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魔王と勇者のPKO  作者: 猫絵師
始まりの物語
10/58

エルフ狩り

「くそ!こんな時に!」


焦りと怒りが彼の口から漏れた。


彼の住むエルフの集落が人間の略奪者に襲われたのだ。


彼には身重の妻がいた。全く嫌なタイミングだ。


早く妻と合流しなければ…


焦れば焦るほど思っているよりもたつく。


手や足が震えるのでうまく動けない。


「くそ!落ち着け!」自分を叱咤しながら妻に頼まれて取りに来た首飾りを握りしめた。


妻のウィオラは出産を控えている。近日中に養父の元に連れて行く予定だった。


首飾りはその養父から贈られた大切な品だ。


どこよりも安全な場所だからと言って、養父は早めに帰ってくるように勧めてくれていたのだが、ウィオラがギリギリまで夫である彼と過ごしたいと言って離れなかった。


身重のエルフは人間に襲われやすい。


目的は赤ん坊だ。


人間の怪しい儀式に使うため、子供や赤ん坊をさらい、女性は奴隷にして売り払うのだ。


そんなこと絶対にあってはならない!


命に変えても妻とお腹の子は守りたい。


火を放たれた数件の家を通り過ぎ、妻がいる村長の家に走り続ける。


その時、村長の家から何か光が空に向かって放たれた。赤い煙を真っ直ぐに空に伸ばした光は、役目を終えると空中で消えた。


王軍に(しら)せるための救難信号とすぐに分かった。


すぐに近くの部族や王軍が助けに来てくれるはずだ。


恐らくウィオラはまだ無事だ。そう確信して彼は村長の家の前で止まった。


「ステファノ!早く入りなさい!」


家の中から叫んでいるのは彼の父であるこの集落の長老だ。


いつもは落ち着きを払っている父だったが、この時ばかりは焦りを隠しきれなかった。


「ウィオラは無事だ!」その言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。


村長の家はエルフ以外が近寄れば攻撃する強い泥人形が守っている。


ここに逃げ込めば、ただの略奪者では歯が立たない。


「ステファノ!」二階の窓から彼女が顔を出した。


夜空のような藍色の瞳が不安で濡れている。


「僕は無事だ!」そう言って手に持っていた首飾りを掲げた。


「首飾りも無事だよ。これを持ってお義父様の所に行こう」


そう言って家に入ろうとした時、背後から犬の鳴き声が聞こえてきた。


略奪者がすぐそばに来てる。


そう悟ってまたゾッとする感覚を覚えた。


慌てて入口を閉めて二階に駆け上がった。


既にその場には二十人ほどのエルフが避難していたが、その中からウィオラが彼に駆け寄って抱きついた。


「良かった…無事で良かった…」


「僕なんか何でもないよ。


君に何かあったら、僕達は君のお義父様になんと謝罪したらいいか…」


ステファノがウィオラを優しく抱きしめる。


ウィオラの大きくなったお腹が動いた。


それがとても愛おしい。こんな時なのに笑顔がこぼれた。


ステファノはウィオラを抱きしめる腕を緩めて彼女の顔を覗き込んだ。


彼には彼の役目がある…


「君はお腹の子を守って、何があっても父上から離れないで」


「どうしてそんなこと言うの?!私と一緒にいて!」


涙をいっぱいに溜めた目で見上げ、追い縋るウィオラに、ステファノが優しい声で言った。


「まだ逃げ遅れた人達がいる。僕も助けに行かなければ」


犬の鳴く声が聞こえる。この場にいない仲間が心配だ。時間の猶予はない。


「一人でも多く助けないと…」


「ステファノ!」


行かせまいと縋り付くウィオラにキスして、「彼女をお願いします」と、彼は妻を父に託した。


二階のテラスから飛び降りると、地面が形を変えて彼を受け止めた。


「ありがとう」


彼は《愛された者》だ。


土の精霊が彼を傷つけることは決してない。


「行こう」


彼のその言葉に精霊が応じる。


急いで助けに行かなければあの方を失望させてしまう。


ステファノは自らを奮い立たせて悲鳴が聞こえる方角へ足を向けた。


✩.*˚


その日、魔王の城は大忙しだった。


出産を控えた王女が城に戻ってくるのだ。


城の一角に、彼女のための部屋が用意される。


産まれてくる子供のために万全の用意をしているさなかの出来事だった。


けたたましく響く鐘の音は、城の中だけでなく城下まで響き渡った。


「陛下!ジューリオの集落からの救難信号を確認されました!」アンバーの元に血相を変えたペトラが駆け込んできた。


彼女もまた、妹のために部屋を用意していたところだった。


「何だと!」赤ん坊の揺籃(ゆりかご)を用意していたアンバーが驚きを隠せずに叫んだ。


「ウィオラ!」手に持っていた揺籃を投げ捨てた。


乾いた音が床に響く。


「私だけでも先に行く。座標は分かっているからその方が早い」


そう言って、アンバーは自分の杖を拾い上げ、慌てて転移用の魔法陣を展開する。


青白い光が辺りを包み込む。


ペトラが叫んだ。


「陛下お待ちを!私も参ります」


「襲撃者がいる中にお前を連れて行けない」


ペトラは過去に襲撃者を襲われている。


まともに人間に向き合うことも出来ない。


それでも彼女はアンバーの衣を掴んで食い下がった。


「ウィオラと子供が心配です。


私は治癒魔法が使えますからどうかお供に」


「…分かった、私の側から離れるな」


「心得ております」


ペトラが硬い表情で頷く。


襲撃者の鐘がなった時点で、他の王子たちも気付いているはずだ。


あとはルイとイールが対応する。


「《開門(イニーレ)》」


アンバーは魔法陣を発動させた。


略奪者の仕事は早い。


殺して奪う。それだけだ。


そこに思考などは無く、あるのはどれだけの儲けになるかだ。


どんなに命乞いしようが、子供だろうが慈悲は無い。


慈悲や躊躇いなどは、彼らの利益を妨害する感情でしかない。


それを知ってるからこそ、彼は焦っていた。


転移が完了するまで数秒のはずなのにそれが恐ろしく長く感じる。


ウィオラは、子供は無事だろうか?


彼女を嫁がせた青年(ステファノ)は無事だろうか?


あの夫婦の笑顔が脳裏を過ぎった。


焦ったせいだろう。


出るはずの座標が少しズレた。


木の生い茂った茂みに出てしまったようだ。


「ペトラ、大丈夫か?」


「大丈夫です。ついてきています」


ペトラがニコッと微笑んだ。しかしその表情は少し硬い。


「私の服を離さないようしっかり握っていなさい」


「はい、陛下」


震える手でアンバーの服の裾を持ち、草木をかき分けながらついて行く。


辺りから煙の臭いがする。


それと一緒に嫌な臭いが立ち込めている。


鉄の錆びたような臭い、血の臭いだ。


「…忌々しい」


アンバーは自分の中で、負の感情が湧き上がるのを感じた。


「抑えてくださいませ、陛下」


心配そうにペトラが小声でアンバーに話しかけた。


アンバーは理性がある。


しかし強い負の感情に押し流されると、不死者(リッチ)の本性が現れ、怪物になってしまう危険を孕んでいた。


「大丈夫だ、ペトラは自分の身を守ることだけ考えなさい」


アンバーはそう言ってペトラの頭を撫でた。


その行為は、彼女を落ち着かせるためで無く、自分を抑えるためだった。


「行くぞ」


ペトラが居てくれて良かった。


彼女が居るから自我を保てる。


アンバーが木々をかき分けて進むと、開けた集落の端にたどり着いた。


二人を見つけた大きな犬が、アンバー達に向かって吠えたてた。


エルフを狩るために訓練された猟犬だ。


牙を剥き、ペトラに飛びかかる隙を伺っている。


「やかましい!私の娘に対してその態度は何だ!」


アンバーが苛立ちを犬にぶつけた。


叱られた犬が口から泡を吹いて倒れた。


目を見開いて死んでいる。


ペトラは犬から目を背けた。


アンバーの服を掴む手が震えながら強くなる。


「私の外套の下に隠れていなさい。


ここから先はお前には酷だ…」


アンバーは彼女にそう告げて、抱き寄せると外套(マント)で娘の視界を遮った。


自分の今からすることは彼女には見せられない。


自分は今から《魔王》として、略奪者を殺すのだから…


外套(マント)の下にペトラを隠して正解だった。


集落のいくつかの家は廃墟と化していた。


至る所で火が燻っている。


男性のエルフの死体が数体転がっていた。


目を抉られ、内臓の一部を抜き取られた状態だった。


その中で一際悲惨な死体が彼の目を奪った。


「ステファノ…」


手足を切り落とされ、犬に肉を抉られていた。


内蔵は引きずり出されていて、彼の優しそうな灰色の瞳はあるべき場所に無かった。


「ステファノがどうなさったのですか?


彼が居たのですか?」


「…後で話す」


とてもじゃないがペトラには見せられない。


彼は娘婿の亡骸をその場に残して、また襲撃者を探して歩き出した。


集落の中央の土が盛り上がっている。


その中に家の屋根が見えた。


そこを知っている。村長である長老の家だ。


「ステファノ、よく頑張ったな、礼を言う」


人の怒号と犬の吠える声が聞こえる。


「ペトラ、目を閉じて耳を塞いでいなさい」


「…はい」そう返事をしてペトラは体を強ばらせた。


略奪者はまだあの家に到達していない。


ステファノを拷問したのは彼の魔法を解かせるためだ。


彼は土の精霊に《愛された者》だ。


守りに入れば土の精霊達はダイヤモンドに匹敵する壁を作ってくれる。


彼は命と引き換えにあの家を守ってくれたのだ。


家に向かって歩くアンバーに気付いた犬がこちらに向かって吠えた。


それに気が付いて土の壁を殴りつけていた男たちが視線をアンバーに向けて驚愕の表情で悲鳴を上げた。


「リ、不死者(リッチ)だ!」


「何故こんな所に…自然発生したのか?!」


男たちが慌てて逃げようとるする。


彼らはエルフを捕まえる専門だ。


無理して不死者を相手にしてまで利益と命を失いたくないのだろう。


「つれないな、せっかく私が直々に足を運んだのだ、まだ帰るには早すぎるだろう?」


血で薄汚れた男たちを赤い光だけの目で睨めつけて、アンバーは杖を持った骨だけの腕を掲げた。


「『牢獄(カルチェリウム)』」


周囲に鳥籠のような格子が出現する。


男たちは絶叫しながら格子を殴りつけるがビクともしない。


「くっそぅ!何とかしろよ!」


「こんなはずじゃ!こんなことになるんだったら俺は降りてた!」


「助けてくれ!子供が!家族を養うために必要だったんだ!」


それぞれが悲鳴を上げ、醜く生き延びようともがいている。


その姿がアンバーの癇に障る。


「随分身勝手では無いか?


私の子等を、私の土地を荒らして謝罪の言葉も出ないのか、下衆どもめが!」


檻の中の空気が凍りつく。


一人が震える声で呟いた。


「ま、魔王…」


「そうだ、お前たちが魔王と呼ぶ存在だ」


アンバーが肯定すると、男たちは半狂乱になった。


絶叫しながら檻を破ろうと持ってるものを叩きつける者や、爪が剥がれるのを気にも留めず、必死で土を掘って逃れようとする者もいた。


尾を丸め込んだ犬たちは狂ったように吠えながらアンバーを拒絶している。


アンバーが一歩、また一歩と彼らに近づく。


その時、パニックを起こした一人がアンバーに向けて火矢を放った。


それを見た他の男たちも、習うようにそれぞれの得物を持ってアンバーに襲いかかった。


万に一つをかけて彼の隙を誘う気だったのだろう。


それでも、矢も刃も彼には届かなかった。


いきなり発生した旋風が矢を叩き落とした。


刃物を持っていた男たちも慌ててたたらを踏む。


ペトラを加護する風の精霊が凶暴化したのだ。


空気が震え、アンバーの周りにの風がヒュンヒュンと音を立てて見えない刃を振り回している。


「陛下に…手は出させません…」


黒い分厚い外套(マント)の下から震える声が聞こえた。


アンバーはペトラの震える体を左腕で抱き寄せて背中をさすった。


何が起きたか分からず、恐怖で動けない男達を一瞥して、アンバーは杖を手放した。


杖は手放したにも関わらず倒れることなく、ゆっくり回りながら空中に浮かんでいた。


「お前たちが善良な人間であれは私も手を下さなくて済んだものを…」


娘婿の仇だ。容赦しない。


「呪われろ、『腐乱(クオロロンピ)』」


杖からドロっとした黒い空気が溢れた。


黒い靄のような空気は、略奪者たちを包み込んですぐに消えたが、彼らの体には異変が起きていた。


黒い斑点が体に染み込んでいる。その斑点はじわじわと体に広がった。


「何だ…うわぁぁぁ!」


突然腕の肉が崩れた。


足も体液を吹き出しながら崩れる。


まるで溶けるように肉が崩れていく。


目玉が眼窩から溢れるものや、歯茎が溶けて歯が抜け落ちる者もいた。


「助け、助けてくれぇ!」


助けを求める悲鳴も途中からゴボゴボと溺れるような音に変わる。


辺りに人の肉が腐る異臭が立ち込めた。


「…う、う…」外套の下でペトラが苦しそうな声を上げた。


その声に気付いてアンバーが慌ててペトラの様子を確認した。


「おぉ、すまないペトラ」


「だ、大丈夫です…ただ、臭いが…」


鼻と口元を押さえて吐きそうな顔をしている。


顔色も悪い。


「すまない、怒りに負けてしまった…」


彼の中で最も苦しい罰だ。


生きて意識があるままで、自分の肉が腐っていくのを見るのは精神的にも身体的にも堪える。


アンバーは彼らが死ぬ前に魔法を解除した。


もう五体満足な者は居なかった。


「まだ生きている者もいます」とペトラが言ったが、アンバーは「捨ておけ」と答えた。


どうせ何も出来ないし、すぐに死んでしまうだろう。


留めを刺して楽にさせる気はなかった。


そんなことより…


「レクス・アルケミストと王女のペトラが来た。


外はもう安全だ。


長老、無事なら中に入れてくれ」


土の精霊が積み上げた土塁の内側から、安堵の歓声が聞こえた。


直ぐに一人のエルフが出迎えた。この村の長老・ジューリオだ。


「陛下御自ら…感謝致します」


「中の者は無事か?」


アンバーの質問に長老が頷いた。しかしその表情は曇っていた。


「ステファノのおかげで…彼は…」


「間に合わなかった…ご子息には申し訳ない事をした…」


「左様でしたか」と長老は悲しげに俯いた。


「それでも陛下のおかげで私たちは生き延びることが出来ました」


「近くにいた略奪者は処刑したが、まだ他にもいるのだろうか?」


「分かりません。


もう逃げ延びたかもしれません」


アンバーとジューリオが話していると他の部族が駆けつけた。


屈強なリザードマンだった。


話を聞けば、仲間を連れてエルフ達を助けに来てくれたらしいが、その途中で人間を数人捕まえたらしい。


「骸骨の王、指示を」


リザードマンの戦士がたどたどしい言葉で言った。


彼らは普段喋らない。


聞こえない音域の音で意思疎通をする。


喋るということは身分の高い教育を受けた者だ。


「ルイ王子が来たら引き渡してくれ」


「仲間、伝える」


たどたどしくそう言ってリザードマンは踵を返した。


「助けに来てくれたこと、感謝致します」


立ち去ろうとしたリザードマンにジューリオが深深と頭を下げた。


リザードマンは首を傾げたがすぐに不慣れな言葉で返した。


「族長、約束した、我ら仲間、助ける」


アンバーはその言葉を聞いて嬉しかった。


「後で酒を届ける。皆で飲んでくれ」


「骸骨の王、感謝、する」


嬉しそうにチロチロと舌を出してリザードマンは立ち去って行った。


少し遅れて到着したルイ達に人間と猟犬を引渡し、落ち着いたところでアンバーはウィオラを訪ねた。


正直な話、会わす顔もないのだが、彼女が心配だった。


お腹の子も無事だろうか?


恐る恐る長老の家の寝室を訪ねると、ウィオラの傍らにペトラが控えていた。


「魔法で眠らせています。


ステファノの事は…まだ…」


「分かった、ご苦労」


彼の事を思うと頭が重くなるのを感じる。


「こんな事って…こんなはずじゃなかったのに…」


ペトラの目から涙が溢れる。


「あんまりです、ウィオラに何て言ったら良いんですか?!


ステファノだって…あんなに楽しみにしてたのに」


彼女の嘆きはもっともだ。


嫁いで二十年近く、この時を待ちわびていた。


エルフの妊娠期間は2年から4年で部族によって異なるが、彼女は長い方だった。


恥ずかしそうに報告しに来た夫婦の姿を思い出すと胸が痛む。


『お父様がお爺様になるわね』と彼女は笑っていた。


やっともうすぐ産まれると言う幸せな時にとんでもない邪魔が入ったものだ。


「ステファノの事は本当に残念だった」


「…はい」


「それでも、彼のおかけで被害は最小限で済んだ。


悲しんでばかりもいられない。


彼の命を無駄にしないためにも、ウィオラと子供には生きてもらわなければ…」


ウィオラが夫の死を受け止められるかは分からない。


仲の良い夫婦のだったから尚更だ。


「私たちにできることは彼女の悲しみに寄り添うことだけだ。


あとはウィオラ次第だ」


「…はい」


「ペトラ、頼りにしているよ。


ステファノの事は私から話す。


子供は皆で育てよう」


アンバーの言葉にペトラは頷いた。


そして気掛かりなことを質問した。


「陛下…あの勇者はどうするおつもりですか?」


「ミツルか?」


「人間が…違う者とはいえ、王女に危害を加えようとして、伴侶を殺したのです。


彼にとって苦しい状況ではありませんか?


私はやはり彼を、人間を受け入れることは出来ません」


まだそんなことを言っているのかと呆れられるかもと思っていたが、アンバーの答えは意外だった。


「その気持ちは分かる。


私だって、やはり人を共存相手にするのには躊躇いがある。


ウィオラは大切な娘だし、ステファノも亡くすには惜しい人物だった。


あんな形で奪われれば憎しみも湧く…」


そう言って眠っているウィオラを見た。


金色の長い髪、白磁のような白い肌、長いまつ毛は顔に影を落としている。


美しいこの姿が、嘆き悲しむ姿になるのを想像するだけで辛い。


死んで逝った者にも、生き残った者にもとんでもない苦しみを背負わせる人の業が憎い。


「それでも、こんなことは終わらせなければならない。


同じ世界で生きるものとして、こんなことは続けさせてはならないのだ。


そのために私は勇者を利用する」


アンバーの言葉を聞いていたペトラが急に椅子から立ち上がった。


木製の椅子が床に倒れて大きな音を立てる。


「…勇者一人に何ができるんです?


何も変わりません…私達も人間も」


泣き腫らした目でアンバーを睨んでペトラは寝室から出ていった。


この期に及んでまだ絵空事を言っている彼に愛想を尽かしたのだろう。


一人になった王は寂しげにため息を吐いた。


ウィオラが目覚めたらなんと言おう…


子供が産まれるまで伏せておいた方が良いのだろうか…


そんな事を考えながらただ時間だけが過ぎていった。

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