珊瑚海海戦 激突
「敵空母は5隻。ヨークタウン級3隻とその後方にレキシントン級1隻と中型空母1隻か」
「中型空母はおそらくワスプかと」
「それが妥当だな。良し、目標。一航戦、二航戦。ヨークタウン級3隻の前方集団。五航戦はレキシントンとワスプ」
「お待ちください。角田司令長官」
「なんだ」
「戦力は集中するべきかと愚考します」
「どちらかに絞れと?」
「小官はそう考えます」
「しかし、片方が無傷で襲いかかってきたらまずくないか」
「艦隊防空は六航戦がいます。戦闘機の使用可能機数は60機程度まで減りましたが、十分な戦力です。一航戦をはじめとする空母にも直衛機は残っています。100機近い迎撃態勢が取れます」
「他の皆はどう思う」
少しもめた。結論は
「攻撃目標。全攻撃隊、ヨークタウン級3隻の前方集団。後方集団は索敵機で位置情報の維持に努める。以上。攻撃開始だ」
「各艦に伝えよ。攻撃隊発艦」
一気にざわつく。
「帽振れー」
帽振れに見送られ次々に発艦する攻撃隊。何機帰ってくるのか。
赤城攻撃隊隊長、淵田美津夫中佐に率いられ一路敵を目指す。
途中、敵編隊とすれ違う。双方とも盛んに発信している。敵は十分な迎撃態勢を整えているだろう。そしてすれ違うと言うことは進路が正しいことの裏返しでもある。
もう無線封止は止めだ。どうせ近寄れば電探で探知される。
「各機、赤城攻撃隊隊長淵田中佐だ。敵とすれ違いこちらの存在が敵にも分かった。コレより無線封止を解除する」
『総隊長。淵田総隊長』
「その声は蒼龍の江草少佐か」
『そうです。総隊長』
「何だ、その総隊長とは」
『攻撃隊隊長が多すぎると思いませんか』
「6人だな」
『だから総隊長でいいでしょ』
「そんな呼称は存在しない」
『めでたいですな。史上初でしょう』
『『『『『ハハハ』』』』』
「分かった。総隊長と呼べばいい。艦爆の神様」
『ウッ』
『『『ハハハ』』』
「そう言えば、雷撃の神様もいたな。ブーツ」
『止めてください。本官は神様などではありません』
「全員。神様が二人もいる。拝んでおけよ」
『『『『『ハハハ』』』』』
しばらく飛ぶと
『攻撃隊。加賀偵察2番。敵空母発見。信号弾を撃つ』
先行していた索敵機から無線が入った。二式艦偵だ。グラマンをあやしながらよくやると思う。
『11時に信号弾』
『同じく』
「攻撃隊進路変更。11方向に向かう」
さすがに手練れの集団であり、編隊を崩すこと無く進路変更していく。
「ハリー、ハリー」
「ジャップが来る」
【戦闘機、発艦急げ】
【攻撃機攻撃準備中止、爆弾と魚雷を弾庫に戻せ。ガスの抜き取りを忘れるな】
【作業の終わらない機体は、海上投棄を許可する】
格納庫は大混乱だった。初の交戦だ。
攻撃隊がすれ違ったのはアメリカ空母部隊に近い位置だった。
レーダーが味方編隊がまた現れたと思ったくらいに近かった。
「攻撃隊より『敵編隊視認、位置******』」
「2次攻撃隊の準備を中止。、爆弾と魚雷を弾庫に戻せ。揮発油の抜き取りを忘れるな」
「戦闘機は発艦準備でき次第発艦せよ」
双方ともやることはほぼ同じだ。敵に備える。
「先ほど攻撃隊が見つかりましたから」
「しかし。早いな。見込みで発艦させたのか」
「無線封鎖をしていませんし、ニューカレドニア越えの進路です。おおよその方向は予測が付いたのでしょう」
「相手は気合いの入った即決の指揮官らしいな」
(似たようなものだと思います)
「・・・」
「・・・」
双方の艦隊ともレーダー誘導で邀撃を繰り返す。護衛戦闘機を引き離し、そこへ別の戦闘機を突入させる。分かっていても守る側は対応しないといけない。
「攻撃隊分散せよ。突撃」
『『『『おお!!』』』』
「天知一飛曹。目標空母。二番目のやつだ。一番目は少し位置が悪そうだ」
『了解』
四号艦攻(九七式艦上攻撃機三三型)は伝声管から有線電話式のレシーバーに変わった。よく聞こえる。淵田の機体は80番通常1発だった。雷撃と言ったが許可が出なかった。最高指揮官は俯瞰的に見ることなどと司令部に言われれば、従うしか無い。
絶対に命中させる。爆撃照準器を膝の間に固定して覗き込む。
?水準器の気泡がややずれている。
「天知、水平飛行だ。分かっていると思うが」
『機長。上空の風が強く当て舵をしています。その影響かと』
「拙いな」
『左から寄っていくことを具申します』
「良し。左から寄っていこう」「笹本一飛。編隊は付いてくるか」
『付いてきています』
よしよし。編隊公算爆撃で仕留める。高度3000からの80番だ。装甲をぶち抜く。
左から寄って行くことで風に逆らっていないのか気泡が中心に見える。さすがベテランだ。ただ角度が少しきつい。
「ちょい右」
『ちょい右』
「戻せ」
『戻せ』
ん?駄目だ。敵は舵を切っている。侵入はやり直しか。待てよ。3番目のやつはどうだ。駄目か。強引に2番に落とすか。
「敵が舵を切った。侵入をやり直す時間は無い。落とすぞ」
『了解』
「右20度」
『右20度』
「戻せ」
『戻せ』
その間にも味方が次々と投弾し傷つき墜ちていっているのだろう。
軸線に乗っているように見える。
「投下用意」
『定針ヨーソロ』
「投下」
爆撃照準器のボタンを押す。若干の衝撃と共に機体が浮き上がる。そのまま高度を上げる。
どうだ。後方を見るがどこだ。
赤城水平爆撃隊の戦果は、至近弾1だった。
「上空爆撃機。爆撃進路」
「クソ、進路このまま。魚雷が横にいる。舵を切るな」
「投弾しました。来ます!」
「伏せろ!」
横揺れがあったがひどい衝撃も轟音も無い。外れたようだ。
「雷跡、消えました」
「左舷1番両用砲応答無し」
「左舷前部機関砲応答無し」
「10時に雷撃機」
「左舷弾幕、撃ちまくれ」
「取り舵一杯、急げ」
両用砲と機関砲が減ってしまった左舷対空砲火では、敵雷撃機を阻止できなかった。
4機のうち1機は堕とした。だが3機が投雷した。
「雷跡3本近い」
ひどい衝撃と轟音が2回。命中したか。
「左舷艦首に2本被雷」
「応急急げ」
ホーネットは魚雷2本命中で動きが悪くなったところを狙われた。さらに魚雷2本と数発の爆弾を受け停止した。
それから少し後の時間。
「敵機直上!」
「急降下ー!」
「面舵一杯急げ」
「投弾」
「伏せ-」
舵が間に合わなかった赤城に急降下爆撃機から投下された1000ポンド爆弾が次々と命中した。3発の命中弾は格納庫を吹き飛ばし、格納庫内にあった機体数機を破壊した。そのうち2機は燃料抜き取りが間に合わなかった機体だった。数百リットルのガソリンが撒き散らされ引火した。
次回更新 8月08日 05:00
赤城の運命やいかに。