料理。
「ふんふんふ~ん。」
料理。
怪人の気配を感じて部屋から外に出ようとしたら、部屋のドアが開かなかった。鍵は開けているのに開かなかった。
そこには不思議な魔法がかけられているようだった。おそらくデビちゃんの仕業だろうなと、シザースグレーは考えた。
シザースグレーは狂気的なまでに責任感を持った魔法少女であった。怪人の気配を感じ、内心無理だと気付いていながらも、デビちゃんに張られた魔法を突破しようと何度も試みた。
しかし、変身をしていないシザースグレーには到底無理なことだった。
そんな理由で部屋の中から出ることができないシザースグレーには、料理くらいしかすることがなかった。
「仕方ないよ。だってデビちゃんに閉じ込められてるんだもん。私は出れないから仕方ないもん。」
誰も聞いていない、自分しか聞いていない言い訳を呟きながら、てきぱきと要領よく料理をした。
生まれてこの方、自分の料理は自分で作ってきたのだから、素早い手際は当然だった。
「……できた。」
作っていたのは素朴なオムライス。
ふわふわの卵の毛布がチキンライスの上にかけられていた。
(自分で言うのもなんだけど、どこぞの高級ホテルで出てくるような出来栄えだよ。)
そこへ、市販のケチャップをかけ──ようとしたのだが、ブッと汚い音を立てたきり、スーッと、空気しか出てこなくなった。
仕方ないので、蓋を閉め、ぶんぶんと振ってからもう一度試みた。
今度は最後の絞りカスを出すことができそうだった。
「なんて書こうかな……そうだ。」
シザースグレーは歌いながら、オムライスの上にケチャップを走らせる。
「L・O・V・E……なんて……。」
一人で小芝居をして、一人で笑った。
「……恋愛かぁ。」
ケチャップをテーブルにおいて、スプーンを手に持ち、手を合わせた。小さく「いただきます。」と呟いてから、Eの文字を削って口に運んだ。
(うん。問題なくいつも通りに美味しい。)
シザースグレーはオムライスを食べながら考えた。
「私と同じくらいの年の、普通の女の子は、学校帰りに好きな男の子の話で盛り上がったりするんだろうなぁ。」
普通の女の子。その言葉を口にするたび、少しだけ──少しだけ、自分の境遇を恨んでしまった。
(どうして私は生まれたんだろう。どうして私が生まれたんだろう。)
「私も普通の女の子がよかった……なんて。」
そう呟いた時、シザースグレーの頭の中にとある考えが浮かんだ。
(そう言えば、前にデビちゃんが言っていた。私達の前にも魔法少女がいて、その魔法少女以来、数百年の間、魔法少女は生まれなかったとか。……それは、どうして?)
どうして数百年の間━━私達が生まれるまでの間━━魔法少女は生まれなかったのだろうか。
どうして、数百年ぶりにシザースグレー達が生まれたのだろうか。
シザースグレーの中に一つの仮説が生まれた。
「魔法少女としての務め、責任を果たすことができれば、この運命から解放される……?」
もしかして、私達の前の魔法少女が、魔法少女としての務めを果たしたから、この数百年の間、魔法少女が生まれなかったのではないか。
そう、例えば、敵の親玉を倒す……とか。
(もし……もし、それが正しいとして。もし、私がその務めを果たすことができたら……。)
「私も、普通の女の子になれるのかも……。」
シザースグレーは一人、小さな希望を抱いた。