キングジョージⅤ世
おやイギリスの様子が…
そして歴史がねじ曲がる。
1939年
イギリス、ニューカッスル
「驚いたな」
「全くですな。日本の技術などと言っていたのが恥ずかしい限りです」
「いや。私もそう思っていたからな」
「教える立場だったのですがね」
「やつらは貪欲だったな」
「我々も貪欲になる必要がありますでしょうか」
「ならなければ、時代に取り残されるのだろう。今の我が国のように」
「取り残されていますか」
「野蛮な植民地(アメリカ合衆国)を見れば、我が国は残念ながらな」
「電話も蓄音機もそうですね。自動車が大衆の手に入るようになったのも」
「変なプライドを捨てなければいけない」
「捨てられますか。我が国は」
「自分の考えに妄執する爺どもが減れば、ある程度はな」
「全部捨てる必要も無いでしょうしね」
「陽の沈むことのない帝国の再現は無理だが、世界に大きな影響力を持つ国として変わらねば」
「変わると良いですね」
二人の海軍軍人は、目の前でシャンパンが割られ進水式を行っている戦艦を見ていた。
戦艦はキングジョージⅤ世。
元計画では28ノットが精一杯と言う艦だった。主砲塔も14インチ砲4連装3基だが砲塔は重量を減らすために背の低い設計だった。それが計画速力31ノット。主砲塔も無理をせずに14インチ砲3連装3基になっていた。14インチ砲でも砲と砲弾は新型であり、高初速と高発射速度を実現し高威力を実現している。15インチ砲を上回るという触れ込みだ。
舷側装甲は380ミリから320ミリに減少した。日本が持ち込んだ新型装甲板は300ミリで実力500ミリ相当だという触れ込みでバカなと思ったが、試験の結果450ミリ相当と認められ仰天したことを思い出した。イギリス国内で製造できるのかという質問には、今は無理だが近いうちに少し低性能だが安い合金製造技術を安定化させる。そうしたらその技術を教えても良いと。
舷側装甲の重量減は、水線下の防御力充実に充てられた。砲塔装甲も減らす事が出来、軽量化された内部の広い砲塔が実現された。
船体設計も『爺ども』の要求を蹴り、シアと大きめのフレアを付けた。前方射界など針路を変針すれば良いのだ。
キングジョージⅤ世に使われた日本の技術は、新型合金を使った船体と機関(艦本式)と新型重油バーナー(日本海技術研究所)だった。最上級軽巡に搭載した機関とほぼ同じで、耐久性を高めるために蒸気圧や蒸気温度を僅かに下げている。それでも15万馬力を発生した。(最上級搭載機関は18万馬力)
要するに船体と機関全部である。装甲板と溶接棒は全部日本製だ。装甲厚が知られるのは拙いが、この後で技術を教えてくれるという合金技術は魅力的過ぎる。
製鉄と鉄鋼製品の製作を行ったイギリス国内の会社は困惑したが、海軍さんの注文とあっては無碍には出来なかった。
謎の粉を製鉄工程で混ぜるだと。おまじないか。くらいのつもりだった。ただ、海軍軍人、それも中佐が粉を入れるのだ「暑いな」と言いながら。本気だと思った。そして出来上がった鉄を見て愕然とした。
分けてくれと言っても軍機だと言って断られる。しつこく迫ると取引を減らすと言われ引き下がるしかなかった。
キングジョージⅤ世が試験航海で見せた高性能は驚きだった。全速32ノット出る。凌波性は良い。座りも良い。良い戦艦が出来た。
この時、機関は安全値を超える運転をして馬力換算16万5000馬力以上を出していたらしい。モガミは18万と聞いていたのかもしれない。
イギリス政府が日本向け規制を更に緩めたのは、この結果を得てからだった。
日本が接触してきたことで、日本にも強硬姿勢を嫌う勢力の勢いがある程度有ると知った。そしてABCD包囲陣よりもドイツの脅威の方が危機感は強かった。
1939年9月
ドイツのポーランド侵攻があった。同時にソ連もポーランドに侵攻しており、両国の連携は誰の目にも明らかだった。
日本の対応は、日独伊三国防共協定が意味無しとして破棄を通告。同時にポーランド支援を発表した。
これに驚いたのは、世界中だった。イギリス中枢は知っていたと言われる。
イギリスとフランスが対独宣戦布告をした。日本もポーランド支援を表明している。日本は実質的に独ソの敵となった。敵の敵は味方理論で英仏が日本に近寄る。
面白くないのは独ソイだけでは無い。アメリカ合衆国と中国も面白くなかった。アメリカ合衆国はこの時点で、日本を暴発させてヨーロッパの戦争に介入ということが出来なくなった。
日本がこの様な対応をしたのは、陸軍が二.二六事件における対応のまずさから陛下の不興を買い日本国内で発言力が低下したからだった。ドイツ寄りの政策を進められなくなったのだった。
酒田では
「驚いた」
「本当ね。まさかドイツと手を切るとは思わなかったわ」
「ポーランド支援か。実質としては何も出来ないが、国際的には影響が大きいな」
「イギリスが寄ってきた。フランスもだ。変わるものだ」
「アメリカはどう出るのかな」
「地下工作を仕掛けてきて、強引に開戦理由を造るんじゃ無いのかな」
「やはり、そうなるか」
「中国市場が欲しいのだろう。満州を含めたな」
「困ったものだ」
「我々は政治活動が出来ない。せめて良い方向に行く手助けをするだけだ」
「イギリス向けには役立ったようだ」
1939年
イギリスとレーダーの技術交換始まる
スーパーマグネトロン管技術提供
トランジスター供給開始
日本に対してイギリスのレーダー技術供与
PPIスコープを日本の陸海電波探知機に導入
日本海技術研究所(日技研)で電磁式燃料噴射ノズルの開発に成功。
燃料噴射装置の制御装置の大きさが、トランジスターやダイオードの実用化で回路の真空管数が減り、40リットル程度の容積まで減少。機載用として電子制御燃料噴射装置の開発が進む。陸軍向けも戦車やトラックなどへ応用も始まった。
1941年
三菱「火星」「金星」「瑞星」に日技研式電子制御燃料噴射装置搭載
中島「栄」「ハ41」「ハ109」に日技研式電子制御燃料噴射装置搭載
イギリスに日技研式燃料電子制御噴射装置技術開示
ロールスロイス「マーリン」に日技研式電子制御燃料噴射装置搭載
ブリストル「ハーキュリーズ」「セントーラス」に日技研式電子制御燃料噴射装置搭載
ABCD包囲陣からBを抜きました。
次回更新 7月28日 05:00