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燃ゆる太平洋   作者: 銀河乞食分隊
変わる世界
15/56

閑話  長すぎて重い、機構が複雑で作るのに手間。そうだ短くして半分にしよう。

画期的高角砲登場?

 昭和15年、梅の散った頃。海軍某所。


「長10センチ高角砲は優秀な火砲だ。性能は。だが作る側からするとどうだろう。戦時量産性に劣るのではないか」

「奴が配備される速度が遅いのは高射装置が数作れないのと砲架が複雑なことなので、砲自体は数を作れないことはないぞ。特に舞鶴合金ならな」

「高射装置も新型が出来る。従来の操縦員が敵機を目視で追尾する光学機械式ではない。電探を使って追尾出来る電子機械式だ。目標追従性がとても高い」

「数はどうなのだ」

「試算によると、九四式高射装置よりも量産性が良くて安いそうな」

「それなら良いが」

「砲に戻ろう」

「そうだな」

「しかし、安くて作りやすい12センチ高角砲では性能不十分で砲架も古い。砲架を新しくしないと最新の高射装置が使えない」

「そこまでする価値は無いだろう」

「それなんだよな」

「12.7センチ連装高角砲を単装にすればどうだろう」

「だが重いぞ。長10センチと変わらん。小型艦艇でも装備可能な高角砲をどうにかしようというのがこの会議だ」

「長8センチはどうだろうか」

「あれか。アレはお蔵入りだろう。いや、陸さんが使うとか言っていたな。どのみち、艦艇には積まないことになった砲だ」

「新規は時間が掛かるし、経費も通るかどうか」


 う~~ん。空気が重い。ここは一発お茶目さんで場をなごまそう。


「なあ。長10センチだが、作るのに手間で当然価格も高い。性能は申し分ないが。なら短くしたらどうだ」

「はぁ?短くだぁ」

「あの長い砲身を連装で撃つようにするのが手間なんだ。内筒交換式も手間だな。現場で命数が来て交換するのは内筒ではなくて砲身全体を替える。砲身は短くして安く作れるようにしたらどうだ。消耗した内筒はしかるべき工場で交換すれば良い」

「何言ってるんだ。長いから良いんだぞ」

「長いから高性能は分かる。短くして性能を低下させて安く作れないかという話よ。俺の発言は」

「確かに砲身は安くなるが、他は同じだろ。砲架と揚弾機構も高いんだぞ」

「だから、同じ弾を使わない。砲弾自体は同じでも、短い奴専用の薬莢で運用すれば安く作れないだろうか」

「弱装にするのか」

「初速1000もいらない。800で良い。更に言えば単装でいい」

「単装なら、砲架も揚弾機構も簡単になるな」

「薬莢も小型化すれば、軽くなって装填が楽だな」

「機関部も小型化出来るな。軽くなると言うことか」

「従来のモーターでも高速で旋回と俯仰が出来る」

「良い事ずくめのようだが、肝心なのは正確性と威力だ」

「正確性は初速が落ちる分、諦めよう。それでは軽く出来ない」

「仕方が無いか」

「うむ。だが、砲弾が同じなら危害半径も同じだ」

「新型の高射装置と組み合わせれば、狙いが正確になる。多少初速が遅くても問題無いと考える」

「対艦能力が心配だな。撃ち合えないだろ」

「そもそも撃ち合うような船に主砲として載せようと思う砲ではない」

「それもそうか」


 斯くして、45口径10センチ高角砲が試作されることになった。昭和15年春の事である。

 驚くほどに試作は順調に進み、15年夏には神風級朝風に搭載。試射を行うことになった。

 結果は取り回しが楽で、砲弾も軽く連射性能が落ちにくい事が確認された。砲身命数も舞鶴合金使用で長10センチ600発に対して1200発という予測結果が出た。撃ってみようという話には「実際に1200発も撃てるか!」と怒られたのだった。

 これは八九式12.7センチ連装高角砲並に持つ。ドックとか艤装岸壁など持たない地域での任務が多くなるだろう小型艦にとっては良い事だ。

 直ちに制式化され、零式10センチ高角砲として採用された。通称、短10センチの誕生だった。砲架は単純に単装化しただけでは無く、改良して単装ゆえの高性能化を図った物である。俯仰角は-10から+85までとなって、装填機構の簡素化を図っている。


零式10センチ高角砲

口径      100ミリ

砲身長    4500ミリ

初速      780メートル

最大射程  15600メートル

最大射高  10800メートル

発射速度     16発/分

俯仰速度     23度/秒

旋回速度     18度/秒



 スペック的には平凡なこの砲は、新型の電探連動である零式高射装置と組み合わせることで予想以上の効果を見せた。

 薬莢を含む砲弾重量が軽く連射能力が落ちにくい。

 砲が軽く目標追従性が良いので敵機を見失わない。

 敵機のそばで炸裂する弾が多い。

 各種単装高角砲を積んだ船からは換装を望む声も上がるほどだ。

 これは、長10センチと短10センチに使う時限信管が機械式で結構正確に炸裂することもある。従来の時限信管は曳火式信管で、今一砲弾炸裂時間の正確性に欠けていた。 

 海軍は陸軍と共に信管を機械式に変更しようとするが、今の所工場設備が間に合わず10センチ高角砲砲弾のみの適用となっている。

 結局終戦までに全部の時限信管を機械式に替えることは出来なかった。配備が優先されたのは正確な標定が可能な高射装置を備える艦艇と陸上基地が中心で、野戦高射砲向けは最後まで曳火式だった。

 新型の短10センチは、新型の零式高射装置が無ければただの運転が楽な高角砲だっただろう。

 零式高射装置は電探連動でイギリスの技術が入っている。キングジョージⅤ世の礼もあった。ただイギリスは高角砲の開発に失敗しており、肝心の高射装置が良くても対空射撃に活かせない。

 海軍はイギリスに八九式高角砲と短10センチ高角砲を現物で提供した。気に入らなければそれでいい。日本もこのくらいの火砲は作る事が出来るようになったのだと。


次回更新 7月30日 05:00


そう言えば、イギリスさんがアメリカからVTヒューズの供給を受けられないのかな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 英国には102ミリと114ミリがあったような···
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