インド洋航路防衛
本日2話。
インド洋ではイギリス以外の潜水艦が目撃されることが増えた。ドイツが来るとは考えにくい。地中海を抜けられないし、喜望峰を迂回するにしても補給地が無い。残るはパースを拠点とするアメリカ海軍だった。
アメリカからの原材料輸入が閉ざされてから、日本にとってインド洋航路は重要だった。
そこで船団形式で護送する事を船会社に提案したが、輸送効率が落ちるとして受け入れたのは少数だった。
この時点では、被害が出ていないので強制力も弱かった。
それが変わったのが、1942年3月以降だった。立て続けに5隻もの商船が雷撃を受けた。何故か不発が多く、運が良い3隻は航行を続ける事が出来た。
日本はオランダから宣戦布告されたことを良い事にスマトラ島メダンに進駐。ペナンの方が大きくて良いのだが、イギリスに間借りしての共同運用よりも自由度を取った。
メダンに進駐したのは陸軍1個旅団に、海上護衛戦隊の1個部隊。内訳は旗艦に重巡加古。主力は4個駆潜艇隊と補給部隊である。重巡が旗艦になっているが、万が一通商破壊に水上艦が出てきた時のためである。他に特型駆逐艦が吹雪 白雪 初雪 深雪の4隻。加古と同じく水上艦対策だ。
第六戦隊は解隊され、青葉・衣笠・加古・古鷹の重巡4隻は海上護衛戦隊に配属されている。
駆逐艦も神風級や睦月級の他、特型で艦齢の古い艦が配属されている。メダンに配備された4隻の他は、叢雲 白雲 東雲 薄雲。
駆潜艇は大正15年に1号艇が就役して以来、その使いやすさから建造が続けられてきた。初期は300トン級だったが、航洋性と速力の不足が言われ昭和15年導入の4号型からは350トン級となった。マダンに来たのは4号型16隻だった。
速力の不足は高速優秀船多数が就役した商船に追随出来ないためだった。それ以来建造された他の商船も新型燃料噴射装置を積んだディーゼルで軒並み14ノット可能な高速になっている。4号型は全速24ノットもの高速を要求された。駆逐艦では無いとの反論にも20ノットを超える商船の護衛には必要だろう。と言う至極まっとうな理由で通された。
4号駆潜艇は、ディーゼル2基で18ノット巡行が可能だった。全速なら22ノット出る。従来の駆潜艇と性能が段違いである。ただ高速航行を可能にした機関は燃料消費が大きく航続距離は1800海里と少ない。そのため16隻で建造は打ち切られ、昭和16年9月からは、同じディーゼル機関で重油タンクを大きくし400トンまで大型化した2800海里の航続距離を持つ5号型が新たに建造されている。速力は最大20ノット、巡航17ノットに落ちている。小型の上に量産性に配慮された5号型は、4号型が6ヶ月の建造期間(艤装期間を除く)だったのに対して、わずか4ヶ月での進水が可能となっている。
ここで小型艦に高性能を求めるのは鴻級水雷艇と同じ事になってしまうと落ち着き、高速優秀船の護衛には900トン級海防艦が新たに計画された。
4号型以降の駆潜艇は、イギリスから技術供与を受け対潜応力が高い。対空能力もイギリスを通じて入手したボフォース40ミリ機銃をライセンス生産で搭載している。
この航路帯の護衛に4号型が選ばれたのは、その高速性だった。優秀船多数が就役している航路だけに護衛も高速が求められた。
「電波だと?」
「艇長。不審電波です。HF/DFによると船団後方20海里程度の距離です」
「旗艦は何か言ってきたか?」
「お待ちください」(旗艦はどうか)
「旗艦よりオルジス。読みます[後方に不審電波あり。警戒を厳になせ]以上」
「艇長」
「やることは変わらん。この速力では聴音も探信儀も言うことを聞かん。見張りはいつも注意している。平常だ。無駄に焦るな。先は長い。疲れるな」
「ありがとうございます」
47号駆潜艇の艦橋ではこんな会話がされていた。
不審電波は度々観測されており、航路が監視されていると理解せざるを得なかった。雷撃が無いのは、アメリカ海軍潜水艦部隊に「雷撃よりも情報を」という通達が出されていたからだったが、知るよしもない。
「ニコバル島見えます」
「最後だ。潜水艦に注意。メダンまで気を抜くな」
「「はっ」」
今回も油は持った。47号艇艇長榊原大尉はそう思った。1800海里だ。経済巡航速力で。メダン-コロンボ間が1350海里。更に本艇の経済巡航速力以上の船団速力でたまにやる目眩ましの変針まで入れれば、この船の航続距離ではほぼ限界に近い。本気で対潜戦闘等やれば油が持たないだろう。
毎回コロンボで給油を受けるのだが、また来たのかというか顔をされる。
護衛の事情よりも船団の事情が優先されるから仕方が無いとは言え、毎回ハラハラさせられる方の気持ちにもなって欲しい。
次回更新 8月05日 06:00
4号型駆潜艇
基準排水量 343トン
最大速力 22ノット
経済巡航速力 18ノット
航続距離 1800海里
兵装
40ミリ機銃 連装2基
25ミリ機銃 単装4基
爆雷投射器 2基
爆雷投下軌条 1条
爆雷 34発
電探 13号1基
22号1基
聴音機 1基
探信儀 1基