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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第94話 先輩を作ろう ① 天然ドジッ娘眼鏡エルフ

「先輩を連れて行くのが危ないのなら、先輩を増やせばいいのよね」


 わたしがそう提案すると、みんな何を言っているんだこいつは、と言う顔になった。


「先輩の人形(ゴーレム)を作るのよ。変に身代わりの人を雇うより本物そっくりだからいけるわ」


 身代わりの人に仮面を被らせて隠す手段を本物そっくりのゴーレムにもあえて使えば、狙いを絞るのが難しくなると思うのよ。


 狙われるとすると、先輩とヤムゥリさま、ノヴェルにエルミィかな。眼鏡エルフもなんか最近怪しいのよね。ただものではない魔力の量とかさ、言動がわりとわがままでお姫さまっぽいの。


 今はまだエルフの国のどこかの集落の族長の娘にしておくけど、そのうち吐かせてやるわ。


 彼女の兄であるエルミオ先生が完全に研究肌の人なのよね。素で王子感ないから惑わされる。ノヴェルを除くと、この三人はわたしを殺しかけた共通点もある。


 ‥‥まずは先輩を作ろう。ロブルタの王宮には王子様型を置いておくとしよう。メネスみたいな探索や偵察に適した人や、暗殺者には通じないかもしれない。逆に偽者と丸わかりだから、殺す手間をかける必要がない。人形でも生きていると周りに認識させておくのが大事なのよ。


 先輩が自由にしたいのなら、王子様型をお飾りに置くのが良さそうね。その他に王女様型、つまり先輩の偽物人形(ダミー)を作る。なんだかややこしいわよね。


 まずはノヴェルとルーネに砂を作り出てもらう。スマイリー君の材質で作った液体と混ぜる作業は、みんなに手伝ってもらった。


 他の人形師がどうやってゴーレムなど、人工生命体を作っているか知らないのよね。わたしが錬金術師ではなくて、錬生術師だから必要なものが違うのはわかっている。


 でもね被験体の情報量に関して詳しく知る必要性は同じはずだ。そして、わたしは先輩の身体に関しては隅々まで詳しいのだ。


「‥‥その例え方だとカルミアが変な人に見られるよ」


 型作りを手伝うヘレナに、心の声がもれて突っ込まれたよ。でもねヘレナ……あなたたちの身体も既にわたしは把握済みなのよ。 シェリハ、フレミール、ヤムゥリさまの情報をもっと集めないとね。


「先輩、こっちに来てください」


 泥のように捏ねるのが珍しいのか、先輩や王女さまは楽しそうだ。あれはたしかに手の平の感触が気持ち良いのよね。魔法の砂なのできめ細やかだし。


「なんだい? 今いいところなのに」


 お高い服まで泥々に汚したお子様かよ、と言いたいわね。頼んだのはわたしなので、ありがとうと言っておく。まあ、どうせ服は脱ぐので洗えばいいわね。


「型を取る準備が出来たので、服を脱いでそこへ立っていただけますか」


 何を始めるのかと、みんなが手を止め注視する中で、やはり先輩は躊躇わなかったね。黒パンに黒ブラジャーと名付けられた胸当ても外してもらい、汚れないように預かった。


 王宮でメイド達に囲まれて脱がされ慣れている王族は、みんなこうなのかしら。王妃様も堂々としていたものね。


 先輩の髪には型にくっつかないように潤滑油を塗る。布とかで被せると形が崩れちゃうからだ。この美しい黄金色の髪一本を再現するだけでも、ひと苦労なのよ。


 ティアマトが手伝いに加わり素っ裸の先輩を優しく抱き上げる。そしてヘレナと作った型の中にそっと寝かせる。


 型の中には魔法の砂が捏ねられて、表面張力のあるものが敷き詰められている。自重で先輩がゆっくり沈んでゆく。


「──先輩、口を開けてこれを含んでいてください」


 わたしは先輩の口の中に空気飴(エアボール)を入れる。水中でも短時間なら呼吸が出来る飴玉だ。飴が溶けると大気の成分を自然に肺へと運んでくれる。昔作った試作品だ。


 そんなに長い時間水に潜る必要がないと、不用品扱いされたのよね。あの時は馬鹿にされて悔しかった覚えがある。でも毒霧の中とか臭気の充満した中とか、水の中に限らず呼吸を止める必要のある場面で必要性があるとわかった。


 先輩には鼻と耳に栓をして、目は閉じてもらう。先輩は基本純粋なので瞳が綺麗なのよね。髪の毛同様、再現には苦労しそうだわ。


 それにしても空気飴(エアボール)の効能や、人型を取る説明はろくにしてないのに度胸ある人だよ。自分に似た人形を作るのが興味深いらしい。


「ティアマト。ヘレナと型の蓋をしてもらえるかな」


 先輩が横になったものと同じような台を二人が持ち上げて先輩の上から綺麗に被せる。これで型の中で先輩は、魔法の砂の心地よい感触に包まれているはずだ。


「苦しかったら美声君で言ってくださいよ。出来れば動かず我慢してくださいね」

 

「────今の所、問題ないかな」


 先輩が箱の中で、伝声してくる。怖がらせないために話しかけ続ける間に、魔法の砂が先輩の発する体温で乾いて固まってゆく。空気飴(エアボール)の効果が切れるより早く、先輩の形が出来上がった。


 ティアマトとヘレナが台の蓋を外して、先輩を助け起こすと、綺麗に先輩の型が出来上がった。ぶっつけ本番なのに上手くいったわ。


「‥‥君には後で話がある」


 なんか先輩が文句を言うけど、局部まで完璧を求めると言うのなら聞きますよ。──さて肝心なのは先輩から剥がした型の出来前なのよね。


「おぉ、思ったよりうまくいったわ。これで先輩が、量産出来る」


 背中側は形の良いお尻の質感まで、堪能出来そうに見えた。飾っておきたいくらいだわ。よし、別の型を取って飾ろう。成長の記録ってやつね。芸術品の収集家なら高く売れる代物よ。


 前面は顔の表情も、くっきり写っていた。先輩は楽しかったのか、口元が綻んでいた。天使の微笑みの仮面と銘打って、お祭りの時に売れば、これも爆売れ間違いなしよね。


「そういう話しは僕の許可を取ってからにしたまえ。それと王族を真っ先に実験体にした君は、僕やヤムゥリ王女を非難する権利はないぞ」


 油の回収のためスマイリー君を頭にのせ、素っ裸のままの先輩に頬を突かれた。だって実験とかまだるっこしいの嫌いだもの。実践あるのみよ。


「それより先輩が陛下の後を継いで王になった時、お祭りでお面を売る許可をくださいよ」


「そんな先の話でいいのなら構わないとも」


 お面の販売の了承は得たわ。いっちゃ悪いけど処刑された兄たちと違い、先輩はお顔が良いのよ。先輩はきっと両親の最良の組み合わせなのよね。


 う〜ん、幼少期の人型もあれば、陛下や王妃に高く売りつけられたかも。いや、幼児型人形(アストロリゴーレム)か、小型化か……考えておきましょう。 


 フレミールあたりと相談して、いつか若返りの魔法を試してみるのもありね。陛下や王妃様に相談して、先輩の型の年齢を下げていけばいけるわね。逆もありだけど、需要がないと思う。


 せっかくみんなに手伝ってもらえるので、型だけは全員取ることにした。 それでは、いよいよ先輩作りに入るとしますか。


「王子様型は、筋肉ムキムキにしてくれたまえよ」


 それは面白いけれど却下ね。筋肉は、わたしもほしい気持ちはよくわかる。でも先輩と外見で区別がついてしまうと、造る意味がないもの。


 ん‥‥待てまてよ。護衛騎士を先輩の型をもとに、ムキムキの騎士に仕立てるのはありかな。派手になるし、盾にもなるものね。


「というわけで完成したわ。ノヴェル──魔法のペンで、先輩っぽく着色してくれるかしら」


「おら、綺麗に塗るだよ」


 魔本作りの授業で作ったペンは、基本一本に付き一色だ。しかしノヴェルのペンは違う。彼女の頼みで、ノヴェルの魔力で好きな色に変えて書けるようにしたからだ。虹色の鉱石(カルミアタイト)を使った特製なので、虹の筆(レインボーペン)と呼んでいる。……まさか、ゴーレム作りに役に立つとは思ってなかったわ。


 肌の質感を強めるには、成分たっぷりの先輩の魔晶石を溶かした特製のインクを使う。予想通り、最良の結果になった。虹の筆(レインボーペン)用に各個人ごとの特製のインクを作り、ノヴェルへ預けておくことになった。


「先輩、動きは無理ですが表情に変化をつけたいの。何種類か顔の表情だけ作りましょう」


 お面とノヴェルの色付けを見て思いついた。招霊君をつかって、お面で表情を変化させられる。


 みんなの人型を順番に作る間、先輩は一人で色んな表情を型に取られ、さすがに息があがっていた。でも、その息苦しい苦悶の表情もいただきたいので、頑張って顔の筋肉を止めていてくださいよ。


「あとはカルミアだけね」


 全員の型取りが終わり、エルミィがニヤリッと笑った。うっ、なんか悪巧みを感じるわね。


「わたしのはいらないわよ。庶民の身代わりとか、何様って笑われるもの」


 生命を狙われるのは結局の所、魔法学園にいるせいだ。アストリアという王家の人間と関わらなければ、誰も注目なんてしていない田舎街の一庶民ですから。


「御託は無用よ。アスト先輩、カルミアの首を。ヘレナとティアマトは腕を抑えて服を剥いじゃって」

 

 眼鏡エルフがここぞとばかり的確な指示で、わたしを剥いた。先輩に首を狩られた時点で動けなくなるというのに。


 ────そしてわたしは悪戯を思いついた、天然ドジっ娘エルフに殺されかける。型に押し込められる際に、空気飴(エアボール)を口に入れ忘れたのだ。美声君で伝えたのに、このアホ眼鏡は信じず無視したのよ。


 冗談などではなく真面目に窒息死になりかけたわ。あの眼鏡をかけたエルフ姿は、出来る娘にみせる力がある。でも、とんだ詐欺眼鏡だよね。


 わたしは学園に入ってから夏休み前までに、既に四回死にかけてる。この調子で卒業まで、果たして生きていられるかしら。死にかけたのに型取りは当然失敗した。だから容赦なくもう一度型取りさせられる。体力の乏しいわたしは、もうヘトヘトになってしまった。


 スマイリー君を使うのは面倒なので、ヘレナとノヴェルを連れてお風呂に癒やされに行く。


 反省中のエルミィには王女さまが喜々として、先輩同様の表情型取り地獄を行っていた。仲良し同士楽しそうでいいわね。ついでにエルミィも成長の証(しりたく)を取って飾ってあげましょう。


「先輩が、本体も入れて五人揃うと壮観だわね」


 本体の先輩が中央に、おんなじ女の子の型が左右の二人、端っこの二人が男子型で、一人は要望通り筋肉ムキムキ(ごっつ)君にしたわよ。


「本体という言い方は釈然としないが‥‥いいじゃないか」


 問題は単調な行動しか取れない事なのよね。ごっつ君と護衛の女の子型二体は、なるべくなら派手に動かしたい。


「──そこでシェリハの糸の出番よ」


「わ、私がですか?」

 

 急にわたしに名前を出されて、シェリハがビクッとした。


「そうよ。操り人形のようにあなたの意思で動かしてもらいたいのよ。先輩は同調用の指輪を造り直したので、王子様型を自分で動かしてみてください」


 いきなりの操作は難しいのか、二人とも動かしたい動作を伝えるのに、自分が一緒になって踊ってしまって面白かった。


「笑うけれど、難しいのだぞ。君がやってみたまえ」


 先輩が指輪を外してわたしに渡す。指輪があれば、わたしたち仲間ならば誰でも動かす事はできる仕様なのだ。


「甘いですよ、先輩。わたしはこれでも複数の招霊君を操っているんですから」


 わたしは指輪なしでも、多数の招霊君を使って操ることも出来るのだ。わたしの滑稽な動作を期待した先輩が、少し悔しそうにむくれた。


 強化付与の魔法で、意のままに動かない身体の使い方に慣れているヘレナも動かすのが上手だった。


 フレミールは魔力で強引に動かそうとして、先輩そっくりな女の子型を壁に激突させ破壊してしまった。精巧な分……エグい。


「なんというか、すまないのぅ」


「向き不向きを調べているからいいのよ」


「僕としては、自分の無惨な姿を見るのは複雑な気持ちだよ」


 耐久度も測れたので失敗も良しとしたい。新たに作るものに関しては、もう少し強度を上げる必要がありそうね。


「ルーネが直接乗って操ればいいのではないか?」


 ティアマトがふよふよ浮かぶルーネの鉢植君を見て言う。ルーネが呼んだ? という表情をした。


「それ採用よ。なんでティアマトは研究者してないのよ」


 相変わらず良い直感力を発揮するわね、ティアマトは。わたしは新たに作り直す女の子型を、ルーネが内部に入れるように改良してみた。


「ルーネ、貴女の鉢植君が中に入ると先輩の人形(ゴーレム)が起動するようにしてみたわ。動かせるか試してみて」


「──ヤッテミル」


 人の動きとしては微妙で奇妙だけど、うまく動かせた。鏡を見て少し練習すればルーネなら余裕で操れそうだわ。


「ヘレナ、そこの棒をルーネの操る先輩人形(アストゴーレム)に持たせて、ゆっくり剣の使い方をみせてあげて」


 ヘレナにわたしの意図が伝わり、ヘレナの動きをルーネが真似する。先輩と一緒に動いていたので、慣れると先輩らしく動くことも出来た。


「凄いわね。あとは美声君で先輩の声にすれば完璧よ」


 起きている時は、先輩人形(アストゴーレム)を動かして護衛になってもらい、休む時は先輩の所へ鉢植君で収容する。声は先輩がルーネの伝声を通すか、ルーネが美声君を先輩の声に切り替えればいい。


 マンドラゴラたちを操る関係上、魔力伝達で、遠隔操作も出来るようになりそうね。先輩軍団を操るのはルーネただ一人だった……って、未来が見えたわ。


 微調整は必要だけど、先輩の近くにいるシェリハとルーネには先輩人形(アストゴーレム)の操作に早いところ慣れさせたい。その操作に加え、先輩の主装備の魔銃を撃てるようになってもらいたいものだった。

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