2.知らないうちに
いつも行けないケーキ屋さん巡りをして休みはあっという間に終わった。
そして今日は3日ぶりの出勤日。たった3日しか休んでないのに久しぶりな感じがする。
「おはようございます」
そういって厨房に入ると、そこのは見慣れたケーキが並べてあった。
私が考えて試食してもらったケーキだ。
「あの、これって、何のケーキですか」
「あー休みだったから知らないのか。これはおとといから販売開始してる新作だよ」
「え! 商品化されたんですか!」
まさか自分が休んでいるうちに商品化されているなんて思ってもみなかった。
「ん? このケーキ知ってたの? オーナーと藤崎さんで考案したって聞いたけど」
「オーナーと藤崎さん二人ですか?」
「そう聞いてるけど。ちなみにベリー系のムースにベリー系のチョコレートを合わせたケーキ。美味しいし見た目も可愛いから売れ行きいいよ。」
「そうなんですね」
私は状況が理解できず空返事をした。
見た目は同じだけど使ってるチョコレートは違うみたい。なんでこんなことが起きたんだろう。
呆然としているとオーナーが厨房に入ってきた。
「おはようございます!」
厨房にみんなの声が響く。
「オーナー! このケーキ、私の考えたケーキですよね」
「おー桜井か。何を勘違いしているか知らんが、このケーキは藤崎が提案してくれた商品だよ」
「勘違いなんてしてません。先日オーナーに試食してもらった私のケーキにそっくりじゃないですか」
私は泣きたい気持ちを抑えて伝えた。
「はあ……あのさ、このケーキは藤崎のレシピ。俺も案は出したけどほとんど藤崎が作った。そんで美味しかったから商品化された。それだけ。変なこと言ってないでさっさと仕事しろ」
何を言っても意味がなかった。無力だった。
その日はずっと上の空で、どう過ごしたかも覚えていない。
私のケーキはルビーチョコレートを使用してたし、違うと言われれば違う。でも偶然って言葉ではごまかせないくらい同じビジュアルだった。
せっかく考えたのに。
やっとの思いで形にしたのに。
私が頑張ってきたことはなかったことにされてしまった。
仕事を終えて、お店からの帰り道。私はずっと考えごとをしながら歩いていた。
いつもの道を歩いていたつもりが、気がつくと見慣れない場所に来ていた。