マリアナ
「敵艦隊、トラック島に上陸しません「沖合を通過した」とトラック司令部より入電」
「なんだと?」
「司令長官」
「マリアナか」
「どうされますか。マリアナには戦闘機が残っていません」
「行くしか無かろう。誘っているのが分かっていても」
「珊瑚海とミッドウェーの逆ですか」
「珊瑚海は上手くいった。ミッドウェーは敵がミスしてくれた。今度はそう上手くいかないだろう」
「救いは、敵の速力が遅いことですが」
「大規模な船団を従えていてはな。と言っても猶予は30時間程度だろう」
「どこで会敵されますか」
「サイパンと合わせたいが。航空参謀。一昨日。戦闘機100機他80機をサイパン向けに発進させたと連絡があったな」
「はい」
「航空参謀は直接サイパンに飛行できたと思うか」
「いえ。航続距離はギリギリ届きますが、風による影響で届かない可能性もあります。それに搭乗員の疲労と事故・故障を考えると、小笠原で一泊させる方が確実です」
「なら今日は使えるということで考えていいのか」
「小笠原の整備能力次第でしょう」
「もし100機なら大きいな。他80機は何だ。攻撃機だろうが」
「サイパンにいる航空隊は120機の攻撃機を保有しています。合わせれば200機の攻撃力を持ちます」
「全部使える訳でも無いだろう」
「索敵で20機程度は使うと思われます」
「20機は少なくないか」
「敵の来る方向がおおよそ分かっていますので、その機数でも不足は無いかと」
「ならば基地航空隊の支援は期待できるな」
「基地航空隊の支援ありきで、後方の特設空母以外全空母が甲板繋止してきましたから」
「索敵機も発艦出来ないとはな」
「トラックに出したのは、戦闘機のみの空母からです。すでに後方から補充は完了しております」
「未帰還は13機だったな」
「敵の機数も少なく、交戦意欲も低かったのでこれで済みました」
「しかし、トラックに着陸させた連中は無事だったのだろうか」
戦闘機のみ搭載してきたのは、隼鷹・飛鷹・瑞鳳だった。幸いな事に収容可能機数よりも残存機が多かったので、収容しきれない機体はトラックに降ろした。
「戦艦による艦砲射撃で機体は残っていない。と報告がありました。搭乗員は離れた防空壕に居て無事を確認しております」
「ならば良かった。艦隊は明日、稼働全機をもって敵機動部隊と雌雄を決する」
翌日、サイパン島より「敵見ゆ」の一報があった。予測よりも距離が離れているし位置がおかしい。こちらの予測よりも北にいる。
海図で見てみると、こちらの位置を予測して上陸船団と我が艦隊の間に敵艦隊がいるように配置されている。
そのままサイパンに行ってくれれば、上陸船団を横から一撃しようと思ったのだが。そこまでは甘くないか。
敵艦隊を発見したのは、サイパンから発進た海軍が借りている一〇〇式司令部偵察機四型だった。三型に排気タービンを装備して、高度1万メートルを640km/hで楽に巡航できる。グラマンはもとよりシコルスキーもこの高度では追いつけない。6000まで降りるとシコルスキーに追いつかれるので、8000で偵察をした。しかし艦隊に近づくと対空砲火が異常な精度で撃ち上がってきて、危険として高度を上げた。この時機体に破片が当たり損傷した機体は味方増援が来る前に撃墜された。
増援は合計6機体制で細かく敵情を探った。1機は撃墜され、合計2機が撃墜された。
敵機動部隊は3群。前衛戦艦部隊と上陸船団の合わせて5群だった。上陸船団は数えるのが難しいほどの隻数でおおよそ150隻と推定された。
上陸船団上空は対空砲火が薄く、精度も良くなかった。
「攻撃隊発艦開始」
「発艦開始」
重くて攻撃過負荷では自力発艦が難しい流星がカタパルトで発艦していく。爆装ならなんとか発艦できるが雷装だと難しいと聞く。艦隊上空は編隊を組むための機体が乱舞している。流星を積んでいるのは尾張・紀伊・赤城・翔鶴・瑞鶴の5空母。加賀・蒼龍・雲龍・雷龍・青龍は彗星と天山だ。隼鷹・飛鷹・瑞鳳は零戦三二型しか積んでいない。従来よりも戦闘機比率を高めたが、敵も戦闘機比率を高めているようで攻撃力は減っている。その分お互いに機数を増やしている。どこまで行っても盾と矛の関係は変わらない。
こちらはまだ見つかっていないが、時間の問題だろう。先に叩くだけだ。
第1次攻撃隊350機が敵目指して飛んでいく。
途中、敵索敵機とすれ違ったと報告があった。もちろん撃墜したが、電波は発したと言う。奴らも来る。
今回の布陣は
甲部隊
八駆
阿賀野
十五駆 十六駆
一航戦
一戦隊
五戦隊
十一駆
乙部隊
二十四駆
矢矧
十二駆 十駆
五航戦
六戦隊
二航戦
八戦隊
七駆
丙部隊
四十五駆 四十七駆
七戦隊
四航戦
九戦隊
三個艦隊に分かれている。ミッドウェーでは珊瑚海に続いて空母多数を集中させたが、空母が増え機体も多すぎて管制と艦隊運動が実戦では出来ないと言う問題が発覚。
防御力と速力を考えこの布陣となった。四航戦は艦隊防空専任と言うことで当初甲部隊に入っていたが、敵の規模が想定以上に大きく防御力に不安があるので七戦隊と九戦隊を付け急遽後方に下げた。四十五駆と四十七駆は後方部隊から呼び寄せた松級である。
次回更新 8月31日 05:00




