珊瑚海海戦 撃沈
赤城の格納庫から発生した火災は、瞬く間に艦後部全体へと拡がった。初動で消火に当たるべき人員が爆発と火災に巻き込まれてしまい、他部署からの人員が来た頃には手が付けられない状態になっていた。延焼を食い止めるために放水するのが精一杯だ。
「消火装置、後部作動しません」
「消火装置配管に損傷あり。漏れています」
「水だ。とにかく水を撒け」
『艦長。こちら応急長。緊急具申』
「応急長か」
『後部下甲板の人員の退避許可を。火災の熱で高温になっており危険です』
「少し待て」
『早くお願いします』
赤城艦長は他部署とやりとりし退避許可を出した。
「敵機、遠ざかります」
「終わりか」
「そのようです」
「機関、減速。前進原速」
「前進原速、よーそろ」
日が暮れる頃、ようやく鎮火のめどが付いたのか応急長が艦橋に上がってきた。
「応急長。どうか」
「艦長。飛行甲板後部と格納庫後部は被弾と火災で大破。中央と後部エレベーター使用不能。船体にひずみが出ました」
「ひずみだと?」
「火災の熱で上甲板にゆがみが出ております」
「艦橋もかなり熱くなった。電探は熱暴走とか言うので壊れたと報告があったくらいだ。確実に長期ドック入りか」
「そうなると考えます」
「火災がもっと拡がっていれば、艦が失われたかもしれん。それに較べれば良い」
「まだ少し燃えていますが、あと少しで鎮火できます」
「何故時間が掛かったのか分かるか」
「喰らったのが後部に3発です。それで消火装置の配管に損傷がありました。初期消火に当たる人員も被弾で全滅です。後は抜き取りきれなかった揮発油に引火しました。爆発的に炎上したのはそれが原因でしょう。鎮火に時間が掛かったのはペンキが燃えました」
「ペンキだと?」
「そうです。」
「燃えるとは聞いたが、そんなにか」
「実際に目にすると、あんなに消えないのかと」
「他の艦も同じ危険があるな」
「昭和15年から後に就役した艦は難燃塗料を使用していますが、それ以前の艦は機会を見て塗り替えています」
「本艦も戦争がなければ今頃定期整備に入っている。塗り替えの機会だったな」
一航戦司令が艦橋に上がってきた。
「楽にせよ。ようやく鎮火のめどがたったようだな。艦が失われなくて何よりだ」
「ありがとうございます」
「うむ。本艦が失われなかったのは良いことだが、先の襲撃の損害が報告されてきた」
「損害はどうでしたか」
「酷い」
「そんなにですか。飛龍が被弾したのは見えましたが」
「その飛龍だが。先ほど沈んだ」
「「「飛龍が」」」
「通信参謀、読み上げて良い」
「はっ。現在判明している範囲です。
沈没 二航戦 飛龍 卯月 六航戦 菊月
三水戦 浦波 狭霧
大破炎上中 七戦隊 熊野
中破 一航戦 加賀 五航戦 秋月 六航戦 龍驤 翔鳳
五戦隊 那智
以上。損害の小さな艦の集計はまだです」
「うむ。やられた。そして本艦赤城が大破だ」
「大破判定ですか」
「残念だが、艦長。アレを見ればな」
艦橋から見える飛行甲板は中央エレベーターから後部が残骸だった。
「司令官、熊野はどうなるのでしょう」
「おそらくは雷撃処分だろう」
「「「・・・・」」」
「まあ暗くなるな。戦果だ。戦果は艦偵が確認している。途中で燃料が無いと帰還したので後は分からん。通信参謀」
「はっ。
撃沈 ヨークタウン級空母 2隻
アトランタ級巡洋艦 1隻
ノーザンプトン級巡洋艦 1隻
フレッチャー級駆逐艦 1隻
艦型不詳駆逐艦 2隻
撃沈確実 ヨークタウン級空母 1隻
サウスダコタ級戦艦 1隻
ブルックリン級巡洋艦 1隻
フレッチャー級駆逐艦 1隻
撃破 ブルックリン級巡洋艦 1隻
艦型不詳駆逐艦 4隻 以上」
「ヨークタウン級を3隻まとめてですか」
「3隻目がな。確実と言うが沈んだかどうかわからん」
「35任務部隊から続報は」
「はっ。エンタープライズは鎮火不能で放棄すると」
「3隻とも沈められたのか」
「残念ながら」
「奴らは思いきったことをした。こちらを無視して全部35任務部隊に向けた」
「こちらも奴らの戦艦部隊は無視して機動部隊に全部向けました」
「ソウリュウクラス1隻とリュウジョウにアカギか。こちらが損だろう」
「マサチューセッツまで沈みました」
「くそ。今度やるときは利息を付けて取り戻す」
「全くです」
「連合艦隊司令部より「南洋艦隊はトラックに集合のこと」」
「南洋艦隊だな」
「八艦隊に指示は出ておりません」
「航海参謀、八艦隊変針。ポートモレスビーに向かう」
「はっ。ポートモレスビーに進路変えます」
八艦隊は南洋艦隊後方から離れてロッセル島手前を遊弋していた。南洋艦隊にトラック帰還命令が出て八艦隊に指示がない場合は、ポートモレスビー砲撃決行と作戦要領にあった。
さらに目標まで550海里。
本当にラバウルとマダンの航空隊がポートモレスビー航空基地群を行動不能にしてくれるのか?不安すぎる。
「司令長官、万が一の場合はどうされますか」
「損傷と油切れか。艦は放棄。自沈させる。ここからでは持って帰る手段がない」
「給油や曳航はしないのですか」
「給油出来ればいいが曳航は敵の空襲圏内だぞ。危険すぎる」
今次作戦の第一目標である敵空母の誘因撃滅は2隻撃沈、1隻撃沈確実で目的は達せられた。第二目標のポートモレスビー砲撃はどうだろうか。
次回更新 8月09日 05:00
進みません。11日以降の更新はどうなるやら。