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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編
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第93話 王女さまの叫び

 今までは、どんなに付与をかけてもわたしの魔力に限界があった。付与効果で一、わたしの魔力がせいぜい三くらいしかないので相手の魔力が仮に五以上の力出されると、簡単に突破出来てしまったのだ。


 でも今回の新作はノヴェルやフレミールの協力で、十や二十の力でも足りないくらいの魔力がこもっている。


 彼女たちの魔力はもっとあるのよね。でもね‥‥わたしに扱えるわけないでしょ、そんな大量の魔力。


 先輩の竜の翼はだいぶ気を使って作った。弓矢や魔法で羽に穴がいくつも開かない限りは揚力は変わらないし、再生する仕様になっている。


 魔力で飛行魔力を封じられても撃墜されないように、鳥のように滑空しながら着地出来るように作ったつもりだ。ノヴェルのおかげで、反重力の骨組みも一部取り込み、対重力魔法にも対策している。


 まあ普通は撃ち落とす武器なり力なり魔法なりがあるならば、無防備な本体を狙うわよね。


「先輩‥‥育ち盛りなのはわかりますが、ああなるまでは食べないでくださいよ」


 わたしはヘレナとノヴェルのお腹を指して先輩に忠告する。太って飛べない水鳥(ガーガー)なんて、獣の糧にしかならないからね。


 シェリハが言うには、みんなで食べるようになってから、先輩の食事量があがっているそうだ。先輩はがっつかないので、食事量がわかりにくいのよね。出る所は出てるのは、見た目より食べてるからだわ。


 せっかく作った竜の翼、重くなりすぎて飛べないのは、わたしのせいじゃないですからね。特に育ち出してる胸とお尻は、わたしの悪夢を呼び覚ます。


 ちなみにヘレナとノヴェルは控えめにすると言い張っているのに、お腹の大きさは三倍くらいに膨れている。


 毎回こういう時に、わたしが二人に食べさせてないみたいな気持ちになるのは何故だろう。あれ……やっぱりわたしはこの娘たちの保護者なのかしら。ノヴェルはともかく、ヘレナにはお世話になりっ放しなのにね。


 寮に戻ると、ヘレナが宮廷で貰って来たお土産の料理をエルミィに渡す。


 眼鏡エルフの醸し出す空気が悪いのは、メネスが嘔吐したせいじゃないよね。


 エルミィの頬に赤いこぶしの後がある。そして王女さまが同じように両頬を赤く腫らして、ぐったりしていた。わたしたちの出かけた後にやり合ったのまるわかりだわ。


「……エルミィ、一応弁解は聞くけどさ。二人の喧嘩の原因は何かしら」

 

 とりあえずヤムゥリ王女さまの意識を戻す。ヘレナが残って入れば仲裁してくれたと思う。でも、いつも仲悪いとわたしたちも困るので、あえて一緒にして放置したのよね。


「声が聞こえる──声が聞こえたぁって煩いからさ。吸音しようとしたら、キレるんだもん」


 エルミィにしては、感情を吐き出して怒っているみたいね。王女さまとは過去の因縁もある。わたしに対してもやり過ぎるから、最近は抑えてくれてるのよ。


「────なんでわかってくれないのよ、馬鹿眼鏡!!」


 ……って叫んだ瞬間、ヤムゥリさまは眼鏡エルフの魔力で再び意識を飛ばされた。エルミィは、普段はヘレナ以下に魔力も抑えている。魔法の使い方もわたしより操作は上手なのよね。


 眼鏡エルフはフレミールやノヴェルに次いで魔力総量がある。寿命の長いエルフにも成長期があるようで、ティアマトを上回った。エルミィが成長期なのは、実年齢がわたしたちと変わらないくらいだからかしら。本人よりもエルミオ先生に聞いた方が早そうね。


 もう一度王女さまを気絶から戻すため、いったん口を塞ぐ。興奮するとわたしを殺しにかかるから、落ち着くまで待つ。


「ん゛ーーん゛っー──」


 わたしならわかるでしょって、目バキバキに見開いて唸っている。口を塞いだからわかるわけないじゃない。でも、王女さまが何を知らせたいかはわかった。


「‥‥王女さまが聞こえてる声って、多分これよ」


 それはロブルタ元王妃の禍々しい魔晶石だ。この元王妃様も、わたしの事を殺すっ殺してやるっ! と、呪詛が激しいのよね。


 希少な呪いの魔晶石を得られるのは良いのよ。でも呪いが強いから置き場に困ったわけ。それで一番保管しやすいのが吸音装置のある王女さまのベッドの下だっただけの話だ。


 ────うん、先輩の黒パンで封印したまま忘れていたわ。呪詛だから吸音程度では抑えきれなかったようね。


「うわっ‥‥なにこれ、前より酷くなってない? こんなのずっと聞かされていたら頭おかしくなりそう」


 エルミィが、王女さまが煩い原因を知り衝撃を受けていた。

 

「そうかしら、最初からそんなものよ。わたしが持つと喜んでもっと激しくなるのよ」


 好きなのにキツく当たる捻くれもののアレよね。それにしても騒音というか、心理的な嫌悪感が酷い。


 わたしは試しにヒョイッと元王妃様の魔晶石を手にする。禍々しい魔晶石の呪詛が溢れて、さらに呪いの言葉が強くなった。エルミィが長い耳を塞ぐ。残念ながら呪詛は物理的には防げないわよ?


「──カルミアは平気なのか」


 ティアマトがとても嫌そうに魔晶石を見る。腐った臭いに感じるようで、鼻をつまむ。


「この程度の呪詛なら可愛いものよ。不死者の王(ワイトキング)の呪いの王冠とか、呪殺で生命を落とすくらい強いわよ」


 触れたら死にます系は、錬金術に使うにも錬金釜が呪われてしまい使いものにならなくなるので嫌がられる事が多い。


 フレミールのような魔力の高い魔物が、怨みを持って死ぬときなんかは最悪よ。死黒竜(デスドラゴン)腐界竜(ディケイドラゴン)とか呪滅竜(カースドラゴン)などがいて、溢れ出る魔力で周囲の環境まで変えちゃうくらい強力だからね。


「さすがに呪殺が得意な知り合いはいないのよね。完全封印してしまうと、素材になる魔晶石が採れなくなるのも痛いのよ」


 希少な呪石を安定供給出来る事なんてめったにない。いまの内に先輩を中心に、呪い系統を完全に防ぐアイテムをつくっておきたいのだ。その素材として元王妃様の魔晶石を使おうと思ったのに、呪いの力が強過ぎて、いまのわたしには制御出来なかった。


「いや君の考え方が、おかしいからじゃないか」


 仲間たちがみんな、わたしを頭のおかしい娘を見る目で見た。わかってないわね、先輩もみんなも。呪い殺そうとするほど憎んでくれる呪詛があるのだから、そんじょそこらの術師のチンケな呪いなんか跳ね除けてくれるわ。


 ────最凶は「最強」なのよ、わかるかしら。

 

「その前に‥‥その強力な呪いに殺されないでいる方法があるのだろう? ならば守れる力を使うべきで、呪われたものを使う意味がないではないか」


 そう言われるとそうなんだけどさ。先輩につけておけば、元王妃様が張り切って魔晶石を量産してくれそうなのに残念だわ。


「……業の深いやつよのう」


 フレミールはまったく呪詛を意に介していないみたいで、呆れたように呟いた。


 仕方ないじゃない。みんなで採って来てくれた金塊が、全部装備品に使われて残らない計算なんだもの。


 売れるものがほしいのよ。ヘレナとノヴェルに毎日お腹いっぱい食べさせたいのよ。ひもじいよぉぉぉ……みたいにされるのは嫌なのよ。


 元王妃様の魔晶石については、もう一つ小さな檻を作ることになった。外に呪いの言葉を撒き散らさないように、フレミールが結界を張った。


 適度に魔晶石が取れるし、内部の吸音装置を外せば一応会話? も出来る。


「それで、カルミアの事だからわざわざ元王妃の魔晶石を出した意図があるんでしょ」


 誤解とわかりエルミィがヤムゥリ王女さまを抱えて、謝りながら頭を撫でる。力の差を見せつけられてからの頭撫でって────精神的にも支配下に置くつもりよね、この娘。恐ろしい眼鏡エルフの計算高さを見たわ。わたしは一方的に悪もの扱いされる追撃付きだし。


「暗殺者が入りこんでるのよ。それも複数」


 狙いは当然わたしたちだ。フレミールの留守‥‥つまり今回、部屋の中に催眠魔法をかけて侵入しようとした形跡があった。


 部屋にいたメネスは無防備だったので、泥酔に追撃をくらった感じだ。酔っていても装飾品を律儀に外して寝るから掛かってしまったとも言う。真面目ちゃんの無意識の弊害よね。


 エルミィ達は喧嘩中だったものの耐性が元々あるし、装飾品は身につけていたから平気なようだ。


「暗殺者が彷徨(うろつ)くのなら、帰郷するの駄目かな」


 ヘレナが寂しそうに言う。頼れる仲間をお父さんに紹介するんだって、張り切っていたからね。


「まあ、でもヘレナの実家には行くわよ。ここにいるとまた建物を壊されるかも知れないからね」


 街中でも王宮でも、わたしたちがいる所で迷惑をかけたくない。どうせなら道中で迎え討って一掃して、ヘレナの実家ではのんびりさせてあげたいわ。


「先輩の護衛にはルーネにメネスとシェリハをつけましょう。王家から依頼を出して、冒険者ギルドからタニアさんに来て貰えれば少しは安心ね」


 ルーネは別として、交代で最低一人が必ず先輩の側にいるように備えておく。護衛騎士もいることだから、王宮なら安全なはず。


「君は何を言っているのかね。僕も一緒に行くに決まっているだろう」


「先輩こそ、何を言っているのよ。仮にも跡継ぎの王子さまが、田舎騎士の家に遊びに行けるわけないじゃないですか」


 どっちが狙いなのかはっきりさせたいのだから、大人しく王宮で王子さまらしく引きこもりましょうね、先輩。


 バチッと先輩と目が合う。甘やかしては駄目だわ。こんなに目立つ旗頭を掲げて、旅をするなんて暗殺者以外の敵まで来ちゃうもの。


「飛んででも行くぞ」


「残念ね、そう言うかと思って先輩の胸当ては防御重視のものに変えてあるわ」


 飛べない水鳥(ガーガー)から発想を得て、装甲重視仕様を検討したのよね。重装備は無理なので、衣類による強化を施してみたのだ。本命が先輩の方だった時‥‥襲われて逃げるのため、空に飛ばれた日にはいい的だからね。


「ふふん、それくらい読んでいたさ。君を締め落としている間に、予備に作ったものをすり替えてあるのさ」


 ──ぐっ、この先輩、王族のくせに手癖が悪いわ。まあ先輩にあげるものを先輩がすり替えただけなので、犯罪でも何でもないのが悔しい。

 

「面倒事を知らない所で起こされるなら、連れていくしかないぞ」


 ティアマトが正論でぶった切った。起こすよね、騒動。ニンマリと微笑む先輩。


 もう、隠しても駄目よね。それならいっそ乗り物も馬も、護衛も派手に連れて行きましょう。

 

 馬車はね乗り合い馬車なんかの馬は、重馬とか言うのかしらね。戦闘用の馬に比べると、大きくて力はあるけど遅いのよ。


 馬車の乗り心地も、クッションの問題より姿勢が辛い原因だと個人的に思うわけよね。


 異界の馬車は馬がいないし、荷台が反重力で浮くのもある。もっと高度な世界なら転移門を使うそうね。


 フィルナス世界は冒険や探検を楽しむ為の世界でもあるから、便利過ぎる魔法はあえて使わないそうね。でも、ないわけじゃないし、広い国だと使う所もある。

 

 異界人が自慢気に誇る知識も、そもそもの発祥はこちらにあったりするのよね。懐炉の時に思ったけれど、異界って魔力が枯渇して少なくなったから退化しちゃったのかもしれない。


 おじいちゃん先生やエルミオ先生みたいなタイプの異界の人がいれば話しが早いのに、召喚で呼び出された異界人や悪魔や天使はろくでなしばかりだそうだから難しいかな。


 先輩が喜びのあまり、首を締め付けわたしが落ちるまで、わたしは本で得た知識から発想になりそうな物を探し続けた。

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