記録9
「だいたい、私に監査なんて荷が重いんですよぉぉ〜」
「分かるよぉぉエリンさん、仕事大変だよねぇぇぇ」
泣きながらベルと肩を寄せ合い、グラスをあおる。
「私3年目なのにお荷物だしぃ、監査とかいって厄介払いしたつもりなんだぁぁ!」
「悲しいねぇ、酷いねぇぇ!」
頭がふわふわする。ベルさんがやさしい。愚痴聞いてくれるし。かわいいし。すき。
「りぜぇ!聞いてるのか!おまえはいつもいつも…」
「zzz…」
「もっと酒持ってこぉーい!んはははは!」
「ちょっとヤダ副長官、飲み過ぎよぉ」
ドアが開き、誰かが入ってくる。
「…何事?」
「あらノア、帰ってたの」
「うん、さっき。執務室に行っても誰もいないし、隣からすごい色々聞こえてきたから。」
「見ての通りよ」
「地獄絵図だね」
室内を見渡す。副長官は飲んだくれてるし、ゼノは隣で突っ伏して寝てるリゼに絡んでいる。酒がそんなに好きではないレヴィはいつも通りだ。
問題は…
グラスを片手に愚痴大会を繰り広げている2人を見る。片方はベルで、もう1人は…
「あれが監査員?」
「そうよ、エリン・カランコエ。ずいぶんベルと仲良くなったみたいね」
「ふーん…」
テーブルに近付くと、ベルのグラスを取り上げる。
「あれぇ…ノア?おかえりっ!!」
「ただいま。飲み過ぎ、もうやめときな」
「まだ飲む!!」
手が届かないようグラスを高く上げると、隣で飲んでいた監査員がこちらをようやく見る。
「誰ですかぁ?ベルさんにいじわるしないでくださいっ!」
「…レヴィ、なんでこんな事になってんの」
「大体副長官とリゼのせいよ」
遡ること3時間前―。
騒いでいたリゼが口を開く。
「ねぇ酒ないじゃ〜ん!レヴィ、酒は?」
「買ってないわよ、明日も仕事でしょ?」
「えぇ~!じゃあ買ってくるわ〜」
便乗する副長官とは対照的に、ゼノが難色を示す。
「おっ、いいねー。私ビールで」
「おいリゼ、羽目を外すな。監査員もいる場だぞ」
「いいって飲みニケーション大事!副長官命令!リゼに酒の買い出しを命じる!」
「イエスマム!!」
「おいリゼ!…あぁクソ」
「止める暇無かったわね」
数十分後―。
「ただいま〜!!」
「待ってたよ私の酒ー!」
「やっと帰ったか、ておいお前さては飲んだな!?いつだ!飲酒運転はしてないだろうな!」
「だいじょ〜ぶ、警察より早く車走らせればいいんだよぉ~」
「このアホ…!あぁもう、上にバレたら何て言われるか…各関係者に謝罪して予防策を提示…まず各関係者って誰だ…」
副長官は既にウキウキでビール缶を開けている。リゼは既に顔が赤いし、ゼノは頭を抱えている。
「ゼノも飲め飲めー!」
「いや副長官、俺は…」
「上官の酒が飲めないってのか、お!?」
哀れゼノ、グラスには副長官によってなみなみと酒が注がれている。すると、ベルが近付いてきた。
「あれリゼ、なんか買ってきたの?」
「うん〜ジュース!ほら!」
差し出したのは缶のチューハイだった。アルコール度数を巧妙に手で隠している。
「わ、ありがと!エリンさんも飲も!」
「グレープジュースですか、いいですね!」
ベルのおかげか当初よりずいぶん打ち解けたエリンは、差し出された缶になんの躊躇もなく口をつけた。
「…なるほど」
「明日は仕事になんないわね、アタシ片付けて帰ろうかしら」
「…報告書、早く出したいんだけど」
「無事で済む保証ないけど、副長官に突撃すれば?」
「絶対嫌。」
ため息をつくと、ベルを立たせる。
「んぁ、視界が揺れる…」
「だいじょうぶですかっ!誰だか知らないけど、ベルさんを離してください!」
監査員が立ち上がったが、勢い余って椅子から転げ落ちた。ピクリとも動かないので死んだかと思ったが、そのまま眠りについてしまったようだ。
「じゃ、あとは頼んだ」
「あら、手伝ってくれないの?酷いオトコね」
「俺関係ないし。任務帰りで疲れてる」
「あらそう。でもエリン…そこの監査員もお願いできないかしら?起きないから家に送れないし、医務室のベッドにでも寝かせておいてちょうだい」
「無理、定員1名。義理もない。」
「ンもう、ほんっと酷いオトコ!」
ベルを支えながら寮の部屋に送る。
「ベル、着いた。鍵開けて」
「んん…?開かないよ、鍵壊れた!」
「逆方向だから、ゆっくり回して」
ベッドまで連れて行くと、ゆっくり寝かせる。
「なんか、ノアふたりいる…」
「そっか、良かったね」
「うん、よかった…」
毛布をかけると、ベルの部屋を出る。
監査員、エリン・カランコエ。
ベルはもう仲良くなったみたいだけど、もし裏があったら…
「まぁ、今度確かめるか。」
今夜の静けさは嵐の後か、前触れか。
酒は飲んでも呑まれるな。飲酒運転はご法度です。




