリンは充分エリートである。
書類を見終わったタイミングで、ちょうどノックの音が響いた。
「どうぞ」
書類を仕舞いながら返事する。
「お待たせしました〜」
入ってきたのはリゼと、濃紺色の髪で長身の男性だった。
気まぐれ投稿です
感想、評価、誤字報告あると喜びマスクメロン




