レインとクラウド
「あ、レイン。魔法少女は見つかったかい?」
レインと共に人間界へやってきていた魔人クラウドが、どこからともなく近づいてきた。
クラウドの顔にはいつも気味の悪い下手な笑顔が張り付けられている。
「見つけた。魔法少女にやられた魔族も見つけた」
レインは身動き一つせず、無表情で淡々と言った。わざとではなかった。レインは表情筋の使い方が下手だった。
「そうか。それは残念だ。その魔族は死んでしまったのかい?」
クラウドはそんなことを言いながらも、張り付けられた笑顔を崩さなかった。
「やられてはいたが、ぎりぎり消滅はしていなかったから、俺の魔力を流し込んで蘇生しておいた」
レインがそう言うと、クラウドは気味の悪い、笑顔のまま、過剰な驚きのジェスチャーをして言った。
「え、蘇生? レインってそんな器用なことができるんだっけ?」
「できなくはない。魔力を相当消費するが」
「へえ。そうなんだ。いいなあ。僕にはそんなことできないから羨ましいよ」
クラウドが顎に手を当てた。
「クラウドにも、クラウドにしかできないことがあるだろう」
レインはそう言うと、水で出来た手を変形させナイフのように鋭く尖らせると、クラウドの腹に躊躇なく突き刺した。
レインに腹を貫かれたクラウドは少し目を見開いたが、特に文句は言わなかった。
レインの無表情は変わらなかった。クラウドの奇妙な笑顔も変わらなかった。
「……レイン。それをやるときは事前に一言言ってほしいんだけど」
レインはクラウドの腹に手を突っ込みながら言った。
「すまん。魔力を四分の一ほど消費してしまったから」
クラウドは仕方ないとばかりに溜息を吐いた。
「……まあ。いいよ」
クラウドのお腹に突き刺した手から、レインの身体の中へ魔力が補充されていった。魔力が満たされるのを感じながら、レインは目を閉じた。
「クラウドの魔力は本当に美味しい」
その言葉にクラウドは首をかしげた。
「それ、皆言うんだけど、魔力に味なんてなくない?」
「いや、あるんだ。クラウドの魔力は粘度が高くて甘い気がする。水飴みたいな感じだ」
「何それ。じゃあレインの魔力はどんな感じなの」
「自分の魔力の味は分からない」
「へー。変なの」
魔力を満タンまで満たしたレインは、クラウドの腹から手を引き抜いた。
「ありがとう。クラウド」
クラウドは「どういたしまして」と言った。
「それで、これからどうしようか。俺の方も人間界に迷い込んだ魔族を案内することはできた。他に何かするかい? できればもう疲れちゃったので帰りたいなー、と俺は思うんだけど」
レインは少し悩んでから言った。
「魔法少女に会ってみたい」
レインのその一言に、クラウドは両手を上げて俯いた。もちろん張り付けられた笑顔のままで。
「……レインは意外と戦闘狂だよね。サンにも負けないくらい」
レインは露骨に嫌な顔をしようと頑張った。
「サンよりはマシだ。あいつは頭がおかしいから」
そう言ったレインを見て、クラウドは笑った。呆れるように。
「一応、戦闘狂の自覚はあるんだね。ハハ。戦闘の何がそんなに楽しいんだか」
クラウドはそう言いながら浮遊し、空へと上昇していった。
「じゃあ、僕は先に帰ってるからね。早めに帰ってきなよ~」
レインは静かに頷くと、魔法少女を探しに歩き出した。