1.憧れと現実
私は、桜井杏。
幼い頃から甘いものが大好きで、将来は絶対パティシエになると決めていた。そして、製菓学校を卒業してすぐ、有名なケーキ屋さんで働き始めた。
朝早く出勤して仕込みをして、先輩パティシエのサポートをして、夜遅くまで試作ケーキを作って、クタクタになって帰る毎日を送っていた。思っていた以上に大変だけど、毎日大好きなケーキと向き合える仕事は幸せだった。
いつか自分で考えたケーキをお店に並べたい、その思いで毎日頑張っている。そして、やっとの思いで試作していたケーキを完成させることができた私は、今日の仕事終わりオーナーに試食してもらうことになっている。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。さっそくだけどケーキを見せてくれるかな」
「はい。こちらのケーキです。まだ名前は決めていません。ベリーをふんだんに使ったムースとルビーチョコレートを合わせたケーキです」
すごく緊張していたけど、自信をもって提供した。
「なるほど。見た目はとても華やかで目を惹くね。いただきます」
そう言うと、ゆっくりとケーキを食べ始め、ケーキに関することを細かく聞かれた。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「ありがとうございます!」
「だけどね、商品化するには何かが足りない。その足りない部分を見つけてほしい。もしよかったら明日から何日か休みをとって普段行けないような店に行ったみたらどうかな。ヒントが見つかるかもしれないよ。もちろん商品化は前向きに検討するよ」
そう言い残してオーナーは厨房を後にした。
「はい。ありがとうございます。商品化できるように頑張ります!」
オーナーの背中を見ながらお礼を言ったが、正直くやしかった。
何度も試行錯誤して完成した自信作だったのにダメだった。何が足りないんだろう。わからない。
私は厨房の片付けをして、もやもやした気持ちのまま帰宅した。
***
悔しいけど、気持ちを切り替えて頑張らないと。
そう思った私は次の日から3日間休みをもらって、普段行けないような遠いお店や、並ばないと買えない人気のケーキ屋さんをたくさん巡った。
それでもなかなか答えは見つからなかった。