表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ピーカ

失われた光

作者: 星行 張

 白石光瑠しらいしみちる、今年で14歳。孤児院で暮らしています。

 孤児院暮らしって言った通り、私はお父さんとお母さんとは生活してない。私がまだ赤ん坊の頃、何かの事情があって、泣く泣く私をここに預けたんだって。だから、私はお父さんとお母さんのこと、何にも知らない。顔も、名前も、何もかも。

 でも、私は全然寂しくなんてない。孤児院の職員の人達はみんな親切だし、一緒に暮らしてる子供達とも仲良し。大好きな人達に囲まれて、学校にも通わせてもらえて。

 勉強も、美術部の活動も、それに孤児院の仕事の手伝いも、一生懸命やってる。どんなことも笑顔で頑張ったら、みんな「光瑠は太陽のようだね」って言って、笑ってくれるから。それに…。いつか、お父さんとお母さんが、「事情」がなくなって私を迎えにきてくれたとき、いっぱい自慢したいから。二人を、喜ばせてあげたいから!


 今日は、顧問の先生の都合で部活がなくなったから、いつもより少し早く帰ってきた。廊下を歩いていると、職員の人達の話し声が聞こえて来た。どうやら、自分のことを話しているようだ。いけないことと思いつつも、つい立ち聞きしてしまう。そして、しばらくして…頭が真っ白になって、鞄を持ったまま、気が付けば孤児院の外へと飛び出していた。

 「捨てられた子」?お父さんとお母さんは、私を泣く泣く預けたんじゃないの?段ボールの中に、名前を書いた紙と一緒に入れられて放置されてたなんて、そんなの…嘘でしょ?じゃあ…いつかお父さんとお母さんが迎えに来てくれるなんて…そんなこと、ないってこと…?

 それだけじゃない。私が「痛々しい」って、どういうこと?!私が頑張ったら、笑顔でいたら、みんな喜んでくれると思ってた。なのに…ただ憐れんでただけってこと?

「じゃあ私…今まで何のために頑張ってたっていうの…?」

 しばらく走って、どことも分からない路地裏で、ポツリと呟いた。今まで無意識のうちに考えることを避けていた「嫌なこと」がどんどん頭に押し寄せてきて。全部が全部、どうでもよく思えてきたときだった。

「誰…?!」

 ふと気が付くと、目の前に一人の少女が立っていた。黒を基調とした、民族衣装のような長衣を身に纏い、美しい黒髪は地面につくほど長い。自分と同じくらいの年頃に見えるその少女は、私に向かって妖艶な笑みを浮かべながら言った。

「誰…?そうね、貴女の願いを叶える魔法使い、とでも言いましょうか…」

「魔法使い…?私の願いを、叶える…?」

 訝しみつつも、私はその少女に惹かれたのか、不思議とその場を立ち去ろうとはしなかった。

「ええ、そう。…辛いことがあったのでしょう?何もかも、投げ出してしまいたいのでしょう?だったら…私が、全部忘れさせてあげる」

「全部…忘れる…?」

 少女の甘い囁きに、私は何の不信感も抱いていなかった。そして、

「…そんなことが、出来るのなら…」

 …そうだ。「嫌なこと」に支配されるくらいなら、いっそ全部…。

 私の漏らした言葉に満足したのか、少女はふふっと笑った。

「そう…いい子ね。じゃあ…」

 …そう、もう、どうでもいい。

 少女が優雅な動きで、私に向けて手を差し伸ばす。私は導かれるように一歩ずつ少女の方へと近づいていき、その手に触れた。

「ああああああ!!!!」

 次の瞬間、眩しすぎるほどの強くて白い光に包まれ…そこで意識が途切れた。

―――

「強い光ほど闇に染まりやすいとは本当ね…。なんとあっけない…」

 片翼の天使のような姿に変わり、虚ろな瞳をした目の前の少女を見て、漆黒の少女は嬉しそうに微笑んだ。

「…親から名前のみを与えられて、捨てられた少女、ねえ…」

 切なげな表情で、ボソリと漏らす。しかし、すぐにそれを消し、威厳に満ちた声で言った。

「さあ、これからその能力ちから、我が主のために使いなさい!…ミチル」

「……ハイ」

 感情の込められていない声で答えた少女を伴い、黒き『魔女』は魔城へと姿を消した。


―――


「最悪!遅刻なんてしたら、水波みずはに何言われるか…」

 金髪の少女・赤羽花琳あかばねかりんは、高校に向かって猛ダッシュしていた。が、ふと中学生くらいの少女が数人の男に絡まれてるのを見かけて、足を止める。花琳はそちらに方向を変え、瞬く間に男達を撃退したのだった。

「ちょっと、あんた大丈夫?」

「……」

 助け出した少女に声をかけるも、返事はない。

「…ねえ、あんた中学生?」

「…知ラナイ」

「学校は?」

「…分カラナイ」

「はあ?!」

 とんでもない娘を助けたのではないかと思いつつも、花琳はさらに少女に問うた。

「…っ、じゃあ、名前は?!」

「……ミチル…」

「…ミチル…?」

 3年前から成長を止められた姿で、ミチルは機械のように答えた。


―――



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ