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またも魔人会議

「レインのやつ……帰ってこねぇじゃねえか!」


 そこは魔王城の会議室。机を叩いて苛立ちを露わにしたのは、胸の炎を大きく燃え上がらせるサンだった。

 サンが怒っている理由はレインの帰宅が遅すぎるからであった。


「おいクラウド! どうなってる!」


 クラウドは「そう怒るなって」とサンを落ち着けながら言った。


「レインは魔法少女の危機を救い、あろうことが回復までしてあげていた。多分、そんな行動をとってしまったことが情けなくて僕らに合わす顔がないんじゃないかな」

「あの土砂降り鬱屈野郎。洗脳されて頭パッパラパーになったのか?」


 そこへ、会議室の端に置かれたロッキングチェアでくつろいでいたミストが話に割り込んだ。


「やっぱり洗脳はマジなんだよ」


 ミストが言った。


「魔法少女もしくは第三者がレインを洗脳したのは確定。まあどうして魔法少女を瀕死に追い込むことができる程度の洗脳なのかは謎だけど」


 しかし、そんなミストの考察をサンは否定した。


「今までの記録に洗脳を使う魔法少女なんていなければ、魔族や魔王様が洗脳にかけられたという記録もねェ。だが、今はそうであってほしいとすら思うぜ……。じゃねェと俺の中でレインの評価が急降下だ」


 レインが帰ってこない事実はサンにとっても予想外でショックなことだった。サンはいつだってレインを馬鹿にした言動をするが、それはライバルだからである。レインのことを高く評価しているからこその言動だった。

 そんなレインが任務を放棄して逃亡するだなんて、サンはそんなことを信じたくなかった。


「サンは本当に素直じゃないねぇ。ハハ」


 そう笑ったのは、今日も今日とて奇妙な笑顔を浮かべるクラウドだった。

 サンとレインのふたり近くで見たきたクラウドは、二人のライバル関係とそれに伴う信頼をしっかりと見抜いていた。

 クラウドは張り付けられた笑顔の奥で、微笑ましいものを見るように笑っていた。


 その時、会議室の扉が強引に蹴破られた。サンダーだ。

 サンダーには腕がないので、ドアを開けるときは毎回乱暴だった。そのおかげで月に一度はドアを破壊していた。破壊した日はお菓子抜きだった。

 サンダーはいつも通りニコニコしながらとんでもないことを言い放った。


「魔王様がレインのことはほっとけって!」


 サンダーは料理人であるスノウに作ってもらったアイスを、謎電気パワーでふわふわ浮かしながら舐めていた。


「ピャァァ! なんだこの甘くて冷たくて美味しいアイスは! 雪国の戦場を思い出すぜ!」


 サンダーのアイスを見つめて、ミストが「いいなー」と言った。


「私も貰ってこよー。今、スノウはどこいるの?」

「ウインドと一緒に夕飯つくてるゾ。スノウなのにワインでフランベってファイアーしてたゼ」

「ほーい」


 ミストが会議室を出ていった。

 会議室には苛立っているサンと、いつでも奇妙に微笑んでいるクラウド、アイスを舐めているサンダーの三人がいた。

 会議室の温度はサンの胸の炎が燃え上がり続けているせいでぐんぐんと上昇していた。サンダーが舐めているアイスが部屋の温度に耐えきれず、ドロドロと溶けていった。


「うべべべべべドロってきた! サンの胸の炎が燃え上がってるせいで部屋がアツアツだ!? へいサン! カームダウン! カームダウン!」


 瞬間移動してきたサンダーに、揺さぶられたサンは、深呼吸をして胸の炎の高ぶりを徐々に収めた。

 サンは家族想いなのだ。サンダーのアイスを溶かすという可哀想なことはしないのだ。

 サンダーはなおも溶け続けるアイスを涙目で舐めながら、次はクラウドの元に瞬間移動して肩を揺さぶった。


「クラウド温度下げて! アイスが死んじゃう!」

「ハハ」

 クラウドは手のひらに小さな雲を作り出し、その雲から冷気を放出した。まるでクーラーであった。

 そのおかげで部屋の温度はだんだんと涼しくなっていき、サンダーのアイスも救われた。


「いいぞクラウド! とても便利!」


 サンダーの言葉にクラウドの微笑みから奇妙さが薄れていくのをサンは見ていた。

 サンは珍しいものでも見たというようにクラウドに話しかけた。


「お前、そんな風に笑うこともできるんだな」


 サンがそう言うと、クラウドはゆっくり振り向いて「ん?」とサンを見つめた。クラウドの笑顔はいつも通りの張り付けられた笑顔に戻っていた。

 サンは「ハ」と笑った。

 そこへ、ミストが戻ってきた。


「ねえサンダーぁ。ウインドが夕飯前だからアイス食べちゃダメって言うんだけどぉ~」


 ミストは心底残念そうに溜息を吐いた。その溜息を見て、サンダーは「へ?」とアイスを見せつけた。


「足りないのサ、実績が。どれだけアイスを食べてもご飯を残さない実績が、ね。スノウからの信頼が違うんだ。なんてったってスノウはサンダーのことが大好きなんだからね」


 ミストがサンダーのソフトクリームを強奪しようと背後から手を伸ばした。"サンダーの目の前"にいるミストが、"サンダーの背後"から手を伸ばした。

 自分の背後に漂う霧に気付いたサンダーが瞬間移動で逃げ回った。


「めっ! ミスト、めっ!」

「ちぇ」


 ミストは泣き顔のまま会議室の端っこに置いてあるロッキングチェアに戻ってすすり泣いた。

 ミスト達の茶番を鼻で笑ったサンは、椅子をから立ち上がり、会議室の扉を開いた。


「どこへ行くの?」


 ミストが涙目で問うと、サンは小さな声で答えた。


「どこだっていいだろ」


 サンが扉を閉めた。クラウドはそれを見届けてからミストに話しかけた。


「ところで、誰かがレインの代わりをやらなくちゃいけないんだけど、誰がやる?」


 クラウドの言葉にミストとサンダーは顔を見合わせた。


「サンダーはあんまり外に出るなって言われてるからダメだと思う」

「私もあんまり動かないように言われてるからパス」

「ミストは行きたくないだけだよね?」

「どうだろか」


 クラウドは溜息を吐き、「俺だって面倒くさいことはしたくないんだけどなぁ」と呟いて立ち上がった。


「じゃあ俺がいくよ。レインのことはサンが解決するんだろうし、俺は適当に魔法少女を排除してくるね」

「行ってらっしゃい。一応、洗脳には気を付けて」


 クラウドはミストの忠告に対して言った。


「俺、洗脳とか催眠とか信じてないから、実はかけられてみたいと思ってたんだよね」


 クラウドはそう言って、張り付けられた笑顔のまま会議室を出て行った。

 扉が閉まった後、サンダーがアイスを舐めながら言った。


「わっつぁふぁっく。じゃあサンダーの洗脳被検体になってくれたらよかったのに」


 ミストはサンダーに近づき、目線を合わせながら言った。


「サンダー。あんまりそういう趣味にハマってるとクラウドみたいな変態になっちゃうから気を付けるんだよ?」

「?」


 サンダーはミストの言葉を理解できないようで、首をかしげながらアイスを舐め続けた。


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