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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第98話 先輩を作ろう ⑤ あれは敵だ

 あえて誘い込まれてわかった事がある。異教徒は、元王妃様など関係なく王国に入り込んでいて、乗っ取りを企んでいたのだと。


 死霊術師がやたらと多いのも、ロブルタ王国の民だけでなく、国境沿いの里を襲撃していたんじゃないかと思う。


「ここで何の実験をしていると言うのかね」


 先輩も想定を外したようで、わたしに思考を丸投げしてきた。


 生命を絶たれ、魂を抜かれた招霊君のような存在が異様に多い。あえてわたしたちは罠に飛び込んだ。あちらからすると、自分から火に飛び込んで来る羽虫に映ったのかもしれない。


「異教徒達の拠点が、使われなくなった旧道に堂々とあるなんてね」


 タニアさんが、情報を歪められていた可能性を感じて顔を歪めた。現地を隈なく捜さないとわからないわよね、こういうのって。


「農村への襲撃騒ぎは、ダンジョンのせいだけじゃなかったわけかい」


 モーラさんも馬車から出てきて、辺りを探るように見て言う。わたしたちは殺気に満ちた存在に囲まれていたからだ。言わずとも皆警戒態勢を取ってくれる。


「先輩。お母様の思惑外れてませんか?」


 これは王妃樣の手落ちではないわね。可能性を考慮したり、意図はあるにせよ。先輩もわかったように頷く。


「母上の手の者も、侵食されていた証左だな。いや母上の方が思惑を狂わせたかもしれないな」


 異教徒達は、異教徒達以外の存在を認めない。物凄い数の不死者の魔物を見て、わたしは相容れない世界の存在がいると言う事を初めて知った。


「異教徒の中に、強い異界の者がおるのう」


 フレミールも警戒を強めた。強者の気配が、伝わるようでいつになく緊張している。異界の強者への対応は、彼らに対抗出来るフレミールとティアマトに任せるしかなかった。

 

 タニアさんモーラさんはエルミィと一緒に、後部の馬車の上に陣取り弓で攻撃を行う。襲撃を考えて、矢弾もたっぷりと積んで来ている。近づく敵はヤムゥリ王女さまが鞭で退散させる。王女さまも支援に回ってほしいのに。


「先輩だけ死ぬのは無理そうな数ね。それにあの異界の強者達は、ティアマトより強そうだわ」


 いざとなったらフレミールが竜化してヒッポスと馬車ごと飛び去る予定だった。でも異界の戦士達は四十名はいるようで、魔法による強化や結界まで張っている。その中でも五名程は実力が突出して見えた。


「まだ距離はある。あれは不死者を一掃したら出てくるわよね」


 わたしの前では、ヘレナとメネスが剣舞で敵を斬りつけまくっている。


 先輩とルーネがわたしの横で二人の援護射撃をしている。ノヴェルとシェリハはごっつ君をうまく盾に使いながら、近づく敵を屠ってくれる。


 ティアマトとフレミールは、異界の強者達から届く遠距離攻撃を凌ぐのに手一杯になっていた。


「ヤムゥリさまは下がって。先輩、みんなの指揮を頼みます」


「何か対策があるのかね」


「ええ。数の暴力に加えて、異教徒達と異界の強者達の援護が邪魔なので、少し手数を鈍らせるわ」


 あっちが数と異界の強者達に頼るのなら、こっちだって、彼らに搾取され奪われたものたちが力を貸してくれる。招霊君たちがやる気に満ちている。


 わたしは馬車の中の倉庫で、急いで錬生を行う。投擲式風樽君と先輩の魔銃の素材とデカブツの素材に魔晶石を投入して、八門式風樽砲を完成する。


 八つの砲門のうち、四つの砲門は対不死者用浄化薬を装填するのだ。より遠くへ飛ばす残り四つの砲門には特製辛苦玉(スパイス)と初期の臭玉を装填した。臭気レベルは低いけれど、効果範囲が広いからね。損害を与えることよりも集中力を乱したい。


 ストックをいくつもつくり、ノヴェルを呼んで運ぶのを手伝ってもらう。


「おまたせしたわね。ヘレナとメネスはヒッポスのあたりまで、少し下がってね」


 群がる敵の多い方へと砲門を合わせて、わたしは一斉砲射を開始する。


 まあ、数が多いから狙いなんて適当よ。一回の射出の魔力で八門同時に攻撃出来るので、大集団相手の魔力節約になる。


「バカバカしい攻撃なのに効果が高いのだな。どんどん撃ちたまえ」


 異界の強者達の結界は強力で、弓矢を弾き、魔力防御も高い。でも自分達が攻撃を放った際に、一瞬隙間が開く。そこからわたしの放った特製辛苦玉(スパイス)や臭玉が入り込み、結界内を徐々に侵していく。


「敵の動きが鈍い間にヘレナ、シェリハ、ティアマト、エルミィ、タニアさん、ルーネは一旦休憩。フレミールは背後のフォローをお願い。ヒッポス、貴方もガレスとガルフに任せて休むのよ」


 他のメンバーにはペースを落として戦わせる。手数は増やしたものの‥‥持つのかしら、この戦い。


「ジリ貧というやつじゃないのかね」


「‥‥はい。万を越える軍勢と、百以上の異教徒達に四十名の異界の強者達を王都近隣に放置とか、いったいロブルタ王政は何をしていたって話しですよね」


 先輩も同じ見解のようだ。単純に見せかけだけの人数なので、戦うには人手が不足してるものね。自力で動く護衛でないと、やはり駄目ね。


 交代で休んで戦い続けても、多分これ終わらないわよね。おかわり再召喚でわたし達の詰み。先輩を殺したくらいじゃ済まないわよね。


「君は‥‥僕を差し出して終わるなら、そうしようとしたな」


 戦いの最中なのに先輩人形(アストゴーレム)を使ってわたしの首を狩るのは止めてほしい。

 

「それで、本当に万策つきたのかね」


「なくはないですが、異界の強者達には通用しなそうで」


 フレミールとノヴェルを伴って、倉庫からダンジョン【獣達の宴】へ向かい深層の巨大牛人(アルデバラン)を誘い込む。デカブツをこの戦場へ出現させるのだ。


 ただ────デカブツがどちらに狙いを定めるのか不明なのと、フレミールに負担がかかる。デカブツとフレミールが揃って戦って初めて互角くらいかしら。


「リスクの割に、成果が不安定だな」


 今は酔狂玉や、幻惑玉などで混乱している。でも状態異常を解除出来るものがいるみたいで、異界の強者達が落ち着きを取り戻しはじめていた。


 仲間たちが休息を交代する。幸い浄化薬は有効で、大量の不死者達はなんとか対処出来ていた。


「フレミール。休息したあと、ノヴェルと先輩を連れて逃げてくれるかしら」


 わたしの言葉の意味をタニアさんとモーラさん以外は理解した。


「君も来たまえ。他のものも散り散りになれば逃げられる」


「駄目よ。わたしが生命を賭けるから、みんな無茶を言ってもついて来てくれるのよ。奇跡は起きない。でも輝きは失われない」


 わたしが妙なことを口にしたので先輩が訝しんだ。ダンジョンで魔物の大群相手ならわたしだって逃げる。デカブツだって無理しないかった。


 でも‥‥この戦いは別。わたしの大好きなこの世界を汚す輩は、わたしたちは許してはいけないの。なんてね。


「むっ‥‥あれは巨大牛人(アルデバラン)か。君が呼んだのかね」


 話の途中でルーネから先輩に警告が伝わり、敵の塊へと目をやる。そこには一際大きな影が、肉眼でも確認出来た。


「先輩といたからそんな暇ないですって。異教徒が、浚ったドヴェルガーたちを使って、どっかにダンジョンを掘っていたんじゃないですかね。掘り過ぎて【獣達の宴】とつながったとか一から育てたか‥‥」


 デカブツが現れ出したのは、異教徒達のせいじゃないかしら。あれだけの魔物を作る魔力を奪われ続けて怒ったとか。


 迷宮兵器とでもいうのかしらね。 倒してしまったデカブツも、うまく誘導していれば味方になったのかな。


「敵と味方の区別がついているようには思えないけれど‥‥奇跡は起きたようね」


「挟撃するのかい」


「はぁ? 逃げるのよ。異界の強者達とまともに戦えるのがティアマトとフレミールだけだもの。それにやって来たのデカブツだけじゃないわ」


 空から何かやって来たのが見えた。あれはグリフォン部隊だろうか。顔も見たくない冒険者たちのムカつくニヤニヤ顔が見えた気がした。わたしは八門式風樽砲を構えると、砲撃の照準を全て彼らの予想着地地点に向ける。ありったけの臭玉をぶっ放しておいたわ。


「えっ? 味方をしてくれる冒険者パーティさんじゃないの」


 休息から戻ったヘレナたちがびっくりした顔をする。


「いいのよ。嫌がらせの一つでもしておかないと、受けた借りが大きすぎて返せないもの」


「何よそれ」


「カルミアって‥‥」


 わたしを珍妙なものを見る目で見ないでほしいわ。


 これでも戦闘に支障を来たすといけないので、臭玉だけで勘弁しておいたのよ。


 異界の強者達四十名よりもあの冒険者パーティの方が強い。そんなパーティがよくもタイミングよくやって来たものね。────あぁ、エイヴァン先生か。


 金級冒険者の先生ならば、何かしら情報を持っていて、王家の依頼をこなしながら、別の目的を持って動いていてもおかしくない。エルミオ先生とも仲が良いから、学園の情報は探り続けたのだろう。


 食えない人ね。さすがは金級冒険者ね。雇っているのはあちら側だろうけれど、何だかんだエルミィを気にかけてくれているみたいね。


 わたしと出会った時から、彼ら冒険者(チンピラ)たちは何かを探していた。彼ら自身はロブルタ王国の動乱には興味はなかったように見える。でも異教徒達の動向には、注視していたのね。


 元王妃様が利用され接触を持ったことで、都合良くあらわれたように映ったわけね。


「────全て知っていた上で、馬鹿にして遊んでいたのかも。あぁムカつくわ」


 やっぱ駄目ね。わたしは八門全てに護臭気君(ヘドロヌーバー)を設置して、臭気にもがくパーティに撃ち込む。強いのだけど臭いには弱かったのか、敵のど真ん中で苦しそうにもがいていた。


「カルミアって、やっぱ頭がおかしいわね」


 ヘレナや眼鏡エルフが呆れたように口を揃えて言った。


「いいのよ。あいつらには散々お世話になったのだからお返しよ」


 あいつらが黙っていたせいで、トラブルに巻き込まれたようなものだもの。きっちりその分の苦しみを、分かち合わないとね。


「君がそういう奴なのは皆知っているが、本当に生死のかかった場でも変わらないのが僕は嬉しいよ」


 先輩やメネスにヤムゥリ王女さまは味方だ。デカブツの投げる巨石に潰されて死んじゃうかもしれない。それなら後悔しないように、やるべき事は済ませておく。


「いや、その思考がおかしいよ」


 真面目な眼鏡エルフは抵抗する。タニアさんやモーラさんは何が何だかわからないまま、助かりそうなのでホッとしていた。


「あとは冒険者パーティとデカブツに任せて、ヘレナの実家に向かいましょう。先輩の殺害の事は、もうなしでいいわよね」


 わたしたちはヒッポスに引かれて新しい街道へ移動する。戦闘でヘトヘトなので、見張りはティアマトとガレスとガルフに任せ皆休むことにする。シェリハもエルミィ人形を連れて、馬車の屋根に登って見ていてくれた。


 国王夫妻には引退させない。ローディス帝国にも、シンマ王国にも領土問題にかまけるより足元の確認を促すべきだ。


 王妃様は後ろめたく思うかもしれないわね。何が最善だったのかはその都度変わるものだから。


 ────突如空間がブレた。


 フレミールが気づいて槍を投げつけるも、空間からあらわれた異界の強者は槍に貫かれながらも、先輩の胸に剣を突き刺した。


 ヘレナに斬りつけられながら異界の強者は突き刺した剣を斬り上げ先輩の頭まで飛ばして、血を吐きながらも転移して消えた────。

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