超合金 乙
舞鶴で大雨で崩れた跡に発見された洞窟。
そこを探検したのは舞鶴機関学校生徒だった。
彼らは何を見たのか。
そしてそこから始まる影響は。
超合金は海軍機関学校からそれ程遠くない場所で発見された。大正12年秋、大型低気圧による強烈な風雨で崩れた山肌に現れた洞窟を機関学校生徒達が無謀にも探検。そこには見たことも無い機材が在った。重大発見だと認識した生徒達は、学校に報告。
学校側は、まずは危険なことをした生徒達を叱った。そして、内容を聞くに付け重大で在ると判断。学校長の権限で行えることを行った。教官を幾人か生徒と共に再び洞窟調査に出し、結果を知らされた校長は機密情報とするに当たると判断。
次いで学校の予算で周辺の土地を買収。秘密を知る人間は少ない程良いと、舞鶴要港部にも知らせず。
知らせたのは、資料持ち出しや洞窟周辺の買収と封印など、一連の作業が終わってからだった。
校長は、これを機として機関科の地位向上を目指したとも言われる。
機関学校生徒達が入った洞窟は不思議だった。
洞窟内部は一部崩れている場所もあったが、土がむき出しなのは数メートルで、内部は綺麗な構造物だった。奥に扉があり
「重子力研究所」とあった。
日本には到底存在しない構造物だ。しかも文字が左横書きだ。多くは右横書きだ。
内部に入るには、どうすればいいのか。ドアノブも無ければ、手掛けも無い。皆で色々お触りしている内に動いた。
【遺伝情報を確認。開閉資格を持つと認められます】
いきなり響いた声に驚いた。
「誰か!」
答えが無い。他の者が次々に誰何する。
「誰だ」「誰だ」「誰だ」
通路に響く皆の声。
だが、ひとりが当たりだった。
「誰だ」
【この施設の管理者です。貴方には、この施設を利用する資格があります】
「俺が?この施設?」
【貴方の遺伝情報に、過去の施設利用者の痕跡があります】
「遺伝情報?」
【わかりやすく言えば、血統です。ただし、優劣では無く子孫で有ると言うだけです】
「俺の祖先は、水呑百姓だ。ずっと若狭で生きてきたと聞く」
【関係ありません。古代より繋がってきているというだけです】
「古代?」
【あなたたちの時間で、4500年程前です】
誰もが黙った。4500年も前から生きている設備とは?
他の連中が次々に質問するが、答えは無い。そして俺を見る。おい。
4500年とは。どう足掻いても勝ち目は無いな。上位者と見るか。
「貴方は人か?」
【施設管理業務を遂行する・そうですね。あなた方に合わせるなら、何でしょう。神では無いし、妖怪、とも違いますね。そうそう、付喪神。付喪神みたいな物です】
「付喪神…」
【いけませんか】
「いや。俺たちに理解できないものだということはわかりました」
【それが判れば結構です】
「やけにこちらの情報に詳しいですが。それに4500年も前なら、言葉が通じないのでは無いのではないですか」
【常に地上の情報を更新しています】
「「「情報」」」「「「「更新」」」」
「つまり、付喪神なら何か道具みたいな物に宿って情報収集をしていると?」
【その認識で正しいです】
「俺は利用してもいいのですか」
【その資格を持っています】
「ここに居る他の者はどうでしょうか」
【貴方が認めれば、限定的ですが許可します】
「限定的ですか」
【進入禁止区域を設定します。情報閲覧資格も限定的になります】
「進入禁止?閲覧資格?」
【その制服は海軍機関学校の生徒ですね】
「はい」
【軍隊風にいえば、軍機区画と機密情報です】
「それは重大ですね」
【どうしますか】
「今ですよね」
【今です】
「では、今ここに居る者には限定的許可を」
【立ち入り可能区域と情報閲覧資格はこちらで決めます】
「こちらでは、指定できないのですか」
【出来ません。現状、こちらも判断しかねる部分が有ります】
「わかりました。では、お願いします」
【暫定的に、特別、一種、二種、三種と分けます。貴方は二種、他の人は三種です】
「ありがとうございます。俺は二種ですか」
【将来的には、一種、いえ特別になれる可能性はあります】
「他の者は」
【三種ですね。この施設が造られた時に決められています】
「条件を教えて貰えないですか」
【先に告げましたが、血統です。遺伝情報で判断します。その中でも、こちらが好ましくないと判断した存在は、抹消します】
「抹消?」
【抹消です】
「どういう意味でしょう」
【存在を消します】
「消すとは?」
【あなた方に通用する意味だと、死です】
「殺すのですか」
【施設に害意の有る物は抹消します】
「施設を破壊しようとする者ですか」
【害意です。破壊だけではありません。許可無く資料を持ち出したり、許された以上の区画に侵入しようとする者もです】
「施設の許可された範囲内なら、問題無いのですか」
【概ね、問題ありません】
「お行儀良くしていろ、と言うことですか」
【正解です】
その後生徒たちはある程度聞けることを聞き、理解できないまでも理解しようと努めた。
そして学校に帰った。
怒られたのは当然だった。
舞鶴機関学校生徒が発見した謎の施設登場。
「誰だ」「誰だ」「誰だ」通路の彼方に響く声
誰だと問う方か、問われる白い影か。
次回更新 7月23日 05:00