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五、オフ会が始まる②

「鞄のことはスルーしてあげます。そろそろはじめませんか?」


 山崎ゆづりはじっと榛木ねこを見つめた。


「わかりました」


 榛木ねこはうつむいたまま、深いため息を吐き出した。


「その前に」

 

 そう言うと、足元に置いてあって細長い筒状の黒い鞄を取り出す。それから、円を描いて鞄のファスナーを開けると、中から野球のバットが出てきた。

  

「えっ、何?」


 ずっと平然と話を続けてきた山崎ゆづりが、初めて見せた青ざめた表情だ。


「ちょっと。怒らないでよ」


 山崎ゆづりの言葉を無視し、榛木ねこは山崎ゆづりを見つめていた。

 コジャレた店内と、野球のバットとのミスマッチに恐怖が全身を這っていく。それとも、バットを手にする女の殺意が漏れ出ているせいなのか。

 榛木ねこはバットを振り上げた。


「騙したね」


 そこにいる全員、体が動かなかった。

 だた狂気を帯びた女を見つめるしかできなかった。

 しかし、バットはすぐに榛木ねこの手元に戻される。


「冗談ですよ」


 榛木ねこは苦しげに笑った。


「ーーこれは護身用です。誰がか何かおかしな動きをしたら、これを使います」


 とりあえず、惨事は起きなかったことに皆少しだけホッとしたものの、まだ異常事態は続いている。山崎ゆづりは青ざめたまま、息を吐き出した。


「バッドなんて聞いてないんですけど」


「話してませんから。山崎さんほどの秘密主義ではありませんが。身を守るために準備しました」


「嫌だな。話してよ」


 榛木ねこは山崎ゆづりから顔を背ける。


「そろそろお願いします」


 その声を聞いて、すぐにポニーテールの店員がやってきた。中途半端に残った料理はすっかり冷えてしまっていた。ポニーテールは手際よくテーブルの上を片付けて、あっという間に去っていく。 

 店ぐるみってことか。

 何もなくなったテーブルに張り詰めた空気が乗っかっている。おもむろに榛木ねこは頭を下げた。


「お騒がせしてごめんなさい」


 それはしおらしい態度に気まずいがぬぐえない。


「物騒なのはやめよう」


 山崎ゆづりは穏やかに諭す。榛木ねこは何も答えずゆっくり座り、バッドを脇においた。


「あの、説明してもらえないかな」


 工藤彩葉が手を挙げる。


「これはどういうことなの?」


「このオフ会はある人間のために集められました」


 榛木ねこが静かに答えた。


「意味がわからないんだけど」


「いいえ。工藤さんもわかってて来てますよね」


 山崎ゆづりがピシャリと返した。


「ここにいる人はみんな共通のある人と関係があります」


 ある人?

 引っかかる言い方だ。

 もしかして、アイリのことだろうか。


「店も全面協力してくれています。なので、安心してこの会に出席した理由を話してほしいんです」


「その人は殺されたかもしれない」


 突然山崎ゆづりが口を挟んだ。


「死んだはずのそいつがオフ会に来るって聞いたからみんな参加したんでしょ?」


「ねえ、帰りたいんだけど」


 工藤彩葉が立ち上がる。


「死んだとか殺したとか、こっちは関係ないんだけど」


「ここまで来ておいてまだ関係ない?」


 山崎ゆづりが声を上げて笑い出した。


「今逃げたらあなたを疑うよ? 工藤さんだって『ある人』が誰かは察しがついているでしょ? それともあなたは工藤さんのニセモノですか?」


 工藤彩葉は何も言い返さずに黙って座る。


「工藤さん。もう逃げられないんですよ。逃げたら犯人です。だから、始めましょう」


 山崎ゆづりが場を仕切り出す。異様な雰囲気に圧されて俺は何も言い出せなかった。


「じゃあ、榛木ねこさんから。幹事だから」

  

 山崎ゆづりが榛木ねこを指さした。


 「わかりました」


 指名された方は、大きくため息をつく。

 これから、ようやく本当のオフ会が始まる。


「わたしは山崎さんに、あいつに仕返しできるっていわれて、協力しただけなんです」


 

 


 

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