浮かれポンチシザースグレー
シザースグレーはベッドの上でとある男のことを考えていた。
とある男というのはもちろん、シザースグレーのことをボコボコにしたかと思ったら急に優しくなって大怪我を直してくれた魔人レインのことであった。
「デビちゃん。あのレインって人の行動、どういうことだと思う? 私には全く理解できないよ」
シザースグレーは枕に顔を埋めながらデビちゃんに話しかけた。
「知らね」
デビちゃんはそっけなくそう言った。
実はシザースグレーがデビちゃんにその質問をするのは、すでに数十回目なのである。
「私ね。ほら、家族がいないじゃない? だからあんなふうに撫でられたことなくってね。それで、急に撫でられたからびっくりしてね。それで変な声出しちゃったんだよね……。変って思われてないかなぁ」
レインはシザースグレーの頭を撫でた。
それはシザースグレーの傷を治すために必要なボディタッチであったのだろうが、それがどんな理由であろうと、シザースグレーの『ファースト頭撫でられ』であることだけは確かだった。
「あんなやつに変だと思われようがどうでもいいだろ」
しかし、デビちゃんの回答はシザースグレーに届いていなかった。
「うわー。私、頭撫でられちゃったんだなぁ。頭を撫でられるってあんな感じなのかぁ。私はいつも撫でるほうだったからなぁ」
「……」
(気に入らねぇな。)とデビちゃんは思った。魔人レインはシザースグレーにとって敵であるはずなのに、彼女がレインに絆されていることが気に入らなかった。
「頭、頭、撫でられたぁ……」
シザースグレーは自分の頭を撫でた。しかし、レインに撫でられたときほど心が満たされることはなかった。
そう。心が満たされた。
シザースグレーはレインに頭を撫でられたとき、よく分からないが、心が満たされる気がしたのだ。
シザースグレーも分かってはいた。レインが敵であるという事実を。しかしながら、頭を撫でられたときに感じてしまった心地よさは忘れられるものではなかった。
「こう? いや、こんな感じだったかなぁ」
シザースグレーが試行錯誤しながら自分の頭を撫でていると、デビちゃんが彼女の手を取った。
「え。どうしたの?」
デビちゃんは無表情でシザースグレーを見つめていた。そして、無表情のままで言った。
「……なあ、今日の晩飯まだ?」
シザースグレーは時計を見た。すると、時刻は既に二十一時を回っていた。
「あ、そっか。えへへ。ご飯作らないとだね」
そう言ってシザースグレーはキッチンへ向かった。
「ちょっと晩飯まで出かけてくる」
デビちゃんがそう言って、窓を開け、ふわふわと飛び立って行った。