ポートモレスビー沖夜戦
『電探に反応。接近中の艦艇あり。方位320。距離、2万4000。反応増えつつあり』
電探室からだった。
「見張り見えるか」
「見えません。申し訳ありません」
「よい。月が下弦では見える物も見えん」
下弦の月な上にやや曇り空か。星も少ない。
「鳥海に通信」
「司令長官。霧島からです『敵艦と思わしき反応接近中。方位320』」
『こちら電探室。反応あり。方位320。距離2万4000。反応増えつつあり』
「こちらでもでたな。高さの違いか」
「迎撃する。航海参謀、艦隊進路このまま。艦隊増速第四戦速」
「前方に反応。進路正面。距離15マイル。反応多数」
「艦隊増速、第5戦速。艦隊進路取り舵90。敵と同航戦にもちこむ。信号、我に続け」
「T字に突っ込む気はありませんね。ケツを取るのはどうです」
「ロジェストヴェンスキーの跡継ぎと呼ばれたくはないし、ポートモレスビー攻撃を阻止するには最低でも同航戦にしないとな」
遭難符号と救助で出鼻をくじかれた両艦隊だが、八艦隊が攻撃を中止しない以上戦闘になるのは当然だった。
「目標、増速。進路変更。同航戦になります」
「艦隊増速。第五戦速」
「目標、増速。目標中央に反応2個大きい奴がいます。戦艦かもしれません」
「戦艦だと」
「反応はその大きさです」
「30ノットに追随できる速力の戦艦」
「金剛クラスですな」
「勘弁して欲しいな。こっちは大きくても重巡だ」
「魚雷に期待しましょう」
「駆逐艦は温存か」
「本艦にも3連装が2基あるが」
「とどめくらいは刺せそうです」
「この艦は大きい駆逐艦と言ってもいいくらいだ。通信。シカゴに繋いでくれ」
「シカゴ艦長です」
「シカゴ艦長が、スコットだ。金剛クラスが2隻いるらしい」
「反応があります。いるでしょう」
「本艦が駆逐隊を率いて金剛クラスに突撃する。シカゴ艦長には巡洋艦部隊の指揮を執ることを要請する」
「私がですか」
「そうだ、本艦とシカゴにしかレーダーを積んでいない」
「了解しました。援護します。ご武運を」
「ありがとう。後で一杯やろう」
「楽しみにしております」
お互いに戦力の詳細は分からない。水上偵察機を発艦させ状況の把握に努めた。
その間に2万まで接近していた。
「金剛クラス2隻に高雄クラス4隻と完全編成の水雷戦隊1か」
「拙いですね。戦力で負けています。これならポートモレスビー砲撃を阻止しなくても文句を言われないと思います」
「そうもいかん。ポートモレスビー攻撃阻止の命令を受けている」
「巡洋艦戦力の多さで、対抗しますか。金剛クラスは戦艦と呼んでいますが弱装甲の巡洋戦艦です」
「そうだな。接近する。夜戦だ。1万まで近寄らないと測的もできん」
「水偵からです。『敵に戦艦無し。巡洋艦12隻。駆逐艦8隻。巡洋艦と水雷戦隊が分離』」
「やる気だな。戦艦2隻相手に剛毅なことだ」
「こちらはどうしますか」
「こちらは八艦隊といっても臨時編成で、戦技訓練もろくにやっていない。このままだ。射程を詰めるぞ。艦隊取り舵。参謀長。艦隊打ち方始め。水偵に吊光弾投下させよ。十一戦隊には射程に捉え次第撃って良しと」
「敵、こちらへ接近中」
「敵接近中」
「戦艦2隻に、1個水雷戦隊だ。そりゃ来るだろうな」
最初に発砲したのは霧島だった。次いで比叡が発砲。1万5000だった。水偵からは遠遠遠遠と全弾遠弾ときた。第2射は近近近近と全弾近。
頭にきたのか相手が巡洋艦だと馬鹿にしたのか、霧島が探照灯で照射を始めた。
「霧島、探照灯照射!」
「何だと」
目標が明るくなったので探照灯は分かったが、霧島の馬鹿か。吊光弾だけでは無理だったのか。
「比叡も探照灯照射」
「的にされるぞ。通信、十一戦隊に照射止めと命令だ」
霧島と比叡が探照灯を消した?時には遅かった。霧島と比叡に敵の射弾が集中。巡洋艦10隻からの集中射撃を喰らっていた。こちらも敵の発砲炎をめがけて撃つが、手間取っている間に両艦とも火災が発生していた。
なんてことだ。最大戦力が使い物にならなくなっている。艦長が勝手にやったのか司令官が命じたのか。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
最大戦力を最初に潰す。基本に忠実な敵艦隊とは厄介な。
「司令長官」
「こちらの砲撃はどうか」
「6隻に命中弾。4隻が火災発生。うち1隻は停止しております」
「三水戦に突撃させよ」
「三水戦に指示を出します」
「艦長、四戦隊は三水戦支援」
「了解です」
これでは敵艦隊に勝ってもポートモレスビー砲撃は出来ないな。敵の勝ちだ。
「十一戦隊には「艦の保全を優先せよ」だ」
「比叡より「我、舵故障」」
「なんだとー!」
探照灯照射などしなくても戦力差で勝てると考えていた。自分で考えるよりも俺はヘボだったようだ。
「阿武隈、発砲」
「続いて三水戦各艦発砲」
「艦長。本艦も続く」
「了解。機関、前進一杯。舵このまま」
鳥海の頭上が明るくなった。敵水偵も吊光弾を投下したのだろう。
「司令。目標は燃えていない艦。いいですか」
「うむ。艦長頼む」
「砲術、目標。燃えていない重巡」
「砲術、了解」
「撃て」
突撃する阿武隈の周囲に水柱が上がる。まだ遠い。
「距離10000。二十一駆、二十七駆発射します」
「危険物は早めに捨てるに限るな。この速力で次発装填は無理か」
「危険すぎます」
「本艦、六駆、十七駆は予定通り5000で発射」
敵の一部がひときわ明るくなった。
「敵巡洋艦、轟沈」
「これで3隻減ったか」
三水戦で5000まで近寄れたのは、阿武隈の他10隻だった。雷・谷風・初霜・若葉の4隻は生存に必死だ。
「艦長、発射始め」
「水雷!」
「撃て」
阿武隈4本、電9本、浦風・磯風・浜風が各8本、計37本が発射された。
そして10000で発射された魚雷44本の到達予定時刻でもあった。
「敵巡洋艦に水柱」
「敵巡洋艦に水柱」
続報は無い。夜間に1万で撃って44本中2本か。
「敵隊列乱れます」
「撃ちまくれ」
「命中2本だと」
「遠くから撃ったようです」
「当たっただけ良いか。5000まで近づいたのは、何だろうな」
「半分撃って、残りを5000なのでしょうか」
「それなら戦果の上積みは有るな」
夜明け前にポートモレスビーから東へ遠ざかる艦隊がいた。
戦艦は1隻に減っている。比叡は若干切ったまま固定された舵を推進器の回転で誤魔化して進ませたが、5ノットも出ない。
霧島の主砲で舵を吹き飛ばそうと艦尾の舵取り機室付近を撃ったが効果は無く、逆に浸水と衝撃で艦尾が垂れ下がり抵抗になってしまった。
仕方なく雷撃処分とした。
ポートモレスビー攻撃は失敗だった。
喪失艦は、比叡の他、雷・谷風・若葉の3隻で、中破以上判定が出そうなのが霧島。中破が初霜、夕暮、阿武隈、摩耶。他は小破程度だった。
もちろん飛行場砲撃など望むべくもない。
帰ったら戦艦喪失の責任を巡り査問会だな。作戦失敗は比叡喪失の陰に隠れるだろう。救出した比叡艦長他によると探照灯照射を命令したのは十一戦隊司令官阿部弘毅少将だという。
距離を縮める様に取り舵を取ったところへ、敵重巡の主砲弾が命中。舵取り機への電路が切られ手動にしようとしたが、舵取り機室のハッチがゆがんで開かず舵故障となった。と聞いた。
上空には数機の零戦が飛んでいる。四航戦の上空援護だ。
次回更新 8月11日 05:00
電探は空母と戦艦と建造時に取り付けが出来る新造艦に優先されて、古い艦はドック入りの時に程度で後回しにされています。米軍のレーダー事情も同じ。