普通の女子中学生
「デビちゃん。どうしよう」
シザースグレーは無事に病院を退院し、今は自室でデビちゃんに相談を持ち掛けていた。
シザースグレーがデビちゃんに相談しているのは、ロックブラックとペーパーホワイトの事だった。
「あの二人、たぶん……もう戦えないよ」
シザースグレーが病院で二人の頭を撫でまわしていたとき、彼女はロックブラックの小さな弱音を聞いてしまった。
それは、悲痛な本音だった。
「もう、やだよぉ。どうして私が戦わなくちゃいけないの?」
それを聞いてシザースグレーは(確かになぁ)と思った。と同時に、ロックブラックはもう、怪人に立ち向かえないだろうなと感じた。
「ロックブラックはもう、怪人との戦いに──戦いの恐怖に、抗えないと思う。あの様子じゃあ、もう……。そしてそれは、ペーパーホワイトも同じ」
ペーパーホワイトはシザースグレーの手を強く握りながら「いなくならないで……」と呟き続けていた。
シザースグレーが彼女の手を強く握りながら、「ずっと一緒だよ」と声をかけても聞く耳をもたず、ただ「いなくならないで」と呟き続けていた。
「あの子は冷静で賢い子だけど、人一倍寂しがり屋だから、失うことが怖くて戦えないと思う」
シザースグレーは顔を伏せた。デビちゃんはシザースグレーの言葉を聞きながら宙を漂っていた。
「ねえ。デビちゃん、どうすればいいかな……」
デビちゃんは少しの沈黙の後、シザースグレーに近づいて言った。
「お前は怖くないのか?」
デビちゃんの言葉に、シザースグレーは答えた。
「私だって怖い。怖いよ。ずっと前から──初めての時から、ずっとずっと変わらずに、今もずっと怖怖いままだよ」
シザースグレーは膝の上に置いた拳を握り締めた。握りしめた手の甲に、一粒の涙が零れた。
「でも、私が負けたら……魔法少女が負けたら、それは……」
デビちゃんは言った。
「お前は本当にかわいそうな奴だよな」
シザースグレーは顔を上げて首を傾げた。
「……どういうこと?」
デビちゃんは地面を蹴り、もう一度宙を漂いながら言った。
「どういうことも何も。お前の存在そのものが悲劇だって言ってんだよ」
そう言うと、デビちゃんは何も言わずに寝床であるシザースグレーの登校バッグの中へ入り込んでしまった。
──
次の日。
シザースグレーはいつもの通り、学校で勉学に励んでいた。ロックブラックとペーパーホワイトの二人もしっかりと登校しているらしいが、会話はしなかった。
シザースグレー達はどこにいてもテレパシーで繋がることができるが、どこか気まずい気持ちがあって誰もテレパシーを使わなかった。
シザースグレーは窓の外を眺めていた。外のグラウンドではロックブラックのクラスが体育の授業をしていた。
体操服姿で友人と話しているロックブラックの姿は魔法少女ではなく、ただの女子中学生だった。
(あの姿……あの女子中学生の姿が、私たちの本当の姿なはずなんだけどな……)
「……さん。シザースグレーさん!」
「あ、はい!」
教師がシザースグレーを呼んでいた。シザースグレーは慌てて前に向き直る。
「体育の授業に参加したいなら校庭に行ってもいいですよ?」
「えっと、ごめんなさい……」
教師はふんと鼻を鳴らし、授業を再開した。シザースグレーは連日叱られてしまったことに少し落ち込んだ。
「シザースグレーってば、また怒られてやんのぉ~」
隣に座る友人がシザースグレーに話しかけた。その友人は、シザースグレーが学校で一番初めに仲良くなった友人だった。クラスの中でも一番仲が良く、怪人が現れない日はその友人と遊ぶことがおおかった。
「また怒られちゃった」
「へへ。先生に叱られてるところを見ると、シザースグレーもただの女子中学生って感じだねぇ」
友人はそんなことを言った。
『ただの女子中学生に見える』
シザースグレーはその言葉が少し嬉しかった。
「私、女子中学生みたい?」
その質問に友人は少し首を傾げたものの、すぐに満面の笑みを咲かせて「完全に女子中学生だよ!」と笑ってくれた。
シザースグレーはその笑顔を見てさらに嬉しくなった。彼女は友人と見つめ合いながら笑顔を浮かべた。
「あなたたちィ?」
いつの間にかシザースグレーと友人の会話が教室の注目を集めていた。
「おしゃべりがしたいなら適切なお部屋がありますよ? 職員室というのですが」
「「ごめんなさい……」」