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マグノリア王国、その王都中心に位置するのは我等が女王のおわす王城、そしてマグノリア王国の省庁である。
(まさかとは思うけど…ここが…)
エリンは魔法省の外れ、人気のない古びた倉庫前に佇んでいた。
そこそこ裕福な一般家庭に生まれ、そこそこ頭が良く、そこそこ魔法が使えた。そこそこの苦労を経て魔法省に入省し、はや2年。
「魔法省の内部監査…ですか。」
「あぁ。年度的に今年執り行う事となったんだが、君には呪術庁の監査を任せたくてな。」
「ですが…私まだ3年目に突入したばかりですし、一人で監査なんて…」
「君も知っての通り、呪術庁の職員数は8。期間は一ヶ月。なに、職員の態度と業務形態を確認するだけだ。難しい事はないだろう。」
「ですが、あの呪術庁ですよ」
「あぁ、あの呪術庁の監査を任せると言っているんだ。」
呪術庁。魔法省直轄で、呪い関連の事件、事故、問題の解決にあたる。と言ってもいちいち国中の呪いを解呪して回るわけではない。大規模な問題発生の際、呪いによる被害を抑え、解決や事後処理をするのだ。
職員数は8人。長官、副長官、部下6人で構成されている。業務内容の割に人数が非常に少ないにも関わらず滞りなく回っているのは、ひとえに少数精鋭だから。しかし、天才には変人が多いと聞く。
曰く。呪い関連であれば課長のカツラであっても取るだとか。
曰く。雑用を押し付けてきた職員の書類に見たら発動する猫耳の呪いをかけただとか。
曰く。返り血を浴びた状態で省内に足を踏み入れ、新人数人が卒倒しただとか。
(もはや無敵の人としか言えないムーブ。これが8人…?)
「来月から一ヶ月間の業務監査だ。行ってくれるな?」
有無を言わせない態度。もはや確定事項なのだろう。業績で見れば、自分はいつ首を切られてもおかしくないのだ。選択肢などない。
「…はい」
そんなこんなでエリンが監査する呪術庁の場所は何度確認してもここである。―住所上は。
こんな辺鄙な所に、いくら小規模とは言え一つの庁があるものだろうか。しかも、台風一つで崩れ落ちそうな倉庫。
それとも業績の芳しくない自分に対する嫌がらせで、これからはここがお前の席だという遠回しな宣告か。
「仕方ない、とりあえず入るか…」
グチグチ言おうと躊躇おうと、上からの指示。逆らえば本当のお払い箱だ。
倉庫の扉に手をかけようとした、その時。
「お客さん?」
いつの間に背後にいたのか、すぐ側に女性が立っていた。
「ぅおっ…はようございます!」
「おはようございま〜す、お客さんですか?」
にこやかに挨拶を交わす彼女を見る。身長はエリンよりいくぶんか高く、明るい茶髪を一つの三つ編みにしている。同色の瞳はじっとこちらを見据えており、笑顔だがどこか居心地の悪さを感じる。
「あ、いえ私は…」
「立ち話もアレですし、ささ、中へどうぞ〜!」
「えっ、あの…中って…」
中とは。この古びた倉庫の中で話とは。隙間風とでも対話するのだろうか。
茶髪の彼女が扉に手をかけ、横にスライドさせた。
「え…えぇぇぇっ!?」
魔法省内の廊下と同等、もしくはそれよりも洗練された廊下が現れる。それだけでこの倉庫の幅など8割を埋め尽くすだろう。
「なんっ、これ…なに、何が…」
後退りして倉庫を見上げる。幅だけではない。奥行きも、倉庫のそれよりはるかに長い。
「あははっ、最初はみ〜んなそうなりますよねぇ〜。」
「いや、いやいやいやこれ、何がどうして…」
「これですか?これはですねぇ〜…」
衝撃で話など入って来ると思えないが、悲しいかな、メモを取る準備はできているのだ。
拝啓 お父さん、お母さん。私はとんでもない所で一ヶ月過ごさなければならないらしいです。
後で見返したメモには、「空間魔法」「拡張」「長官」のワードが残されていた。
口内炎がいつも同じ場所にできます。つらみ。




