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燃ゆる太平洋   作者: 銀河乞食分隊
変わる世界
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超合金 甲

また始めました。よろしくお願いします。

本日3話。

『単機のゼロ戦!後ろだ!』


 レシーバーから聞こえた声に、咄嗟とっさに操縦桿を左へ倒す。ガンガン、バゴン。喰らったか。左へ横転させてから左旋回に持ち込もうとしている機体が、横転操作の後から言うことを聞かない。取り敢えずダイブだ。振動が酷い。操縦桿にも伝わってくるし、操縦桿が重い。左右を見れば、右補助翼が欠けて暴れている。コレではな。

 右を数機の機体が追い越していく。前の2機がP-40に見えた。後ろで追いかけているであろう機体は、陸軍の鍾馗か。

 新型の装甲板を使った防弾装備は優秀だった。ブローニングが貫通しない。右補助翼は当たり所が悪かったのだろう。吹き飛ばされなかっただけ良しだ。


「飴1番。こちら飴9番。被弾、補助翼損傷、操縦困難。一時離脱したい」

『こちら飴1番。9番の帰投を許可する。後ろを良く見ろ』

「申し訳ありません」

『気を付けて帰れ』

「ありがとうございます」


 千歳空戦闘機隊9番機、第3小隊の編隊長である神岡少尉は空戦を横目にラエ上空から離脱を図った。

 乱戦になって単機になってしまった所へ後上方から被られた。あの警告が無ければ、危うかっただろう。飴は千歳飴からとられた呼び出し符丁だ。もう少し気合いの入る符丁にならないかな。

 操縦が難しい。補助翼の半分が欠けてこれだ。九六戦で片翼帰還したあの人は凄い。


「マダン管制。飴5番。被弾損傷。操縦に難あり。着陸したい」

『飴5番。マダン管制。2番に着陸を許可する。現在、南南西の風、風速7メートル』

「マダン管制。飴5番了解。2番に降りる」


 2番か。主滑走路よりも遠い滑走路だ。近くには救護所が有り、主に損傷機が降りる用に用意されていると聞く。風が南南西だと横風か。しかも風速7メートルは無い。この補助翼で上手く降りることが出来るのか。基地を発進した時は、2メートル程度だったのに。


 幸い、神岡少尉は救急車のお世話にはならなかった。しばらく搭乗も出来ないが。機体を壊したし、第一基地には航空機よりも搭乗員の方が多かった。

 ここは地獄のニューギニア。その2丁目であるマダン。1丁目のラエは落ちそうだ。マダンが落とされると、航空隊が大規模に展開できるマクノワリかビアク島まで後退するしかない。小規模な基地では米軍の物量に対抗できない。

 1942年12月の頃だった。



挿絵(By みてみん)




 日本は、連合軍と戦争をしている。日本は対米戦のつもりだったが、アメリカに宣戦布告した後で亡命オランダ政府とフランスビシー政権に中華民国が宣戦布告してきた。一ヶ月程遅れてオーストラリアが宣戦布告してきた。アメリカに付くとしてイギリス本国と喧嘩別れしたらしい。

 亡命オランダ政府はこの対日宣戦布告でイギリスの不興を買い、アメリカ合衆国に移っていった。

 オランダはインドネシアが有るし、フランスはベトナムが有った。ベトナムは自由フランス寄りなのだが何故だろう。しかし、これでドイツも正式な敵になった。ドイツが後ろから突っついたのかも知れない。中華民国は、アメリカに乗ったのだろう。中華民国は度々満州国と国境紛争を起こしている。オーストラリアは白豪主義で、以前から日本と南洋で勢力争いがあった。

 同じフランスでも、自由フランスは日本に宣戦布告しない。逆に味方にしようとしている。これも敵の敵は味方理論と勢力が小さいのでインドシナ地域が遠くて支配の実効性を持たないからだろう。


 戦場は国と国の思惑で交錯している。

 戦争をしているのは、

 太平洋では   日本対アメリカ合衆国・オーストラリア

 大陸では    日本対中華民国

 ヨーロッパでは 英仏+ベルギー・オランダ対ドイツ・イタリア

         フィンランド対ソ連

 東南アジアでは 日本対オランダ・アメリカ合衆国・オーストラリア

 

 太平洋に有ったフランス領のうち、ビシー政権についた者はアメリカ合衆国に平らげられてしまった。ニューカレドニアのように。

 オランダが何が何でもインドネシアを手放したくないために、日本と敵対している。そのくせヨーロッパでは英仏と共にドイツと戦う。ただ英仏から嫌われ居場所が無く、アメリカ合衆国に亡命政権と共に移っていった。

 日本として対オランダ戦は、現地オランダ軍の交戦能力を失わせれば目的は達成される。だから港湾施設の破壊が主目標だった。早期にそれは実現された。

 パレンバンやバリクパパンの油田を無理して占領しなくても、石油はイギリスを通じてブルネイ産の石油が入ってくる。足りない分はやはりイギリスを通じてアラブからも入ってくる。

 生ゴムや綿もイギリス経由で入ってくる。

 商船とタンカーは自前の優秀船が多数あった。オーストラリア経由でアメリ海軍やオーストラリア海軍が行動するので、商船には護衛が付いている。輸送効率は悪いが船団形式を取らせた。


 ニューカレドニアはフランス領だったが、ビシー政権についたために早期にアメリカに占領された。これはフランス側の思惑もあったのではないかと思われる。

 日本は日本でイギリスとの関係も有り、ラバウルやニューギニア北岸を占領した他は、日本が攻撃しているのはポートモレスビーだけでオーストラリア本土には手を出していない。


 ソ連は弱敵と見たフィンランド相手に大損害を被ったという。だが物量の差でなんとか僅差での勝ちを収めた。

 このままではソ連が最後に漁夫の利を得るのかも知れない。

 

 それでも世界規模での限定的戦争が行われていた。




 戦争の切っ掛けは、満州事変からだった。その後有った何回かの大陸での事件がこじらせたとも言える。それは、蒋介石の一族が持つアメリカとの太いパイプとアメリカの中国市場を狙う思惑が一致した結果だった。

 そして日本の東南アジアに向けた姿勢がイギリス・オランダをも刺激して、ABCD包囲陣が出来てしまった。

 政治的経済的な締め付けを強めるABCD包囲陣と反発する日本。妥協は日本がするべきだが、日本は政治経済的に締め上げられており妥協は格下扱いとなることが許せなかった。一時英国を通じて状況は良くなったのだが、米国の外交工作(地下工作も含めて)は巧妙で良くなった状況もすぐに悪化した。この時点でBが抜けACD包囲陣になっていたが。

 トドメは、フィリピン駐留のアメリカ海軍の駆逐艦と日本商船の接触事故である。公海上で意味もなく(アメリカ側には公式な理由が有ったようだ)臨検をしようと近寄った駆逐艦が進路を妨害。その際に駆逐艦は中破したのだった。

 アメリカは犯罪行為だと声明を出し、日本はアメリカ海軍が悪いと反論。お互いに譲らず。

 そして、日本の国内世論がタカ派の扇動を受け振り切って日本は暴発した。


 1941年12月8日。対米開戦。


 ニューギニアが戦場になったのは、オーストラリアの対日宣戦布告後だ。日本は米豪分断作戦を発動した。オーストラリアはアメリカ支援が無ければ早期に白旗を揚げるだろうという見通しに立って。イギリスからも早期に手を引くようにオーストラリアに言っているという。





 神岡少尉達、千歳空戦闘機隊の機体は零戦二二型だった。量産試作機とも言える一一型を戦場に投入してやはり防弾は必要となり、防弾板や防弾燃料タンクを装備した機体だ。重量増で性能が落ちるところを栄一二型の改良型栄二一型が出現。機体強化他の改善も実施して二二型となり、昭和17年4月から量産が開始された機体だ。配備は空母と最前線が優先された。

 当初防弾は必要ないと開発を強行させた海軍関係者は、もれなく最前線に送られている。



 装備された防弾版は、秘匿名称「甲種防弾板」

 正式名称は「舞鶴式合金 甲」

 通称「超合金 甲」



次回更新  7月22日 06:00


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