閑話 陸軍と海軍と大和
2話目です。
陸軍は2.26事件を身内でうやむやにしようとして、陛下の御心を逆なでした。また、新聞・ラジオ・雑誌で全国に知れ渡り「陸軍さん」が「陸軍」呼びになってしまうほど社会的地位が下落した。当然、政治的発言力も低下した。
軍の綱紀粛正を急速に行わなければいけないが、事件の関係者だけではなく、ついでに掘り起こされた他の事件や失敗した各種作戦や何故か規模が拡大した上海事変とその後に起こった自警団が起こした事件の関係者も取り調べを受けている。さらに満州事変の関係者も取り調べを受けた。とてもそんな人物を中枢に置いてはいられない。
大混乱だった。
「貴君は、帝国陸軍が未曾有の危機に置かれているという事を解っているのか」
「閣下のおっしゃりようは理解できます。しかし、支那や満州では戦友が血を流して土地を確保しております。撤退などあり得ません」
「何を言うか。貴様のような人物が帝国陸軍を危機に陥れていると何故理解できん」
こういう事態が陸軍各所で起こっていた。
ますます人材難に陥る陸軍中枢。そのあおりを食って人材難になってしまった国内各部隊。
海外に派遣している将校を帰国させようとするが、入れ替わりに出す将校が事態を理解していない将校ばかりも困る。ますます事態を悪化させかねない。
ついに海外派兵部隊を減らすという決断を採らざるを得なかった。一部部隊は解体と動員解除も行われた。陸軍人気の落ち込みと共に、志願兵の減少と徴兵拒否も増え員数の維持に暗雲が立ちこめた為だった。
ついに各地の租界維持が可能なだけの部隊しか志那には派遣されない事態にまでなった。
海軍にも影響は出ていた。陸軍同様いろいろな事件・事故の原因追及がなされ高官の数が減る。そして、志願兵の減少と徴兵拒否が有った。
陸海軍はこの事態にどうすべきか困惑するだけだった。今までのやり方では駄目を喰らったのだ。
その頃、陸軍海軍ともに将校が見て見ぬふりをしていたり自ら行っていた過度な扱きや陰湿な虐め、これに起因する傷害事件や死亡事件、自殺案件まで多数出てきた。
これが陸軍の権威失墜と主に表に出だした。元兵士や現役兵士の口コミという形で。在郷軍人会では必死に揉み消そうとするが、隠したい将校・下士官上がりよりも、やられた兵隊上がりの方が圧倒的に数が多く広がるに時間が掛からなかった。
陸軍も海軍も対応する広報手段を持たず、国会で問題にされ陛下にも嫌みを言われた。だひたすらに世間や被害者に頭を下げるしかなかった。
自浄作用が無いのかと思われた陸軍海軍であったが、かろうじて踏みとどまる事が出来た。
失った信頼を取り戻すにはどうすれば良いのか。
陸軍海軍とも、ほぼ同時期に調査委員会を立ち上げた。その結果から、これはいかんという事例多数が見つかり、自らも過去にやった覚えのある面々は、考えさせられたり、恥じたり、何でこれが問題か、という人間に分かれた。
対策を発表した。
虐め扱きを無くす努力をすると国内に公表し大恥をかき、軍令にも明記した。これで無くなるかどうか分からないが。
陸軍海軍も消灯時間以降の整列や運動をさせる事を禁止した。軍艦は少し運用が違うが概ね同じ扱いとされた。
これにより、また人員が処分され減った。ただ、徴兵拒否が減り志願者も回復基調にはなった。
軍は日清・日露での結果から軍は偉いという考えにあぐらをかいたやり方が通用しなくなってきていた。
それは政治的立場にも現れている。以前よりも軍の要求がはねられるのだ。軍も強気には出られない。
予算要求でも、海軍は島国日本の国防の要であり要求は通った。対して陸軍だが外征軍としての予算要求を大幅に削られ従来の国土防衛軍に向かわざるを得なかった。
政治姿勢だが陸軍の政治介入を無くす為に軍部大臣現役武官制が復活後わずか2年で廃止された。
陸軍の政治的勢いが減少すると共に陸軍親独派は急速に勢いを失っていく。陸軍親独派の勢いが弱くなれば海軍親独派の勢いも弱くなった。
予算の削減と管理できる高級将校の減少で満州以外への大量派遣が厳しくなってきた陸軍。志那方面は租界維持程度まで減らしたが、残るは朝鮮半島と台湾。どちらも派遣しているが台湾は合計で1個師団程度。朝鮮半島には3個師団相当が派遣されている。どちらも半分に削る事にした。
朝鮮半島派遣軍を削り、ウラジオストクからの半島侵攻を警戒しなければいけないが、虎頭要塞を強化する事で対処しようとした。
国家予算自体は景気の回復と共に増えている。陸軍予算の削減は2年で終わり増加傾向にあるが、特別会計の有った以前ほどの額は無い。海軍も同じであるが陸軍ほどは減っていない。
金が無いし人も居ない陸軍は、質の向上を図った。金が無いと言っても志那派遣軍を抱えていた頃に比べればで、大幅に小さくなった陸軍には多めの予算だった。歩兵部隊の自動車化や戦車部隊・輜重部隊の強化近代化など、その予算でやる事は山ほど有った。
海軍も予算が減ったが陸軍ほどでは無いので、予備艦の削減でしのげる程度だった。
問題はこれまでよりも監視が厳しくなっており、予算をごまかして他の艦の建造費に充てる事が難しいと思われた。A-140の予算が誤魔化せそうに無い。しかし、こんな巨大戦艦と18インチ砲を公表など出来ない。すれば、英米は超える艦を作ってくるだろう。それは困る。
A-140は潰れた。
替わりに出されたのがA-150系だった。素直に金剛級代替艦として建造する事になった。もっとも舞鶴合金を使用し日本海技術研究所の技術を取り入れた艦だからまともな船の訳がなかった。
4万トンの計画で予算は3万5000トン級の条約型戦艦として予算請求をした。架空の軽巡と駆逐艦のような目立つ誤魔化し方はしなかった。もっと目につきにくい物。海防艦である。数を必要とされていたのでちょうど良かった。
A-150系 予算請求時の計画
数字を小さくして3万5000トンに見るようにした。
主砲も45口径四一式36センチ連装砲としていた。
基準排水量 4万0000トン
全長 232メートル
水線幅 32.5メートル
機関出力 18万馬力
最大速力 32ノット
航続距離 1万1000海里
主砲 45口径九七式40センチ砲連装 4基8門
副砲 60口径九六式15.5センチ3連装砲 4基12門
高角砲 九八式10センチ高角砲 連装8基16門
機銃 九六式25ミリ機銃 3連装12基
九六式25ミリ機銃 連装4基
測距儀 基線長12メートル3重焦点式
艦橋トップ1基 後部指揮所1基 主砲塔各1基
高射装置 九四式高射装置 4基
機銃指揮装置 6基
装甲 舷側 300ミリ 超合金丙使用で実質2倍
上面 150ミリ 同上
砲塔正面 300ミリ 同上
砲塔上面 150ミリ 同上
艦橋基部 250ミリ 同上
昼戦艦橋 100ミリ 同上
艦底 30ミリ 同上+三重底
大和 就役時
基準排水量 4万3000トン
全長 233メートル
水線幅 35メートル
機関出力 18万馬力
最大速力 30ノット
航続距離 1万2000海里/18ノット
主砲 45口径九七式40センチ砲連装 4基8門
高角砲 九八式10センチ高角砲 連装12基24門
機銃 ボフォース40ミリ連装機銃 12基24門
九九式三号一型20ミリ機銃 単装16基
測距儀 基線長12メートル3重焦点式
艦橋トップ1基 後部指揮所1基 主砲塔各1基
高射装置 零式高射装置 6基
機銃指揮装置 零式機銃指揮装置 6基
電探 十二号 対空捜索電探 1基
二十二号 水上見張り電探 2基
三十一号 主砲用測距電探 2基
三十二号 零式高射装置用電探 6基
三十五号 機銃指揮装置用 6基
探針儀・聴音機 九九式聴音機 1基
装甲 舷側上部 300ミリ 丙種超合金使用で実質2倍
舷側下部 200ミリ 同上
上面 150ミリ 同上
砲塔正面 300ミリ 同上
砲塔上面 150ミリ 同上
艦橋基部 250ミリ 同上
艦底 40ミリ 同上+2重底
昼戦艦橋 30ミリ 甲種装甲板 実質100ミリに近い
舷側装甲は傾斜させる必要は無いとして垂直とし、艦内空間は広くなっている。高さは水線下1メートルまでは300ミリで、そこから艦底までは200ミリだった。幅が広くなったのは、水雷防御を強化したため。
昼戦艦橋は水面上40メートルの位置にそんな重い物をと言うことから減った。代わりに材質が超合金丙から甲になった。この時点で超合金甲の最大制作可能厚は30ミリ。
艦底部は工作数を減らすと言うことで2重底に。代わりに厚くなった。
高射装置と機銃指揮装置は高角砲や機銃を2基1群として操縦する。
45口径九七式40センチ砲は長門の正16インチ砲と基本的に同じであり、超合金使用で変更があったことから九七式とされた。砲弾も強化され九八式徹甲弾となった。長門・陸奥にも使えるが、従来以上の強装薬での発射であり、砲や周辺へのダメージが大きいとされる。
長門級戦艦の砲身は余っており、長門の砲が九七式になる予定は無い。
次回更新 7月30日 05:00
限られた人員と予算で海軍を強化しようと思うと、陸軍を減らすしか無いですよね。
大和と武蔵が予算食い過ぎなので、小さくしました。
大和級は本当に金剛級代替をするのがこの世界。4隻建造予定ですが。どうなるか。
大和就役時に武蔵は工程数で八割消化しています。
信濃はボイラーと主機が座ったところ。
4号艦は、さて?