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燃ゆる太平洋   作者: 銀河乞食分隊
発火する太平洋
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発火する太平洋

遂に

 ヨーロッパで独ソ戦が始まり、ビスマルク撃沈でイギリスが一息着いた頃。


 太平洋は緊張感に包まれていた。

 数年前から緊張はしていた。しかし、急に状況が悪化したのだ。

 アメリカ駆逐艦の損傷事件からだった。責任を擦り付け合う日本とアメリカ。進路妨害と何かしらの拙い物体を発見出来なかったアメリカの分は悪い。


 しばらくして、在日アメリカ大使館に火炎瓶が投げ込まれた。素早い消火でボヤ程度だったが、アメリカ側は日本のテロルだとしてなじった。

 犯人は極右集団の下っ端で、そんな度胸のある人間でもなかった。ただ人の言うことを真に受けやすく、すぐ頭に血が上る短気な人間だった。要するにテロの鉄砲玉にするなら扱いやすい人間だ。単独犯とも思えず捜査は続く。捜査の進展ははかばかしくなかった。ある程度まで絞ると、急に指示したであろう犯人の姿が見えなくなってしまう。諜報機関が関わっているだろうとは思われた。しかし確証も無く、米ソ諜報機関の仕業と決めつけるわけにもいかない。


 アメリカ合衆国国内では、日本人や日系人に対する差別や事件が酷くなった。日本大使館に汚物が投げ込まれる事件もあった。

 日本に対するデモから一部が離反。大使館になだれ込んで、暴行事件を起こした。

 アメリカは犯人を逮捕するも、日本がやられて当然という論調で新聞が記事を組んだ。犯人を擁護する声さえ、民衆から上がっている。

 社会のうねりはアメリカ政府のコントロールを離れつつあった。

 日本政府が危険であるとしてアメリカ在留邦人に退去を勧告したのは当然だった。



 日本海技術研究所では


「ねえ、なにかおかしいよね」

「そう思うのか」

「それはそうよ。火炎瓶を投げ込むなんておかしいでしょ」

「でも、やる人間はやるだろう」

「そうだけど、タイミングがね」

「考えすぎると、薄毛になるよ」

「私はならない。それよりも少し額が広くなっていない?」

「まだミリ単位だ」

「へー。後ろへミリ単位ね」

「確かに、誰かが煽っている節は有るな」

「お前もそう思うか。アメリカのことだろう」

「日本も対米批判があふれてきたわよ」

「日本政府の退去勧告は少し拙かったかも知れない」

「何故?」

「日本政府がアメリカ国内は危険だと認めたことになる。アメリカは黙っていないだろう」



 日米双方の大使館への事件以降しばらく経って日本側から北米航路が閉ざされた。危険であるとして。それ以前から貿易量が激減しており、閉鎖されても問題はなかった。

 アメリカは対抗上、ハワイへ日本船籍船の寄港を認めないとした。

 ハワイが使えないとなると、自然に南米航路も閉ざされる。コーヒーの在庫が不安視されるが、イギリス経由で高くはなるがは輸入は続くことになった。


 緊張が高まった1941年10月08日。日本人がニューヨークで惨殺される事件が起きた。撤収準備中の商社員と妻だった。妻は暴行を受けた後も有った。これをアメリカの新聞が取り上げた。まるで、米西戦争の切っ掛けのひとつになったでっち上げ事件のように。

 日本国内でも白人種に対するいわれ無き迫害や傷害事件が起こる。余市でも起こった。


 双方がお互いに悪いと言っている状態では収まるわけもなく、両政府のコントロールを超える勢いで双方の反米反日機運が高まった。

 アメリカ合衆国政府が、日本に対してハル書簡を渡してきたのは11月15日。内容は公開するのもはばかられるものだった。

 細かく理由は書かれていたが、おおざっぱに表すと「日本は、アメリカ合衆国に陳謝し以降はアメリカ合衆国のコントロール下に入るように」という内容だった。事実上の最後通牒であった。

 回答期限は日本時間1941年12月8日。




 ワシントン時間1941年12月7日12:00

 日本時間1941年12月8日02:00


 ハルは昼食をと席を立つと、日本大使が至急面会したいと。

 まさかなという思いで、面会に応じると書簡を渡された。大まかな内容は知っていたが、実際に目にするとまた違うようだ。

 正式な外交文書の形だ。

 何も言わない大使を横目にペ-ジをめくる。目と頭が一遍に覚めた。


「本気なのか」

「当然です」

「そうか。私はこれよりプレジデントのもとに向かう。ああ、そうだ。国内日本人の保護はしよう」

「保護はお願いします。ではまた会う日まで」


 


 日本がアメリカに宣戦布告した。

 このニュースは瞬く間に世界中を駆け巡った。しかもハル書簡を公開して。

 アメリカは恥をかいた。

 世界的にも近代国家として許されるような内容ではなかった。したがってアメリカ合衆国の味方は少なくなった。白豪主義を掲げるオーストラリアの他はオランダくらいだった。ドイツとソ連が自陣に加わるように交渉を持とうとしてきたが、さすがに相手には出来ない。


 アメリカ政府はこれ以上恥をかくことは出来ないとして、帰国が間に合わなかった在留邦人保護をした。日本も同じだ。


「どこで間違えたんだろうね。やはり、臨検失敗からだろうか」

「まさか、麻薬を仕込む前に香港で逮捕されているとは思いませんでした」

「いつもの行動だったらしいが」

「どうも現地当局に、泳がされていたようです」

「前から目を付けられていたのか」

「そういう組織でないと、動かせませんから」

「新聞社の暴走も痛かったな」

「まさかと思ううちに大騒ぎになってしまいました。あと1年くらいかけて煽る予定だったのですが」

「キューバの時もそうだったのだろう。しかし間違いは訂正出来る。勝てば良い。スペインに勝ったように」

「我が国の戦力と生産力なら日本を圧倒出来るでしょう」

「イギリスと自由フランスとフランス連邦*への援助だが。イギリスは切るか減らそうと思う」

「イギリスをですか」

「日本と事実上組んでいる。経済協定であって軍事同盟では無いと言うが極めて近いと考える」

「イギリスは、受け入れるしかないでしょう。しかし、ドイツ相手にイギリスだけで立ち向かうようなものです」

「自由フランスに頑張って貰うさ。フランス系移民で義勇軍を編成するのも面白そうじゃないか。南太平洋のフランス連邦には援助を増やそう」

「情勢は複雑ですね」


「この戦争が終わった時、世界の中心になるのは我が国だ」



次回更新 8月02日 05:00


*フランス連邦はフランス植民地の内、南太平洋周辺の島々が生き残るために結集した勢力だった。自由フランスもビシー政権も当てに出来ない南太平洋のフランス領は自力でアメリカと接近することにしたのだった。

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