通商路遮断
バリクパパン占領さる。
この一報は日本の軍部に大きな衝撃を与えた。アメリカの国力を大きく見積もったつもりでいたが、まだ足りなかった。それが事実だ。
最新鋭の艦隊を餌に、旧式艦を中心とした艦隊でバリクパパンを取りに来た。
日本から見れば、そう見える。ただの別作戦であり、最新鋭艦をミッドウェーに持って行かれたので苦肉の策として、旧式艦を投入。日本海軍のほぼ全力を投入するだろうミッドウェーの時に発動しただけだった。
皮肉なことに最新鋭の艦隊はミッドウェーで壊滅した。日本海軍のほぼ全力を引きつけてくれたが。
久々の酒田では
「南シナ海やばい」
「フィリピンにすぐ上陸してくると思ったが」
「マッカーサーが嫌われていたはずよね」
「ああ、そういうことか」
「海上護衛戦隊の頑張りに期待するしか無いが」
「初期対応が遅れたのと、各地に散らばっている所属艦艇を集めるのに時間が掛かったって聞いた」
「30隻以上やられてんだよな」
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「特設空母では旋風を扱えないから」
「零戦をさらに強化か。やってるのだろうが」
「おそらく、もう限界なんだな」
「空母の新しいのはまだだし」
「戦力化できるのは6月以降と聞いたよ」
「ブルネイの石油は大丈夫なの?」
「英領と仏領には手を出してこないからね。領海外、それも視界外に出てから狙われるらしい」
「特設空母で守れたのかしら」
「英領と仏領を避けてだから、戦闘機の航続距離が足りない。護衛の無い動きの悪い4発爆撃機だけなら零戦で十分対処できるはずだ」
1944年3月14日
「B小隊離陸許可する。健闘を祈る」
『B小隊離陸する。ありがとう』
バリクパパンの拡張された飛行場からB-24の1個小隊が発進する。
1944年1月26日には拡張と路盤の強化が終わり、B-24が20機進出した。今ではさらに格納庫や周辺設備の拡張が進み、80機が常駐している。戦闘機も各種合計200機がいる。
今では南シナ海へ定期的に哨戒爆撃に出かけていた。サイゴンまで往復できるがフランスやイギリスとの関係から英領マレーシアや仏領インドシナの領土領海には近寄らないよう指示されている。
彼らの狩り場は蘭領リアウ諸島周辺だった。
バリクパパンを離陸、レミュクタン島を通過してリアウ諸島に出る。往復最大1900マイルは長い。この距離では戦闘機の護衛も機体の性能はともかくパイロットの疲労が激しく常時は難しい。護衛が出来る機体はF4Uしかなかった。
日本側の対応が遅くれ、対応して船団形式を取り護衛を付けた頃には30隻以上の商船が沈んでいる。
この海域は、シンガポールから日本を目指す船が全て通過する。ここで通商破壊戦をやられてしまえば、日本はじり貧になる。アメリカの国力を嘗めていたのと、オランダの代わりにインドネシアを代行支配して、オランダがらみでヨーロッパ戦線に深入りしようという意図を読めなかった事もある。
だが誰がそんな意図を読めようか。
しかし、特設空母を護衛に付けたことで被害は減った。困るのは特設空母の手に余る機数がやって来たときだ。
B-24とは別にスラバヤを根城にしたアメリカ潜水艦が偵察と通商破壊に出始めたが、こちらも対潜戦隊を作って対抗している。
B-24は小隊単位で哨戒爆撃を行っているが、他の小隊が近くにいれば増援として参加してくる。機数が増えれば特設空母の手に余る。
現に特設空母が2隻、爆撃によって沈められている。
海軍は装甲空母尾張と赤城を派遣してB-24狩りをすることにした。両艦の装甲飛行甲板なら爆撃にも耐えられると踏んだからだ。
尾張は甲種装甲板30ミリを二枚重ねで実質180ミリとなっている。
尾張と赤城を投入したのは、旋風搭載可能空母だったから。B-24は高高度性能に優れ、零戦では満足な機動が出来ない高度まで上がってしまう。旋風ならその高度でもかなり自由な機動が出来た。
搭載戦闘機は旋風三三型になった。発動機に水メタノール噴射を取り入れ、離昇出力の向上と異常燃焼や過熱を抑えている。これならシコルスキーに後れを取ることは無いと投入された。
新たに対大型機用兵器として100ミリ対空噴進弾が採用され、旋風三三型は左右両翼下に4発ずつ8発搭載した。噴進弾の発射支持架は投棄できず、発射後の空戦性能や速力は低下した。
100ミリ対空噴進弾は重量18kg。弾頭が炸薬量500gの榴弾となっていて、大型機でも1発で墜ちる威力があるとされた。飛翔速度240メートル/秒。射程は2500メートル。
増槽が装備できなくなるので胴体下に零戦と共通の300リットル大型増槽取り付けが可能になった。300リットル大型増槽1個の場合は最大航続距離が低下したが、300リットル大型増槽と両翼下に200リットル増槽を付けると3500キロ近い航続距離になる。ただし武装は機銃のみになる。
旋風の配備が進み艦上機としては小型空母と特設空母専用になってしまった零戦だが、思い切って方向性を変えた。
強みだった長時間の飛行時間を削り、小型空母での取り扱い容易と大型機対策として100ミリ対空噴進弾4発を装備できるようにした。
取り扱い容易としては、翼端の折りたたみを止め翼端を角形に整形。幅は11メートルとなる。折りたたまずに艦内に収容できるようにした。主翼翼端燃料タンクが廃止されたのは、任務的にそこまでの航続距離を使うことが無く必要ないとされたため。
主翼幅変更で5ノット程度速度が上昇した。また角形に整形された主翼のおかげか横転速度が早くなった。
発動機はそのままとなっている。軍はすでに栄発動機に見切りを付けており、今後も大出力化は無いだろう。
航続距離は翼端燃料タンク廃止もあって増槽無しで1500キロまで短くなった。
零戦三二型が登場。
旋風4機と彩雲1機で組んで哨戒飛行をしている。機載電探は開発され装備しているが、探知範囲が10海里程度と狭く、下手すると目視による見張りと変わらない。
『こちら忠治2番。ベサル島西150海里にてコンソリ8機発見。応援を求む』
「忠治2番。こちらシャチホコ1番。位置、機数確認したい。知らせ」
『シャチホコ1番。赤2番。現在位置ベサル島西150海里。機数8機』
「忠治2番。こちらシャチホコ1番。位置的に悪い。別の編隊を応援に向かわせる」
B-24狩りが始まった。
次回更新 8月24日 05:00
忠治2番は赤城搭載機。忠治は「赤城の山と言えば、国定忠治だな」という会話から。
シャチホコは尾張搭載機。尾張名古屋城のてっぺんなので彩雲に付けられました。