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燃ゆる太平洋   作者: 銀河乞食分隊
発火する太平洋
22/56

本日天気晴朗なれども風強し

開戦しました。


1941年12月9日 台湾


「整列!きょーつけ~!直れ!」


 いつものことだが、先任の「気を付け」が「きょーつけ~」に聞こえる。

 樋口司令がお立ち台に上がった。


「総員、傾聴」

「楽にせよ。さて、昨日はあいにくの濃霧で出撃出来なかった。今日は快晴である。いささか風は強いが。諸君が攻撃を成功させ、全員帰還することを望む」


 総員、敬礼で応える。

 次いで小園飛行長だ。 


「夜明け前から陸偵が発進したのは知っていると思う。その陸偵からの発進がヒ連送で途絶えた。敵も迎撃態勢を整えている。総員、気を引き締めて掛かれ。攻撃手順は、昨日と変わらん。各隊の連携を持って成功させよ。で・

 

 ウ~~ウ~~ウ~~ウ~~


 は? 空襲警報だと?小園司令始め首脳陣も驚いている。


『 緊急。緊急。フィリピン方面より接近する編隊を感知。フィリピン方面より接近する編隊を感知。味方機では無い。総員迎撃態勢に入れ。これは演習では無い。繰り返す。フィリピン方面より接近する編隊を感知。味方機では無い。総員迎撃態勢に入れ。これは演習では無い。現在距離70海里。速度140ノットにて接近中。推定機数40機以上。繰り返す・・・・・・・ 』


 小園飛行長が直ちに指示を出し始める。


「総員。迎撃態勢に入れ。戦闘機隊から発進。無線を切るな。地上指揮に従え。戦闘機隊の発進が無いときには、爆撃隊も発進せよ。爆撃隊は空中退避だ。爆弾は帰投前に投棄すること。以上。慌てず急げ。掛かれ」


「はっ」とも「ウウォー」とも色々な喚声かんせいが混じる。

 既に暖機が済んでいる愛機に駆け寄る搭乗員たち。あちこちで「回せー」と言う声が聞こえる。

 陸軍なら起動車がずらっと並んでいるだろうが*、外部動力無しでの運用をモットーとする海軍は全人力である。アレは羨ましいような気がする。整備員がイナーシャーハンドルをグルグル回し頃良いところで離れ、プロペラ回りに人員がいないことを確認。

 搭乗員に合図をする「コンターク」と言う声でフライホイールが接続されプロペラの回転が始まり点火栓に火花が飛ぶ。爆音と排気管からの黒煙でエンジン始動を知る。回転が安定し、発動機に異常が無い事を確認した後「チョークはらえ」。整備員が安全なところまで離れたことを確認し整備員が発進良しの信号をする。


『**隊。発進を許可する。誘導路に進め』


 以前だったら、周りをキョロキョロ見て長機はどこだとか、開いてるなとか、あいつが先かとか等と気にしなければいけなかったが、無線の充実で管制塔の管制官が指揮を執ってくれる。ずいぶん事故も減った。

 スロットルを押す。徐々に上がる機速。やがて尾輪が浮き、離陸速度になる。

 空に上がると、機体が重い。燃料満載の上に増槽まで付いている。今のうちに燃料コックを増槽から主翼に切り替えて海上に出たら勿体ないが増槽は捨ててしまおう。

 機銃の試射をする。7.7ミリなら多少撃ったところで弾数は減らないが、20ミリは60発しか無い。正確には59発だ。何故か60発押し込むと、装弾不良が発生するらしい。一瞬でも数発発射されただろう。

 装弾数の少なさは以前から指摘されているが改善はまだらしい。


『こちら**。接近する敵機はボーイング。繰り返す。ボーイングだ。4発だ。デカい』

『こちら**。機数は30機程度。護衛が見えない。戦闘機がいない』


 先行した味方機から無線が届く。ボーイングか。資料が回ってきている。4発のデカい奴だ。戦闘がいない。俺達も相当航続距離延伸訓練はしたな。ここまで届く戦闘機が無いのだろう。


『斉藤少尉だ。各機増槽を投棄し、試射を済ませたか』

『『『投棄しました。試射も済んでおります』』』

『こちら斉藤了解した。それから猪俣一飛曹、空中指揮を頼む』


 俺がか。そう言えば最近空中指揮は経験豊富な者が執ることになっていたが。


「猪俣一飛曹です、空中指揮預かります。斉藤少尉は俺の後を。田中二飛曹と木村一飛は両翼。2機になった場合は田中が指揮を執れ」

『『『了解』』』


 そこに基地から新たな情報が入ってきた。後方に同じ規模の第2梯団がいるという。そして、俺の編隊はそちらを迎撃せよとも。


 4機は菱形編隊で後方のB-17編隊を目指した。

 俺達の編隊は後ろの方だった。離陸順が遅かったということもある。

 電探情報によると、この2梯団だけのようだ。戦闘機の護衛も無い。台南空を舐めているのかとも思う。

 しかし、前方には墜ちていくボーイングや煙を噴くボーイングに混ざって、墜ちていく零戦や火災を起こした零戦が見える。

 B-17が厄介なのか、こちらが初戦と言うことで拙いことしているのか。だが相手も初戦だ。拙いことをやっているのは両方だろう。すると厄介か。

 とにかく斉藤少尉をどう飛ばすかだな。少尉は台南空に来てから100時間も飛んでいない新人だ。今も後ろでフラフラしている。これは気流に翻弄されているか。拙いな。菱形は止めよう。4基編隊の菱形は綺麗なので好きなんだが。


「各機。編隊を組み直す。斉藤少尉は俺の右後ろへ。田中と木村は左後方へ」

『『『了解』』』


 今度は安定している。

 敵高度が高い。酸素瓶は30分分積んでいるが余り使いたくない。もう少し近づいてから高度を一気に上げよう。

 基地からは敵と10海里だという。


「各機、高度を上げる。酸素吸入用意」

『『『了解』』』


 編隊は高度を6000まで上げる。電探情報だと、敵はこの高度に居るらしいが。


『こちら木村。11時の方向に機影』


 どこだ。目が良いな。見えん。


「各機。続け。これより高度と速力を上げる」

『『『了解』』』


 取り敢えず向かう。高度が6500になった頃俺にも見えた。あれか。既に戦闘は始まっている。


「各機。敵編隊の右上方に占位する。続け」


 敵編隊は高度を更に上げるようだ。こちらも上げる。爆弾を抱えた爆撃機より、どう考えても戦闘機の方が上昇率は高いはずだ。

 敵と邂逅し右上方に占位する頃には高度6500まで上がっている。あの爆撃機おかしい。陸攻ならまだ6300まで上がれない。


『編隊長』


 少尉からだ。じれているのだろう。俺もじれているが、あの大きさと数にちょっと驚いている。写真と現物は違うな。右と前方に味方機の攻撃が集中している。空いてる左から行くか。あれだけ混んでいると怖いしな。


「各機。位置を変えて左端の奴を上方から降下攻撃。速度に注意。320ノットを超えるな。攻撃後は切り返さずに敵の前下方に抜ける。デカいから目測を誤るな。左端の奴をやる。では行くぞ」


 零戦一一型は柔いので定評がある。急降下で空中分解した機体もある。対策はされたようだが、対策された一一型甲でも、未だに330ノットの制限が付く。

 長機の責任は重大だ。針路が拙いと敵機銃のいい的だ。ただ、攻撃しやすい針路はそれが一番敵機銃も銃撃しやすい針路でもある。射撃も後続機の参考になるようにだ。やりたくねー。

 高度6800から左端の敵機に向かって右に捻りながら降下していく。降下角は深い。浅いとやられるだろう。心臓がうるさい。OPLに敵がはみ出しそうになったとき銃把を握る。


 しまったー


 遠すぎた。弾が後落していく。敵に届いていない。代わりに敵の機銃弾は良いように飛んでくる。ブローニングは優秀と聞いたがこれほどとは。

 そのまま、降下で稼いだ速度を殺さずに敵前下方に抜ける。

 少尉たちはどうなったのか。



 

次回更新 8月03日 05:00


この世界の零戦です。いわゆる史実通りではありません。

多分三二型か三三型くらいからはバッテリーとスターターを強化して自力起動出来るようになる作中予定?

双発機は片側が掛かれば、その電力で片側が掛かったと思いましたが。

アメリカの火薬でドカンなスターターは欧米ではスタンダードだったようです。

名前は「コフマン・エンジンスターター」


ベトナム戦争時にもジェットエンジンを緊急時には火薬で掛けていたそうな。エンジンは痛んだみたいです。とエリア88に書いてあったような。


陸軍なら起動車がずらっと並んでいるだろうが*

誤解です。陸軍もグルグルやっていたようです。そんなに起動車の数はなかったようです。いつもグルグルの方から見ればうらやましい。

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