珊瑚海海戦 始動
本日2話。
ソロモン海を抜けた日本艦隊は速力を変えずにいる。全艦18ノット前後が経済巡航速力になっているが、アメリカ艦隊待ちをするために14ノットのままだ。
もしヌーメアを攻撃中にアメリカ艦隊に横入りされてはたまったものでは無い。
ヌーメア攻撃が副目標でアメリカ機動部隊撃滅が主目標なのだが、ここまで来ると両方という欲張りが出てくる。
南洋艦隊司令長官小沢治三郎中将は参謀たちに落ち着くように言うが、自身もやれるならと言う思いがある。
自分が提唱した「アウトレンジ戦法」は、電探の配備によって効果的な迎撃を長時間に受けることから損害が増えるだけとされた。
肉を切らせねば、骨も切れぬだろう。という陰口も。
鬱憤晴らしに付き合って貰うか。
艦隊は連合艦隊主力だった。作戦時のみの編成として[南洋艦隊]と呼ばれた。
南洋艦隊 旗艦 大和 司令長官 小沢治三郎中将
第一戦隊 大和 長門 陸奥
第二戦隊 伊勢 日向
第五戦隊 妙高 足柄 那智 羽黒
第八戦隊 利根 筑摩
第九戦隊 大井 北上
第二水雷戦隊
旗艦 阿賀野
第八駆逐隊 朝潮 満潮 大潮 荒潮
第十五駆逐隊 黒潮 親潮 早潮 夏潮
第十六駆逐隊 初風 雪風 天津風 時津風
第十八駆逐隊 霞 霰 陽炎 不知火
第四航空戦隊 隼鷹 飛鷹
駆逐艦 汐風 帆風
九戦隊の2隻は敵艦隊に対して2万から大遠距離雷撃を決行することになっている。80射線あれば二三発は当たるだろうという考えだった。もし当たれば敵艦隊の隊列を乱すことが出来る。
南洋艦隊前面50海里に位置するのは第一機動艦隊。
第一機動艦隊 旗艦 翔鶴 司令長官 角田覚治中将
第一航空戦隊 赤城 加賀
駆逐艦 睦月 如月
第二航空戦隊 飛龍 蒼龍
駆逐艦 弥生 卯月
第五航空戦隊 翔鶴 瑞鶴
駆逐艦 秋月 照月
第六航空戦隊 龍襄 翔鳳 瑞鳳
駆逐艦 皐月 水無月 菊月
第三戦隊 金剛 比叡
第七戦隊 最上 三隈 鈴谷 熊野
第三水雷戦隊
旗艦 川内
第二十四駆逐隊 海風、山風、江風、涼風
第十駆逐隊 秋雲 夕雲 巻雲 風雲
第十九駆逐隊 磯波 浦波 綾波 敷波
第二十駆逐隊 天霧 朝霧 夕霧 狭霧
別働隊として南洋艦隊後方100海里にポートモレスビー砲撃部隊である第八艦隊がいた。敵の機動部隊や主力艦艇に打撃を与えた後でポートモレスビーに突っ込む計画だ。
第八艦隊 旗艦 鳥海 司令長官 三河軍一中将
第四戦隊 鳥海 摩耶 高雄 愛宕
第十一戦隊 比叡 霧島
第一水雷戦隊
旗艦 阿武隈
第六駆逐隊 雷 電 響 暁
第十七駆逐隊 浦風 磯風 谷風 浜風
第二十一駆逐隊 初春 子日 初霜 若葉
第二十七駆逐隊 有明 夕暮 白露 時雨
まともな戦力で本土に残っているのは、戦艦が扶桑級2隻と5500トン級軽巡が数隻に四水戦と駆逐艦30隻程度だ。他には小型艦艇と慣熟中の艦が数隻いるだけだ。アメリカ海軍は戦力の出し惜しみをして勝てる海軍ではない。
青葉級4隻は海上護衛戦隊に転属している。
サモア方面に哨戒線を張っていた潜水艦から「空母複数を含む艦隊見ゆ」と言う通報があった。続報は無い。潜水艦だ。見つかれば当面の続報は期待出来ないだろう。
どうするか。位置的には、14ノットから下げないとヌーメア攻撃の時に横入りを喰らう。良し!
「参謀長、航海参謀。艦隊速力上げ。艦隊速力20ノットでヌーメアに向かう」
「司令長官。よろしいのですか。敵の速力が分かりません」
「俺が考えるに、敵は鈍足の戦艦を置いてくるだろう。サモアから近い。20ノット以上出せば14ノットの我が艦隊が攻撃を加える前にヌーメア付近まで接近出来る」
「先にヌーメアですか」
「ヌーメアの航空戦力を叩く。出来れば港湾に艦砲射撃を加えたい」
「さすがにその頃には敵艦隊も近いでしょう」
「出来ればで良い。戦艦に釣られて敵空母部隊が近づけば、こちらの思うつぼだろう」
「ヌーメア攻撃が終わった後でも戦闘になるでしょうか」
「実戦部隊としては、ヌーメアを攻撃した部隊をそのままにしておけないし、何もせずにサモアに帰ると色々と拙いんじゃないか」
「ではそのように計らいます。一機艦への連絡はどうしますか」
「本艦から水偵を飛ばそう。通信筒を飛行甲板に落とさせる」
「では航空参謀と艦長に飛行長を呼ばせます」
「そうしてくれ」
「機関参謀。油は問題無いか」
「ソロモン海で給油しております。航続距離に不安が有る神風級と睦月級も戦闘があってもラバウルまで大丈夫です」
「ならばよろしい」
南洋艦隊はヌーメア攻撃を1日早めた。吉と出るかはまだ分からない。
『那智に水柱。被雷した模様』
『至近で不審電波』
ヌーメアまで400キロの11月08日05:20のことだった。油断していたわけではない。電探は高性能になったが潜望鏡を発見出来るほどではない。払暁だ。見張りにも厳しい。付いていないと思った。不発の多い敵潜水艦の魚雷が正常に起爆するとは。*
敵に存在を知られてしまったか。
「電波封鎖解除。電探作動を許可する」
『一機艦方面より、電信探知。敵周波数です』
『一機艦より「敵偵察機と遭遇。敵は電波発信中」』
『電探に反応。距離70海里。方位90から接近中。単機の模様』
一機艦も見つかったか。
「司令長官。四航戦より迎撃はどうするのか。と問い合わせが入っています」
「動きが速いな。良い事だ。撃墜せよ」
「そのように指示します」
結局敵偵察機に発見される前に撃墜出来た。ただ、短いが発信は有ったという。
「敵艦隊をヌーメア北西250マイルで発見したそうです」
「250マイルだと。奴等速度を上げやがったか」
「まだ敵まで800マイル有ります」
「残念だがヌーメアは諦める。敵空母だ。敵空母を潰す」
第16任務部隊と第35任務部隊はヌーメアに向かっていた。正確にはヌーメアを攻撃している日本海軍機動部隊だが。
「その後の通報は」
「有りません。ただ「救援を求む」とヌーメアから」
「索敵機も出せない状況か」
通信を傍受した解析班によると奴等は2隊に分かれているらしい。雷撃を加え成功したのが戦艦部隊で前方に空母部隊がいるらしい。戦艦部隊の動向は予測出来るが空母部隊の所在が明らかではない。
その状況はフランス連邦所属の1隻の通報船が解決した。日米開戦時、ニューカレドニアはビシー政権に属していた。当然敵で有り占領した。何故か抵抗が無かったが。そして南太平洋に点在するフランス領のうちどちらに付きたくも無い島々でフランス連邦が結成された。実に無力な存在だ。フランス連邦はアメリカに与することで生存をアメリカに委ねたのだった。ニューカレドニアもアメリカ占領後にフランス連邦へ加入した。
フランス連邦所属の通報船が避退中に一機艦と遭遇してしまい、通報したのだった。
「電波は」
「出ていました。位置を知られました」
「東ばかり警戒したツケか」
「それで、どうしますか。2次攻撃の準備は済んでいます」
「2次攻撃はする。ただし、3次攻撃はしない。1次攻撃隊帰投後は残存戦闘機のみで敵の出現に備える。艦攻と艦爆は燃料を抜き、しまっておけ」
「その旨、指示を出します」
「うむ」
「敵空母の位置が判明しました」
「見つかったか。どこだ」
「ヌーメア西方100マイルです」
「まだ500マイル有るな。今日の攻撃は無理か」
「今から攻撃可能範囲まで接近すると、攻撃隊の発進が日没前になります」
「それにいつまでもそこに居るような奴等でも無さそうだ」
「接近して、夜明け前に索敵機を出します」
「他に無いな。航海参謀、出来るだけニューカレドニアの東に近づく。夜間でも安全な範囲までだ」
「了解しました。航路の算定にはいります」
次回更新 06:00
*海軍では敵潜水艦魚雷の信管不良を鹵獲(船腹に刺さった不発魚雷)した魚雷の信管から知っていた。