トラック沖海戦 前章
ほとんどおっさんのぼやきです。
ファガーソン中将は悩んでいた。43任務部隊を率いるのは自分でいいのだろうかと。
珊瑚海海戦・ミッドウェー海戦と大きな負けが続き、空母に詳しいと言うか空母部隊の指揮を執ったことがある将官が大きく減った。周りを見れば珊瑚海・ミッドウェーと空母の指揮を執った自分以上に空母経験を持つ指揮官が居ない。海軍全体を見れば居ないことも無いが、スプールアンスは戦傷の後遺症で前線には立てなくなっている。海軍大学校で教鞭を執るのだと便りにあった。
他に将官で経験の多い者がいないからと中将にさせられ43任務部隊を率いろときた。他に居ないから仕方が無い。全力を尽くすのみだ。
だいたい、一番最初にフィリピンなど放っておいて全艦でトラックに押し寄せれば勝てたのだ。オーストラリアという策源地が無ければ、オレンジ作戦の通りマーシャルで決戦だっただろう。
落ち着いてから、今回の戦力を考える。
そうだな。最初からこれで行けば良かったのにと思う。
前衛に52任務部隊がいる。コロラドを旗艦とする旧式戦艦戦隊だ。何も無ければトラックへ艦砲射撃をする。
その後方に、43任務部隊が居る。さらに後方に大輸送船団だ。40隻と言う多数の護送空母で護衛している。護送空母は43任務部隊への航空機供給役でもあった。
トラックと日本海軍主力を無力化した後で余裕が有れば艦隊全体でそのままマリアナに向かう。マリアナ直行で無いのは、トラックの航空戦力のせいだ。
だからトラックに寄るのは、占領では無くて破壊するためだ。日本の後方能力では遠く離れた基地の再建は難しいだろう。
3個の艦隊は輸送船団が高速の日本艦隊に回り込まれないように、そんなに離れていない。
52任務部隊から43任務部隊まで50マイル。43任務部隊から輸送船団まで80マイル。
速力は8ノットだった。輸送船団が大規模すぎてどうしても遅くなっている。前衛部隊も速力を合わせないといけない。
さてこの凶暴な群れをどう操るのか。総指揮は52任務部隊のキャラガン中将が執る。総指揮を執るには自分は経験不足だ。
指揮下の43任務部隊の編成表をまた見る。もう何十回見たのだろう。夢にまで出てくる。
空母
レキシントン(Ⅱ) ヨークタウン(Ⅱ) フランクリン タイコンデロガ
ランドルフ ハンコック ベニントン エンタープライズ(Ⅲ)
サラトガ モンテレー カボット ベロー・ウッド
戦艦
サウスダコタ ノースカロライナ ワシントン
巡洋艦
アラスカ グアム
ボルチモア ピッツバーグ
クリーブランド デンバー ヴィンセンス パサデナ
スプリングフィールド ヒューストン
駆逐艦
28隻
搭載機数は甲板繋止まで入れれば1000機にも上る。護送空母まで入れれば2000機近い。史上最強だろう。練度はどうだろうな。少し自信が無い。作戦本部が去年の暮れと言った作戦開始時期を、無理矢理ここまで延ばさせたのは訓練時間を取るためだ。とても珊瑚海やミッドウェーの時のレベルに達していない。
砲術科員や機関科員などは旧式戦艦部隊からも引っ張りなんとか及第点なレベルに達している。そのせいで珊瑚海後に引き抜かれて低下した練度がようやく戻ったと思ったら、ミッドウェーでやられまた空母部隊に引き抜かれた。彼らも苦労しているだろう。
だがそれ以外の部分で劣るのだ。空母の甲板要員や母艦搭乗員は育成に時間が掛かる。高性能なF4Uは着艦にコツがいるらしく、飛行時間の少ない新品では上手く着艦できない。主力戦闘機はF6F-5だった。F4Uはベテランに任せている。全機F4Uにしたい所だが、そんな事したら途端に事故だらけになってしまう。F6F-5では奴らの新型戦闘機センプウには不利だが数で押し切るしか無い。
護衛艦艇の不足も問題だった。フィリピン攻略部隊にも回っているし、前衛の旧式戦艦戦隊にも付いている。少ない巡洋艦が分散されてしまった。駆逐艦もフレッチャー級駆逐艦が足りずに、今一という評判のアレン・M・サムナー級が配備されている。
鱗形陣3個にこれでは分厚い対空砲火を浴びせることなど出来ないだろう。それを補える期待のマジックヒューズは供給の絶対量が不足している。空母と戦艦に優先され、巡洋艦と駆逐艦には行き渡っていない。もっとも空母と戦艦も砲弾の半分も受け取っていない。
戦闘機による迎撃網を突破されると危険だと思う。はっきり言って阻止は不可能だろう。巡洋艦と駆逐艦が足りないからと、重巡3隻と軽巡4隻と駆逐艦10隻をを引き抜いていったキャラガン中将を恨むのは間違いだろう。作戦本部の了解を取っている。じゃあ作戦本部のバカヤローだ。
レーダーに時折機影が移ると報告があった。見つかっているか。トラックから400マイルか。明日の早朝に距離200マイルで出そうかと思うが、どうするか。現在時間19:00だ。予定通りの時間に予定通りの位置にいる。
モンテレーとカボットに夜間戦闘機を上げておくように指示した。
まさか警戒に出した夜間戦闘機が空中戦をやるとは。あれには特に選抜されたパイロットが乗っている。
闇夜の編隊飛行に夜間の着艦。もしかすると空中戦も加わる。今回のように。
空中戦と言っても今回は爆撃機への攻撃だ。起こされた時には全艦戦闘配置が出されていた。
「艦長。飛行長。せっかくのバレンタインに、よい目覚めでは無いな」
「全くです。酷い目覚ましです。奴らにプレゼントする予定が逆になりました」
「03:00か」
「拙いです。トラック空襲のための準備中です」
「格納庫に喰らえば…か」
やって来たのは護衛無しの双発機30機程度だったと聞く。低空で接近してきたので発見が遅れた。夜間戦闘機が空中戦で14機を撃墜した。そして残りは艦隊防空圏へ突入してきた。高速で突破されたと。
半数くらいはベティで残りは新型だという。その新型が速く、ベティに手間取っている間に抜けられたと。識別表に載っているフランセスと思われるが夜間であり確証は無いと。高度300フィート以下で320マイル出せる双発高速雷撃機。厄介な存在だ。
そして6機を対空砲火で撃墜できた。では残りの10機は。
ベニントンが燃えている。デンバーはミッドウェーに続き、またも傾斜している。駆逐艦モールは沈んだ。10機でこれだけの損害を出してしまった。
ベニントン艦長から、艦を停止させて消火に全力を挙げると連絡があった。
ベニントンは、ベティが燃えながら飛行甲板を乗り越えようとしたが、高度が低下し甲板側面に引っかかりそこで爆発したという。運が悪かった。飛行甲板には甲板繋止で積んできた出撃準備中のF6F-5が並んでいた。出撃準備中である。エンジンを掛けて主翼を展開していた。当然ガソリンが入っている。連鎖的に炎上し、機銃弾の暴発もあり大変らしい。
さらにベティが投下した魚雷も命中した。
最初からこれでは後が思いやられる。もうベニントンは戦力外だ。
次回更新 8月27日 05:00
一式陸攻も甲種装甲板とか防弾燃料タンクに自動消火装置装備の三四型。結構落ちない。
銀河もいつの間にか登場しています。