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魔法少女と学校

 学校に戻ったシザースグレー達は、それぞれの教室に戻って授業を受けていた。シザースグレーのクラスは体育の時間だった。

 シザースグレーが校庭に向かうと、クラスメイト達は彼女に対し歓声を送った。シザースグレーは恥ずかしく思いつつも手を振りながら、先生に事情を説明した。


「先生ごめんなさい。トイレに行っていました」

「おう。お疲れ」


 その会話は傍から聞いたら意味の分からない会話だろう。トイレにお疲れってどういうことだ、と。

 しかし、クラスメイト達も教師達もシザースグレーの事情を把握しているため、誰も文句は言わない。

 魔法少女は周りの人々の協力によって成り立っていた。


「今から走り高跳びをやるからな。シザースグレーには期待してるぞ」


 先生に頭を撫でられた。シザースグレーは「はい」と元気良く返事をした。

 クラスメイトの下へ戻ると、女子生徒たちがシザースグレーを囲みこんだ。


「ねえねえシザースグレー! 今日はどんな怪人だったの?」


 クラスメイトの一人が尋ねた。


「今日はクワガタみたいな怪人だったよ。大きな顎があって、身体がすごく硬かった。攻撃が全く通らないの」


 そう言うと、女子達は「おー!」という感嘆の声をあげた。

 シザースグレーを取り囲む女子集団のさらに周りには、中学生になってもやっぱり怪人とかヒーローとかに憧れてしまう男子達が聞き耳を立てていて、「おー……」と小さく声を漏らしていた。


「どうやって倒したの?」


 そう聞かれたシザースグレーは、手でクワガタの真似をしながら不器用に説明をした。


「なんかね。クワガタの背中に私の武器が入るくらいの細い隙間があってね。こう、縦に、こう、ずぶッて、ハサミをえいってやったら、ハサミが突き刺さって、なんか、倒せた」

「お~!」


 女子達が拍手をした。このように怪人の話をして盛り上がるのは、怪人が現れた日の定番となっていた。

 おそらくロックブラックとペーパーホワイトも、このようにクラスメイトに囲まれているのだろう。

 そこに先生がやってきて声を張り上げた。


「お前たち! シザースグレーの話は休み時間に聞け! 授業中だぞ!」


 クラスメイト達は迷惑そうな顔をして「は~い」と返事をした。

 解散していくクラスメイトの中には、小さく「あとで詳しく聞かせてね」と耳打ちしていく生徒もいた。シザースグレーは嬉しそうに「うん」と答えた。


──


 体育の授業が終了し、皆で走り高跳びのマットを片付けているときのことだった。


 身体に電撃のような悪寒が駆け巡った。それはロックブラックとペーパーホワイトも同様に感じているものだった。

 その悪寒は、いつも感じる怪人の気配を数倍、いや数百倍に強めたような濃い気配だった。感じているだけで震えが止まらなくなってしまうような圧倒的強者の気配……。

 あたりを見渡した。そしてグラウンドの端に立っている人影に目をつけた。


(間違いない……あの怪人だ……。)


 いつの間にこのようなところまで近づかれていたのだろうか。通常であればこんな濃い気配に気付かないはずがないのだが。

 いや違う。おそらく気付かされたのだ。あの怪人は消していた気配をわざと露わにし自分の存在を知らしめたのだ。

 しかし、なぜそんなことを……?


 シザースグレーはその濃い気配の怪人の姿を見て、違和感を感じた。


(ん……? 怪人……?)


 そう、それは怪人の魔力を放っているのにもかかわらず、怪人お決まりの歪な姿をしていないのだ。

 普通、怪人というのは、クワガタや犬や魚などの生き物だったり、電柱や鉛筆や人形など物の形を模しており、人間に近しい形の怪人はいない。

 しかし、その濃い気配の持ち主は、シザースグレーと同じ人間のような姿をしていた。

 シザースグレーが警戒していると、ロックブラックとペーパーホワイトが教室の窓から飛び降り、駆け寄ってきた。


「シザースグレー……」


 状況は既にテレパシーで伝えていた。二人は取り乱すことなく、グラウンド端の怪人に目を向けた。

 ロックブラックが、シザースグレーの教室から拾ってきたデビちゃんを揺らし起こした。


「デビちゃん。起きて……」


 快適な睡眠から引きずり上げられ、デビちゃんは不満気に目を覚ました。


「うみゃあ……。なあ、俺は夜行性なんだよ。お天道様の下に晒さないでくれよ」

「そんなことを言っている場合じゃないよ」


 ロックブラックがグラウンドの端に立つ怪人を目線だけで示した。デビちゃんも静かにその方向を見る。

 そして「桁違いだな……」と呟いた。

 私はデビちゃんに手を差し出し、武器を催促した。


「とにかく、学校で戦うのはダメ。皆を巻き込んじゃう。たぶん、あいつの目的は私達だから、ここは一か八か学校から離れてみよう」


 ロックブラックとペーパーホワイト、それとデビちゃんにだけ伝わるように、テレパシーで告げた。

 シザースグレーの提案に、二人はコクリと小さく頷いた。

 デビちゃんから武器を受け取ったシザースグレーが小声で合図を出す。


「0で校門の方に走るよ……3……2……1……0!」


 シザースグレー達三人が一斉に、校門へ走り出した。振り向いて確認すると、その人影は静かに佇むだけで、追ってくる仕草を見せなかった。

 もしかしたら、一般人の前で戦う気はないのかもしれない。怪人にそこまでの知能があるのかどうかは謎だが。

 走っている途中、ロックブラックが叫んだ。


「シザースグレー! アイツ追ってきてる!」


 どれだけ走っても気配が薄まらないので、そんなことは言われるまでもなかった。

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