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十六、ナポリタンの仕返し
俺は口元を緩める。
遠くでサイレンが鳴っている。誰かが通報したのだろうか。
「こいつをやったのは、俺じゃない。これは榛木ねこのバッドだ」
みんな青ざめた顔してを見つめている。
「黙りなよ」
小洒落た照明の下、綾香の笑い声が聞こえた。
「やっとあなたから開放される」
机の上にはナポリタン。
あのナポリタンだ。
「そうか。綾香は開放されるのか」
俺からも。
自分を恨んでいた奴らからさえも。
足元には山崎ゆづり。
サイレンが止んだ。
男の声がして、閉店の看板の掛かった扉が開いた。
終わってしまう。
冷凍庫の中からは、
お前の愛犬が見つかるだろうね。
「綾香」
ああ。名前を呼んでも心が満ち足りない。幸せはこみあげてこない。
「また会おう」
綾香は首を振った。
「もう終わり」
そして、微笑んだ。
「ナポリタンを食べたら別れる約束だからね」