魔人の定例会議
人が住む人間界の裏側、魔界。そこには魔族が暮らしていた。
魔族とは、人間や魔法少女が『怪人』と呼ぶ者たちのことである。もちろん怪人ゲゲゲロも、正しくは魔族ゲゲゲロであった。(彼の本当の名前はゲゲゲロではなかったのだが)
魔界の中心。魔王城。そこには、魔族ではなく、魔人が暮らしている。魔族と魔人の違いは知能の差だ。頭の良く理性をもつ魔族を魔人と呼ぶ。
「では、定例会議を始めます」
魔人は人間と同等、もしくはそれ以上の高い知能を有していた。
そんな魔人たちが行う会議の議題とは──。
「ついに、魔法少女が現れたようだぜ」
やはり魔法少女についてであった。
「ついにだ。ついに復讐の機会が与えられた。前魔王様が魔法少女に滅ぼされてから数百年。ついに新たな魔法少女が誕生した」
そう言ったのはサンと呼ばれる魔人だった。サンはその名の通り太陽の魔人であり、チャームポイント(そう言うと怒るが)は胸に灯る炎である。
サンは胸の炎を溢れるほどに燃え上がらせた。そして机を叩き、炎のように激しく立ち上がった。
「俺たちは魔法少女を滅ぼし、前魔王様の敵を討つのだ!」
「……」
燃え上がるサンに対し、他の魔人たちは無言を貫いていた。
ある魔人は無視して遊んでいた。ある魔人はただニコニコとサンを見つめていた。ある魔人は興味をもたずあくびをしていた。
サンが立ち上がったまま他の魔人たちを見回した。
「…………」
そして、サンはゆっくりと椅子に座り直した。熱く燃え上がっていた胸の炎が、小さく萎んだ。一人で盛り上がり、なんだか恥ずかしくなっちゃったのだ。
そんなサンに、魔人の少女が話しかけた。
「サン! 元気だね! あ、そっか! 今日は晴れてるもんね!」
両腕がない金髪の少女、その名もサンダー。言わずもがな雷の魔人であった。サンダーはニコニコしながらテーブルに飛び乗った。そして生えていない両腕の代わりに頭頂部のアホ毛をピンと逆立てて言った。
「そうだ! 私たちは全魔王様の敵を討つのだ! ハッハッハァ!」
サンダーの大きな笑い声が会議室に響いた。
「ところで」
ロングスカートを着ている魔人、ウインドがテーブルの上のサンダーを抱きかかえ、自分の膝に座らせた。
「レインとクラウドはどこへ行ったの?」
その質問に答えられる者はいなかった。レインとクラウド、二人の魔人の行き先を誰も把握していなかった。
「……今日は定例会議だって言っただろうが」
サンが悲しそうに呟いた。彼は根が真面目なタイプだった。