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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第97話 先輩を作ろう ④ 狂った錬生術師

 なんてことかしら。わたしはついにやってしまった。先輩の事を……何度も何度も、ああしようこうしようと考えていたのよ。あまりに無防備で隙だらけなものだから、思わず高笑いしてしまいそうよ。

 

「どういうことか説明したまえよ」


 ────素っ裸で、腰に両手をあてて胸を張る先輩の姿がそこにあった。ただし‥‥わたしの刺した毒針のせいで、ルーネの大きさだったけれどね。ちんまりして可愛いわね、この先輩は。


 わたしが先輩を殺すわけないって思っていた先輩が、ちっちゃくなって少し照れてる。あらあら、先輩ともあろうお方が、少し疑ったんですかね。


 美声君のおかげか、ルーネよりも言葉がはっきり聞こえる。あれ、美声君までどうして縮んだんだろう。わたしの知らない所で知らない機能を持つのを止めてほしいわね。


「まあ、いいか。それより悩んだんですよ。先輩の殺し方をどうするか」


 異教徒の暗殺者と王妃様の放った暗殺者を騙すには、先輩の死は必須だ。似ていても装備や人としての動きと人形とでは、どうしても違いが出るのでわかってしまうのよね。


 先輩を先に始末して、魂を招霊君に移す事も考えた。いわゆる死霊術というやつね。確実に死んだ姿を見せつけられるけれども、肉体は腐るだろうから嫌だ。


 これでも先輩の身体づくりを、一緒に磨いて来た自負があるのよ。それに‥‥わたし自身が死霊術の専門家ではないので、先輩の魂を戻せるか微妙なのよね。


 だから死霊術は却下。そこで考えたのが、ルーネの大きさにする事だ。幸いルーネが先輩人形(アストゴーレム)の有用性を示してくれた。

 

「先輩が先輩を守るより、先輩自身がいつでも死ねる身体になるには、人形(ゴーレム)を身代わりにするのが一番ですからね」


「つまりルーネのように、僕に僕自身の人形に乗り込めというのかね」


 理解が早い先輩で助かるわね。それと、目がキラキラ輝いてるのでわかりやすい。御自分の人形なのに、乗りたかったんですね。


「そういうことです。対外的に王子様となっていたので、ごっつ君と王子樣型はシェリハに任せて、先輩とルーネで王女樣型を動かしてもらいます」


 先輩人形(アストゴーレム)を操作するための浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)も用意する。


 ルーネと違って、栽培はしないわよ。先輩用の中には出来るだけ薬のストックを保管しておきたいものだ。わたしたちは基本的に先輩を守る布陣なので、先輩に回復の手を持たせておくのが一番なのよ。


 生命の優先順位も、先輩が優先。まあノヴェルはフレミールが意地でも守るから任せる。


 あとは人形(ゴーレム)が斬りつけられたり破壊された時に、現実感を出す必要があるわね。肉片から血が出たり、臭いがしたり、骨や内蔵を仕込んだり、それらが腐らないように処理も必要ね。


 結局死霊術並みに、準備がいる。死体のようなもの用意がないと誤魔化せない。でも‥‥先輩の身体をそのまま使うよりはマシだった。


「一応簡単には消滅しませんが、フレミールのブレスのような、強力な破壊魔法には気をつけてくださいね」


 ここまで念を入れるとなると、先輩の死体が確認出来ない死に方が一番困る。先輩にはさっさと死んでくれた方が、被害が少なくて済むからだ。


「言い方が引っかかるが、そいつは相手に言ってくれたまえよ。あと急に大きさが戻ったりはしないのかい」


「それはこの変身用の魔法丸薬で調整出来るわ。フレミールの魔法効果で、身につけた衣服も一緒に大きさ変わるから便利ですよね」


 鉢植君は先輩に荷物を持たせて小さくなれば、先輩専用の倉庫にも出来そうだ。魔銃の弾丸とかも運び入れてもらおう。美声君もこの効果だったのね。


「先輩に打った毒針は小人の魔法薬なのですよ。どちらかというと、こちらの薬の効果が切れた時の状態が小さいままだと、不味いかもしれないですね」


 急造でつくったのにうまくいって良かったわよね。先輩のおかげだわ。


「────薬の効き目が切れるのはいつなんだい」


 なんだか急に、小さな先輩の目が座る。


「さあ? 初めて先輩で試すのに、わたしがわかるわけないじゃないですか」


 先輩が無言になってわたしの髪に飛び移り、ぶら下がった。小さくても翼が機能するのね。


「いたたたっ、先輩髪にぶら下がるのはなしですよ。小さくなっても重さは一緒なんですから」


 先輩がわたしの髪を掴み仰け反らせて、湯船の外にぶら下がるので頭が痛くて首がやばい。小さくてすばしっこいから捕まえられないのよ。


「君というやつは、本当に狂った錬生術師(マッドアルケミスト)だな。躊躇いなく王族すら実験体にする」


 わたしが裸で湯船で泡を吹いて倒れていたのを、ヘレナが見つけた。心配して様子を見に来た彼女が介抱してくれたので一命は取り留めたわ。


 小人のままなのに、適確にわたしを殺りに来るのだから先輩も大概だと思う。


 だいたいこの人、さっきの説明忘れてるんじゃないかしら。小人のまま薬の効果が切れてしまうと戻れなくなるのよ? 戻せる手段を持つわたしを躊躇することなく殺ろうとする?


「‥‥死なば諸共だろう。フレミールもいるのなら、君が死んでも魔法の解除くらいはやってくれるさ」


 ぐぬぬ……先輩め本当に賢い。話の肝要な部分をしっかり抑えているわね。


その先輩もヘレナにつまみ上げられて、ダウンしてベッドに眠るわたしの横で反省させられている。


 わたしも先輩も二人ともすっかり忘れていた。今は寮の中ではなくて、怖い暗殺者が大挙してやってくる旅の道中なのだ。ヘレナに凄く叱られた。

 

 夜の見張りはタニアさんとモーラさんにティアマトが前半を、ヘレナとエルミィにフレミールが後半を受け持つ事になった。


 ノヴェル、メネス、シェリハは展望台で交代で人形(ゴーレム)を使って見張りをしてくれる。ヤムゥリ王女さまは仮にも王女さまなので倉庫で休ませた。


 先輩はルーネと仲良く浮揚式鉢植君(コスモテラリウム)で、ふよふよしていた。意識を戻したわたしの錬金術作業の間、楽しそうに操作を学んでいる。


 先輩には一度元のサイズに戻らせ、着替えをさせていた。より現実的な先輩人形(アストゴーレム)を作るための素材提供にも協力してくれるようだ。

 

 

 ────ヘレナの実家までは、二日程で到着する所まで来た。ヒッポスには急がせていないので、休まず飛ばせば実際はあと一日かからない距離のはずだ。


 主要街道から外れ、道があまり整備されていない状態になってきた。仕方ないので、ヒッポス君で強引に押し通る感じになってしまったわ。


「余力があれば道を直して進みたい所だけど、自分たちから敵を招きやすくするだけよね」


 馬車の往来も少ない峠道では、鬱蒼と茂る木々の枝が払われたせいで通りやすくなっている。


 たださ、この峠道って、待ち伏せに最適の場所なのよね。片側が岩山の崖になっていて、上から襲撃しやすいもの。いざとなれば、馬車ごと通行人をもう片側の谷へと突き落としやすい。


 岩山から大きな石でも転がせば一網打尽に出来そう。展望台に設置されたノヴェル人形(ゴーレム)で、索敵していたノヴェルから報告が上がる。


「崖の上に人がたくさんいるだよ。前と後ろからは魔物もおるだ」


 やっぱそうなるわよね。仕掛けやすい場所だもの。言ったそばからすぐに襲撃を受ける。


「ヒッポス、落とされないように馬車は崖側に寄せて。ティアマトは上からの岩が直撃しないように、ヒッポスと馬車を守って」


 展望台にはエルミィがすでに登っていて、敵の弓使いを射ていた。メイドエルフに見惚れたアホから順に、楽々仕留める眼鏡エルフ。


「高さと数はあちらの方が有利ね」


 正面から向かってくるのは召喚された山岳狼の群れだ。ガレスとガルフが迎え討ちに飛び出すけど、数が多いし狭いから無茶しちゃだめよ。あいつら数で押して落下させる事も考えていそうだった。


 後ろからくるのは腐った馬(エビルホース)に跨るグールナイトの群れだ。死霊術師って一人じゃなかったみたいね。


「タニアさん、モーラさんは馬車の上に。メネスはシェリハとヘレナたちを支援してあげて」


 わたしは一台目の馬車の上に乗り、全体を見渡す。わたしの意図を察してフレミールがタニアさん達と入れ替わり槍を構えて引き付ける。


 先輩とルーネは数の一番多い狼へ魔銃で攻撃し、ヤムゥリ王女さまは自分の人形(ゴーレム)を使って、エルミィたちに矢の補充を行っていた。


「カルミア、こいつら山賊だ。囮かもしれない」


 転がってくる岩を砕きながら、ティアマトが匂いを嗅ぎ分けた。


「山賊の縄張りをうまく使った感じかしら。ノヴェル、谷底に敵は?」


「離れたとこさに、十人くらいいるだよ」


 手慣れているけれど、山賊達は弱い。三、四人エルミィが反撃した時点で浮足立ち、二桁射殺されると崖上から逃げ出した。


「ヒッポス、動いて。前方を突破するわよ」


 ノヴェルが崖上の異変に気づいたので、ヒッポスに無理矢理強行突破を図らせる。


 ガレスとガルフは馬車内に、ヘレナはヒッポスの上に乗り襲ってくる狼達を切り払う。足止めをしたのはやはり時間稼ぎだ。山賊達と組んだ暗殺者達は、岩山の崖ごと崩してわたしたちを谷底へ落とす気だった。


「結構大規模な仕掛けね。このままだと地盤ごといくわ」


 上にばかり注目させて足元ごと崩す。実に嫌な罠だった。馬車はヒッポスに任せて、わたし達は振動で振り落とされないように、馬車の中に戻りしっかりと手すりなどにつかまった。


 エルミィとティアマトは危ないのに、馬車の上に乗ったままだ。ティアマトは転がってくる岩を弾き、エルミィは追いすがるグールナイトの足止めをする。


 一瞬ヒッポスが沈む地面に足を取られかけた。でもノヴェルが落ち着いて大地の魔法で進む先を補強してくれた。わたしたちはなんとか峠の道を切り抜ける事が出来た。


「あのまま自滅して終わるならいいけどね」


 まとわりつく狼以外は大規模魔法に巻き込まれて、谷底へと落ちていった。


 先輩とルーネが、どっちが多く魔銃で倒せたかではしゃいでいた。いや、活躍してくれたのでいいのだけれど、二人とも殺戮の天使みたいにはならないでね。


「厄介なヤツラじゃな。使い捨ての魔物や山賊共を使ってさらなる不死者の糧にするようじゃぞ」


 峠道は抜けたけれど、この道は複雑に入り組んでいて待ち伏せ箇所がいくつもある。谷底が時折あるので罠を張られると身動きも取りづらかった。


 先輩を殺してもらうためには相手にも全力で挑んでもらわねばならない。そのために、不利を承知で崖道を選んだのだから。

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