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燃ゆる太平洋   作者: 銀河乞食分隊
変わる世界
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超合金 丁

 マイヅリウムの研究は進んだ。マイヅリウムだけではなく、舞鶴遺構(秘匿名称 機関学校舞鶴保養所)から出てくる技術的資料や設備は凄かった。海軍がコレに掛ける意気は凄い物が有る。

 

 マイヅリウムを使えば、今までと同じ装甲厚で倍以上の防御力を持てるのだ。船体も優れた構造材を使う事で頑強な船体が出来上がるだろう。機関への応用でも高性能機関の実現が現実になりつつある。



 そんな中、機関にマイヅリウムを応用した艦が竣工した。

 初春級駆逐艦初春がそれである。まずは大艦ではなく小型艦艇からと言うことになるのは、得体の知れない新技術(ゆえ)だろう。

 わずか1500トンの船体に詰め込めるだけ詰めた武装により、解りきったことだったが上が重すぎた。機関はマイヅリウム応用で高性能を実現した。設計開始時の計画速力は36ノットであったが、40ノットを実現している。直線番長の出現だ。

 この艦は、公試時に全速で舵を切ると転覆寸前まで傾斜した。傾斜しすぎて怪我人まで出た。この事態を重く見た海軍は、実態解明に努めた。期待の新技術を詰め込んだ艦だ。失敗は許されない。

 一番の問題は武装を詰め込めるだけ詰め込ませた用兵側で、次に実現可能であるとして設計した造船側だった。

 技術的問題は、いろいろ有った。舞鶴保養所の資料ももちいて分析していく。

 結果は、トップヘビーと技術未熟が主原因になるものだった。トップヘビーは武装や艦橋設備の詰め込みすぎ。技術未熟は、取り扱いに馴れていない新材料と溶接技術の経験不足から来るものだった。マイヅリウム合金は通船が試験的に造られ、実用として駆潜艇から始まり特型駆逐艦や高雄級の装甲板と手配が間に合った一部に採用されているが、導入初期と言うことで丁寧な工事が監督も含めて行われていた。また、溶接が全面的に信用できないとして重要部分は従来の鋲接だった。その結果をフィードバックして全溶接工程で建艦したはずだが「技術を消化しきれなかった」と言う結論になった。つまり、艦政本部と工廠側の詰めが甘かった。同時に船舶設計理論に問題が有ることが判明した。しかし、舞鶴保養所は答えを出さなかった。自分たちで考えろと言って。楽はさせないと言うことなのだろう。

 合金も鉄系合金しか出して貰えない。こちらがある程度の開発をしてないものは出してくれない。こちらの技術体系以外の技術は余り出したくないようだ。


 取り敢えず、既に建造中の艦の過大傾斜解決策は、上を軽く小さくするしか無かった。建造中の4隻にはストップが掛かり、竣工済みの2隻は復元性改善のためドック入りが決定した。

 予算は12隻分出ているが、初春級は6隻で建造打ちきりとなった。後継艦として、改設計した白露級が登場する。

 同時に、同じような艦が出ていないか点検をした結果、有った。千鳥ちどり級水雷艇だった。直ちに運用を停止。復元性改善工事を行うことになった。

 高雄級や特型駆逐艦も対象となり、復元性改善工事が行われた。


 この余波は有る。造船側では藤本喜久夫造船少将が譴責と半年の減給と同じ期間の謹慎。無茶振りをした用兵側では大問題だった。転覆の危険性があるのを承知で押し付けたのだ。過剰武装を押し付けた者達はもれなく左遷に謹慎と減給処分とされた。以降、無茶振りをする者は減っていく。海軍と言っても官僚組織には変わりない。組織人にとって賞罰欄に×が付くのは出世や配属される部署に影響する。

 また、技術に詳しくない者が技術的要望を押しつけることが散見される現状を改善するために採られた方策は、第三者を途中に挟むことだった。軍令部も艦隊も用兵側で有り、第三者にはなり得ない。第三者は海軍省に押しつけられた。

 艦隊としては強力な艦は欲しいが、それ以前に船として安全な艦が大事だったので異論は無かった。軍令部と海軍省の一部に不満を言う者がいるが、正気な人間からは敬遠されることになる。

 譲らない造船少将は「ほれ見たことか」とせせら笑った。



 マイヅリウム合金採用艦は、初春級の失敗を元に建造された白露級は成功と言って良かった。

 変更点はいろいろ有る。まず上部構造物を減らして重心を下げた。連管を3基から2基に減らしたが4連装とし射線の減少を最小に抑えた。新開発の次発装填装置も装備している。

 主砲も連装2基とした。初期計画では連装2基と単装1基の計画であったが、重量増を過剰に嫌い連装2基のみとなった。砲塔防楯は波浪よけ程度の物から、丙種合金を使用し従来装甲厚15ミリ相当の弾片防御可能な物になった。

 機関は初春級と同じである。

 大きく変わったのは船体だった。少し太くなった。また、機密兵器1号機雷を乗り切るべく設計された日本艦独特のダブルカーブドスプーンバウは、1号機雷を決戦海面の敵針路上ににばらまくという行為自体が実現不可能な構想とされ1号機雷は通常の浮遊機雷の扱いとなる。1号機雷を考えなくて良いのでクリッパー型艦首形状になった。クリッパー型と言ってもシアが大きくフレアも大きい凌波性の良い形状だった。

 全溶接も引き続き採用された。譲らない造船少将はお冠だ「ワシがダメだというのに採用しおって」

 鋲接にすると船体重量が超過するのだからしょうがない。


 全溶接に自信を持った海軍は空母にも適用した。蒼龍・飛龍建造に当たっては、白露級同様に全溶接構造とマイヅリウム合金採用機関を導入する。

 全溶接と言っても竜骨部分はまだ自信がないためにそこだけは鋲接だ。

 マイヅリウム合金の威力は良好な溶接性と共に溶接接合部でも高い強度を持つことだ。この頃になると乙と甲も試験的に製作されるようになっている。

 蒼龍・飛龍は贅沢な艦だった。高雄級と最上級に龍襄・蒼龍・飛龍までは装甲板に丙種合金を使っている。蒼龍・飛龍以降は丁種合金で厚さで稼ぐ安めの装甲板が使われる。

 


次回更新 7月26日 05:00

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