超合金 戊
海軍が合金技術をなんとか物にしかけた頃、他にめぼしいというか面白い技術が無いかと探した。
案外近いところに有った。船と発電所である。川崎造船所が手掛けているディーゼル船と重油火力発電所が話題になっていた。かなり燃費も良く出力も大きいというのだ。
川崎造船所は自社が手一杯で、提携先を造ったり景気の悪い造船所を買収するなどしているが、それでもバックオーダー多数だという。
海軍は川崎造船所に話を聞きに行った。なかなか話さなかったが、遂に折れた。川崎への発注を云々と言えば、大抵は話を聞く。(汚い。川崎造船所側は思った)
その技術の元は日本海技術研究所からだという。なんでも一部業界の片隅では有名らしい。
川崎造船所に渡りを付けてもらい、話を聞きに行った。
興味深かった。ディーゼル機関だけではなく、重油ボイラーも出力が上がる技術だと。小型のガソリンやディーゼルには効果が大きいが、大型の船舶用や発電所用はそこまでではないという。それでも3割程度の出力上昇が有れば素晴らしいと思った。海軍が持つ超合金技術と合わせれば、5割増し以上行くのではないかと思われた。
海軍は日本海技術研究所に技術協力を求め、更に囲い込みを図った。しかし。技術協力はともかく、囲い込みは拒否された。囲い込みは諦めて技術提携を行うことになった。囲い込みを諦めて自由にさせた結果、とんでもない成果を上げるとは思わなかった。
彼らの秘匿している技術は世界で誰も成し遂げていない技術だった。それが素材技術と加工技術が未熟なために実現できなかった。
舞鶴遺構はその技術を認め、いくつかの資料と加工するための機材を提供し始めた。
当然軍機指定とさせて貰う。彼らは文句を言ったが、軍の管理下に置く。
超合金技術は隠し通せるものでは無く、徐々に拡がっていく。今の所国内だけだ。海軍の所管なので、海外には出さないだろうと言われている。
海軍は、独自の海外戦略に出る。このまま陸軍に引っ張られてはいかんと言って。政治に関与せずという軍人勅諭を陸軍が守る気ないのだ。対抗上の措置を執ったに過ぎないと言う。
昭和11年、イギリスへの接触。超合金技術といくつかの技術を餌にABCD包囲陣の切り崩しを謀った。ドイツが再軍備宣言をしたことで、ヨーロッパに緊張が走っている。そこで優秀な技術と引き換えにABCD包囲陣の手を抜いて貰おうと。外務省他各省庁のイギリス系グループも巻き込んで実行した。
これはある程度の成果を収めた。イギリス本国やイギリス植民地からの対日貿易規制が緩くなったのだ。イギリスは日本を刺激しないために緩くしたが、制裁を解除したわけではないと説明している。
イギリス側関係者は疑い深い目で日本側が持ち込んだ装甲板を見ている。当然だ。彼らに最近の装甲板技術を教えたのはイギリスのヴィッカースだ。
自分たちの装甲板を上回る装甲板が日本で出来るわけも無いと。
試験は行われた。唖然とするイギリス側。ほくそ笑む日本側。
まさか、300ミリで450ミリ相当の性能があるとは。日本側は500ミリ相当と謳っていたが、それでもたいしたものだ。
更に機関の技術も有るという。これなら、計画中の新型戦艦がかなり良くなるのでは無いか。そう思われるだけのものを、日本は提供するという。
喧々諤々(けんけんがくがく)の議論や殴り合い寸前の仕様決定会議を経て、日本の技術導入が決まった。
装甲板は、これから建造される艦艇に導入する事となった。機関は至急検証が必要で有り駆逐艦で試験導入することになった。
トライバル級のパンジャビが選ばれた。起工前でまだ工事開始日時と設計変更が出来た。
トライバル級の機関区画に収まる機関をと言う注文に日本側は応えた。白露級とほぼ同等の性能を持つ機関だった。
5万2000馬力を発生する機関はパンジャビに38ノットの高速と18ノット巡航で6000海里の航続距離を与えた。15ノットなら7000海里になった。
驚くイギリス側と当然だよという日本側。
キングジョージⅤ世級戦艦や他の艦にも、日本の装甲板と機関が搭載されることが決まった瞬間だった。ディーゼル機関の燃料噴射装置も同時期に技術導入が決まった。
次いで交渉に入って、日本から技術供与を受けることになった。しゃくに障るが隔絶しすぎている。同時に何故日本がそのような技術を突然持つようになったのかも、調査されることになった。
イギリス諜報機関はさすがで、舞鶴周辺からと言うことは調べられたが、それ以上は日本海軍の警戒が厳しくて無理だった。友好国に復活する予定で無理が出来なかったということも有る。
イギリスからの締め付けが緩くなったのはこれが原因とされる。
次いで、日本側が提案してきた。レーダーの性能が良くなる可能性の有る技術が有るがどうか。
バカにするわけもいかない。装甲板と機関という実例がある。情報によると日本のレーダー技術は遅れているという。フム。良いだろう。
スーパーマグネトロン管は注目していた。まさか技術資料一式と現物が手に入るとは。
他になんだこれは?トランジスターとダイオードだと?いくつかを組み合わせると真空管の代わりになる?それに・・・
これは凄いものだ。導入を交渉するがさすがに断られ、必要数は納入努力するという事になった。日本側もまだ開発途上の物で有り、品種も限られ生産量も少ないこと。歩留まりが悪すぎて必要数すら怪しいと言う。
トランジスターとダイオードはレーダー開発部門から、通信部門へと。そして暗号解読部門にも話が流れた。これに注目したのがチューリングだった。「エニグマの解読が楽になるかも知れない」そう漏らした。
チューリングを中心にトランジスターを利用したエニグマ解読器が開発されることになった。その努力は実を結び1943年に世界最初のデジタルコンピューターが誕生する。
イギリスの日本向け経済制裁が骨抜きになったのは、以上の影響からだった。
次回更新 7月27日 05:00
超合金と触媒(転成者)の二つを混ぜてしまったので、時系列に怪しい部分があります。
ご容赦のほどを。